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Lv15 ハンナリからの依頼




 PK (プレイヤーキラー、プレイヤーキル)

 それはプレイヤーが別のプレイヤーをゲームオーバーにしてしまう行為だ。断言できるが、それは褒められた行為ではない。MMOの中にはPKを容認しているものもあるが、大半のゲームでは忌み嫌われる蔑称である。


 このファンタジー・オーダー・オンラインも例外ではない。


 自由界というダンジョンで攻略貢献値の競い合いが繰り広げられている中でも、他人のプレイを侵害し迷惑をかける妨害行為は容認されない。


 そんなPKに対して、ゲーム側はしっかりと対策している。

 プレイヤーの攻撃によってプレイヤーが受けるダメージは半減され、プレイヤーからの攻撃を検知するとアラームが鳴り危険を知らせてくれる。さらに妨害行為を繰り返すと“イエローネーム”PKの前科があると“レッドネーム”と名前の色が変わり、その者は罪人として周囲から軽蔑される。そしてPKを何度も繰り返すようなら、FOOの世界から永久追放されてしまう。


 そんな対策もあって、このファンタジー・オーダー・オンラインの世界でPKを企む輩はほとんどいない。





 …と、ハンナリさんからPKについて事細かく説明された。


「それでね、私の友達のワカナって人はPKをやらかしちゃったんだ」


「…」


 プレイヤーキラーか。

 人がゲームを楽しんでるのに、それを妨害するなんて信じられない行為だ。ネカマよりも罪の重い所業だぞ。


「これが過去に起きたPK事件の詳細だよ」


 更にハンナリさんは、そのワカナという人が起こした事件の記事を見せてくれた。写真まで付いてる…顔はよく見えないけど、この赤い着物の女性がワカナだな。


“一発で人を狩るために魔法を極めた魔女”

“同時に二人のプレイヤーをキルした大罪人”

“目に入ったものを焼き尽くす異常者”


 書かれている内容はどれも酷い。

 それだけPKの罪は重いということだ。


「それで…私がヨウカさんに頼みたいことは、この悪質なPKのワカナをヨウカさんのパーティーに入れてほしいってことなんだけど………どうかな?」


 ハンナリさんは不安げな眼差しを俺に向ける。その様子は、初めて会った時に近いものがあった。


 何か深い事情がありそうだけど…取りあえず俺から言えることはこれだ。


「まず、そのワカナって人に会ってみたいです。それで仲良くなれそうなら一緒にパーティーを組みたいですね」


「え…相手はPKだよ?抵抗はないの?」


「PKだろうが何だろうが、会って話してみないと何とも言えないですよ」


 記事とか噂とか他人の評価とか、そんな上っ面の情報だけじゃ人を測り切ることは出来ない。百聞は一見に如かずだ。


「それにハンナリさんが紹介する人ですから、是非会ってみたいです」


「お姉ちゃんの友達なら私も仲良くなりたい!」


 俺の言葉に追随してアヤはそう答えた。

 アヤはそこまで深く考えてないようだけど、俺と同意見のようだ。


「………」


 するとハンナリは急に俺らから顔を背けた。


「どうしました?」


「いや…ネットの魑魅魍魎を見てきた私には、二人が眩しすぎてね…」


「?」


 よく分からないけど…いろいろ苦労してきたんだろうな、ハンナリさん。





 こうしてワカナさん勧誘作戦の話し合いが始まったわけだが。


「それで、そのワカナさんはいつここに呼ぶんですか?」


「いや…ここには呼べない」


「どうしてです?」


「私からワカナに連絡を入れるのはちょっと気まずいんだよね…だからまず、私抜きで会ってほしいの」


「…」


 装備制作のことになるとグイグイくるハンナリさんが弱腰になっている。いったい二人の過去に何があったんだろう…


「じゃあ、ワカナさんってどういう人なんです?」


 それならもっとワカナさんについて知っておきたい。性格はどうとか、趣味はどうとか…本当に悪質なPKなのかとか。


「今は話せない」


「ど、どうして?」


「ヨウカさんには詳しい事情を何も知らないで、なるべく偶然を装ってワカナに会ってほしいの」


「…つまり何も知らないふりをしろと?」


「そうそう」


 なんでそんな回りくどいことを…?


「ワカナがよくこの時間帯に一人で遊んでる場所があるから、そこに行けば会えると思う」


 ハンナリさんからワールド座標が書かれたメッセージを貰う。


「わかりました…じゃあ行ってみるか、アヤ」


「うん!」


 俺とアヤは早速、そのワカナさんがいるであろうワールドへ転移しようとした。


「ちょい待ち!」


 するとハンナリさんに手を引かれた。


「ヨウカさん一人で行ってきてほしい」


「え、なんでですか…?」


「ワカナには妹の話をしたことあるし、アバターの見た目も似てるから気付かれると思うの。私の妹にお願いされたから仕方なく…そんな感じで関係を始めて欲しくない」


「…」


 ハンナリさんの魂胆はなんとなくわかった。

 俺とワカナさんが関わり合うきっかけに過去の嫌な思い出とか、ハンナリさんが抱えているものを混入させたくないのだろう。


「でも、俺一人でどうすれば?」


「まずワカナと会って話して、冒険に誘ったりしてみて。いきなりパーティー勧誘を成功させようなんて考えないで、地道に距離を縮めていこう」


 念入りな作戦だ…それだけワカナさんの勧誘を成功させたいということだ。


「なら一人で行ってきますけど、あまり期待しないでくださいよ?」


「大丈夫!私と最初に会った時のようにすれば、ヨウカさんならきっと上手くいく」


「………」


 ハンナリさんは俺の何に期待してるんだ?


 いや、諸々の事情を深く考えるのは後回しにしよう。

 要するにワカナさんと会って、一緒にゲームを楽しめばいいんだ。まずどう話しかけようかな…近くにダンジョンでもあれば、冒険に誘えて話は早いんだけど。

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