Lv1 ゲームスタート
【FOO (ファンタジー・オーダー・オンライン)リリース一周年記念テレビCM】
ファンタジー・オーダー・オンライン。
それは最新鋭の機能を搭載したフルダイブ型VRゲーム。ゲームのスイッチを押すだけで、誰もが憧れる雄大なファンタジー世界を自由に冒険できるぞ!
このゲームの特徴は、職業の全てが道具を作る職人であることだ!鍜治屋、薬剤師、建築家、料理人、スキル職人となんでもあり。自分だけの自慢のアイテムを作ってみんなとシェアしよう!
強い装備が揃ったら、世界中のプレイヤーと協力して謎のダンジョン“自由界”を攻略しよう!クリアできたら、最も活躍したプレイヤーにゲーム制作者から豪華賞品が贈られるよ!
アバターは自分の分身みたいなもの。
装着したVRが君の顔を読み込んで、そこから自由にメイキングが可能なんだ。性別は変えられないから注意だぞ。君も今すぐ異世界デビューしよう!
ファンタジー・オーダー・オンライン、全世界にて好評配信中!
※
俺は名乗るほどの者ではない、どこにでもいる普通の男子高校生だ。
取り柄無し、長所無し、彼女無しの平均で平凡な一般人。だからといって主役になって目立ちたいなんて願望はない。普通でいいじゃないか、普通最高。
そんな俺は今日“ファンタジー・オーダー・オンライン”をプレイする。
このゲームは世界的に有名で、今もっとも注目されている最新鋭のVRゲームだ。そのクオリティーの高さは、まるで本当にファンタジー世界へ迷いこんだような体験が出来る。
俺はテレビゲームなんてほとんどやったことがない初心者だ。初めてのゲームで不安もあるが、公式サイトと攻略サイトで猛勉強した俺に抜かりはない。
「よ…これでいいのか?」
俺は自室でVRを装着する。
すごい時代になったな…こんなのSF映画の世界だけだと思っていた。
「よいしょ」
VRを装着したらベッドで横になる。
これで電源ボタンを押せば、ゲームスタートだ。
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~ファンタジー・オーダー・オンライン~
ロード
ニューゲーム
設定
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おお、視界いっぱいに広がるゲームの世界。
このわくわく感は現実では決して味わえないぞ。
えっと、ネットの攻略サイトによるとまず設定で操作性や輝度とかを調整するんだったな。ゲームは最初が肝心、しっかり設定しておくぞ。
………よし、これで大丈夫か。
設定が終わればいよいよニューゲームだ。
『名前を入力してください』
名前か…実名はダメなんだよな。
じゃあ自分の名前を捻って“ヨウカ”にしよう。
『種族を選択してください』
種族は四つ。人間、エルフ、ドワーフ、獣人がある。
初心者ならバランスのいい人間か、体力の高い獣人がおすすめってネットに書いてあったっけ。ここは無難に人間で行くとしよう。
『職業を選択してください』
職業の選択。
これがこのゲーム最大の特徴だ。
ファンタジー・オーダー・オンラインにはファンタジーの定番である剣士や魔法使いといった職業は存在せず、アイテムなどを制作する職人しか存在しない。
そして選べる職業は数千以上もある。
例えば武器などの鍛冶を選ぶにしても、鍛冶には様々な分岐がある。剣を作るか、銃を作るか、鎧を作るか、アクセサリーを作るか…ピンポイントで決めなければならない。だがこの職業は後から新たに習得して増やすことが出来るから、深く考えず自由に決めていいらしい。
だから俺は無難に“剣”の鍛冶師を選択した。
『キャラクターを作成してください』
最後はキャラメイキングだ。
初期キャラクターはVRが自分の顔を読み込み、その情報を元にベースが決まる。だから性別を偽ることは出来ない。だがメイキングの自由度は高く好きな顔に変えられる。
現実の俺は冴えない顔してるから、なるべくイケメンにしたいものだ。
………
……
…
出来たけど……かっこいいのかな、これ。
なんか何がいいのか分からなくなってきた。
もうこれでいいや。
設定だけで一時間以上は費やしてるぞ、そろそろゲームの世界に入りたい。
『冒険を開始しますか?』
ようやくここまで来た。
迷わず“はい”と答える。
俺のプレイスタイルはひたすらまったりだ。
最新のVRを体験しながら、ファンタジーの世界をのんびり堪能しよう。
ゲーム内では誰が“自由界”というダンジョンを攻略して貢献値一位の座につくかで盛り上がっているらしいが、俺は一周年でゲームを始める新参者。基礎知識もない俺が主役のような活躍ができるとは思っていない。
そもそも俺は競うことが好きじゃない。
平和的にゲームを楽しみたいんだ。
「さあ、ゲームスタートだ!」
全ての設定ウィンドウが閉じると、視界は暗闇に閉ざされた。