表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/43

Lv19 攻略組について




 俺たちは一度ログアウトして、深夜になってから竜の里の和室に集合した。


 オークションの結果が出るまで後一時間。

 俺たちはワカナさんが設置してくれた簡易版の掲示板から、出品した竜刀・日炎がいくらで落札されるのかを見守っている。


「さてさて、どこの攻略組ギルドがいくらで落札してくれるかしら」


 楽し気に掲示板を操作するワカナさん。

 ネカマの件でずっと不機嫌だったけど、オークションの話をしたら機嫌を直してくれた。終わった後が少し怖いけど…まあそれはいいとして。


「ワカナさんって攻略組に詳しいのか?」


「うーん…そこそこね」


「じゃあ聞きたいんだけど、攻略組のギルドってどんなのがあるんだ?」


 結果が出るまでまだ時間があるから、このゲームに詳しいワカナさんからいろいろ教えてもらおう。俺は自由界についても、攻略貢献値についても、攻略組についても詳しく知らない。


「そうね~」


 ワカナさんは手慣れた手つきで掲示板の画面を切り替える。


「このリストを見て。これが攻略組を代表する大御所ギルドよ」


 その画面にはFOO最大のダンジョン“自由界”の制覇を目指す、攻略組ギルドの紹介ページが載せられていた。


――――――――――――――――――――

“神々しき獣”

 構成員1000人、攻略組最大のマンモスギルド。みんなで力を合わせて楽しく攻略する仲良し集団。


“六星王”

 人数がものを言うこのFOOで、たったの六人で攻略組上位に食い込む少数精鋭。


“七聖戦士団”

 厳しい入団試験によって選ばれた精鋭だけで構成された、真の攻略組と呼ぶに相応しい軍団。


“オズの支援隊”

 装備のレンタルや兵士の派遣、攻略支援に特化した援護部隊。一位の座よりもゲームクリアが目標。


“愚者の集い”

 ギルド員同士でも蹴落とし合いは日常茶飯事、仲間ではなくライバル同士で構成された殺伐組織。

――――――――――――――――――――


「この五つのギルドが“五大攻略ギルド”と呼ばれていて、このギルドに所属するプレイヤーの誰かが攻略貢献値一位でゲームをクリアすると期待されてるの」


 もし自由界を制覇したら、最も活躍したプレイヤーに運営から特別な賞品が贈られる。だから世界中のプレイヤーが自由界に挑戦しているんだ。


「でもこのゲームには一千万人もプレイヤーがいるんだから、他にも攻略組ギルドはたくさんあるだろ?」


「あるにはあるけど…この五大ギルドだけ次元が違うから脱落者が多いのよ。それに一千万人の中で自由界攻略に専念するプレイヤーなんて数える程度。大半のプレイヤーは自由気ままに遊びながら、どのギルドがゲームをクリアするか観客気分で眺めてるの」


「へぇ~」


 このゲームの遊び方は多種多様、自由界を攻略するだけが全てではない。俺みたいにのんびりアイテムを制作したり、冒険したり…そんなプレイヤーの方が多いみたいだ。


「動画投稿ギルドがボス戦の実況をやってるから、その時がきたら観戦しようか」


「お、いいなそれ」


 俺も観客側として、最強の攻略集団がどんな戦いを繰り広げているのか是非とも観戦したい。


「それにしても…よく頑張れるわね、あいつら」


 五大ギルドの情報を見つめるワカナさんは、どこか懐かしんでいるように見えた。もしかして…この五大ギルドのどこかと関わりがあったのかな?


「もしかしてカナちゃん、五大ギルドと関わりがあったの?」


 気になっていたことをアヤが質問してくれた。


「まあね…一緒に自由界に挑んだこともある。レッドネームになってからは全員と縁を切ったけど」


「へぇ~カナちゃんは元攻略組だったんだ」


「いや、支援組よ」


 するとワカナさんから聞き慣れない単語が出てくる。


「支援組ってなんだ?」


「攻略組をサポートすることに特化したプレイヤーの呼び名よ。私は貢献値なんかに興味なかったからね」


 そんな組もあるのか…一位を諦めて攻略組を援護するなんて、謙虚な集団だな。でもその方が変に気負うことなく自由界の冒険を楽しめるのかな。


「カナちゃんはまた支援組に復帰するの?」


 俺の疑問に答えた後、アヤが話を再開させる。


「冗談。少なくとも私は、二度と攻略組に関わりたくないわね」


 そう言って顔を歪めるワカナさん。

 やっぱりワカナさんは攻略組と関わるのを避けたがってる。PKが起きた時、具体的に何が起きたのか…気になるけどこれ以上あれこれ聞かない方がいいな。





「…久しぶりに情報を確認したけど、今の攻略組の環境ってかなり変わったのね」


 しばらく最新の情報を流し読みしていたワカナさんが意味深なことを呟く。


「環境?」


「流行り、主流と言った方が一般人には分かりやすいわね」


 ゲーム用語に関して無知な俺に、ワカナさんは事細かく説明してくれる。


「ワカナさんが攻略組を離れていた半年間で、その環境が変わったってことか」


「ええ…なんか今日、五大ギルドのリーダーたちが集会を開いてるらしいのよ」


「集会?五大ギルドってちゃんと交流があるんだな」


 攻略組は誰がより多くの貢献値を獲得できるかの競争だ。ギルド員同士でもライバルなんだから、ギルド関係なんてもっとピリピリしていると思ってた。


「そこが昔と違うのよ」


 と思いきや、ワカナさんは呆れたように言い放つ。


「…つまり昔はそんな仲良しではなかったと?」


「その通り。リリース当初…このFOOは協力するゲームじゃなく、競争するゲームだと思い込むプレイヤーばかりだった。誰が貢献値一位の座につくかで醜く争い合ってたの」


 ワカナさんは淡々と語り出す。


「直接的な妨害はペナルティがあったから誰もやらなかったけど、ボスのトドメを横取りしたり、嘘の情報でライバルをかく乱したり…とにかくプレイヤー同士が険悪だったの」


「当初はそんなに劣悪だったのか…」


 もしかしたら…そんな争いの中で、ワカナさんは誰かに嵌められてPKになったのかもしれない。


「じゃあなんで今は普通に交流してるんだ?」


「なんでも自由界50階層から、難易度が急上昇したらしいのよ」


「ん?そりゃ上の階に行けば行くほどモンスターも強くなるだろ」


「いや、もう50層からは格が違うのよ。今の自由界の攻略済み階層は56層…私がPKで攻略組を抜けた時は46層まで進んでたのに、この半年で10層しか進んでない」


 前半の半年で40層以上も攻略しているのに、後半の半年でたったの10層しか攻略が進んでいない…確かにその進行具合は異様だ。

 30層のモンスターなんて、俺でも戦えるほどの難易度だったのに。


「つまり自由界の攻略が難しくなったから、足の引っ張り合いを止めて手を取り合ったと」


「そういうことみたいね。“オズの支援隊”ってギルドが中立になって、いくつかの取り決めを交わしつつ攻略組をまとめるようになったの」


「なるほど…」


 この半年で()()()()()()から()()()()()()に変わったってことか。


「この“愚者の集い”ってギルドは私が活動してた頃にはなかった。このギルドが生まれたのは、難易度上昇が原因ね」


 ワカナさんは攻略組ギルド“愚者の集い”のギルドページを開いた。


「やっぱり…メンバーリストには見覚えのある名前ばかり」


「どういうことだ?」


「当時の攻略組は、流行っていたアニメに影響されてソロで活動するプレイヤーが多かったの。それに一人なら賞品を争うことなく独り占めできるから、利点はそれなりにあった」


 そっか…賞品がある以上、争いが起きるのは必至。だったらソロで頑張った方が平和的だ。


「でもこれまでソロで活躍してきた少数の精鋭たちが、50階層で次々とゲームオーバーになっていった。だからソロ攻略を諦めて徒党を組み“愚者の集い”を立ち上げたみたい」


「…」


 これが攻略組…なんて過激な世界なんだ。興味本位で足を踏み込んでいい領域じゃないな。

 




 オークション終了まであと数分。


「今更なんだけど、俺が出品した竜刀ってそんなに強いのか?」


 最後に気になったのは竜刀の性能についてだ。

 竜刀なら俺も使ってるけど、世間が騒ぐような性能があるとは思えなかった。ワカナさんと戦ったクリスタルゴーレムには歯が立たなかったし…


「分かりやすく比較できる武器が、情報掲示板に出てるわよ」


 ワカナさんは掲示板を操作して、二つのテキストを表示させた。


「まずこれがヨウカが出品した竜刀ね」


―――――――――

【竜刀・日炎】

階級    一級作品

種類    大太刀

攻撃力   910(+200)

切れ味   300

耐久力   ×××

重量    200


【スキル】

・炎竜の爆炎

[攻撃に爆炎を付与する]

・炎竜の剛鱗

[この刀は折れない]

―――――――――


「次にこの武器が、攻略組のエースが愛用している武器よ」


―――――――――

【獣王の雷剣】

階級    一級作品

種類    大剣

攻撃力   870(+100)

切れ味   210

耐久力   270

重量    240


【スキル】

・獣王の雷牙

[攻撃に轟雷を付与する]

・活性化

[筋力が上がる]

・獣の危機感知

[回避時のみ、速度が上がる]

―――――――――


「比べれば分かるでしょ…竜刀は全てのステータス数値を上回ってる。スキルも希少なレアスキルばかりだし、この性能なら一級じゃなくて特級でもいいくらいよ」


「そんなにか…」


「このゲームは装備の性能でステータスが決まるから、攻略組を名乗るなら何としてでも手に入れたいでしょうね」


 やっぱりレアアバターが生み出す武器は特別なんだ。俺が竜刀を強いと思えないのは、ただ使いこなせてないだけ?


「といっても、装備やスキルで実力が決まるほどFOOは単純な世界じゃないけどね」


 ワカナさんはさらに続ける。


「攻略組にいる()()()()って奴は、レアアイテムに拘らずプレイ技術だけで“最強のプレイヤー”と称されているのよ」


「そんな奴がいるのか…」


「それだけ技術とセンスが重要ってことね」


 技術とセンスか…俺がこの竜人の力を使いこなせる日は来るのだろうか。


「あ、ヨウくんカナちゃん。そろそろ落札の時間だよ」


 アヤが掲示板を指差す。


 いよいよだな…それにしても、こんな時なのに五大ギルドのリーダーたちは集会を開いてるんだよな。どんな会話をしてるんだろう? 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ