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Lv14 報告会




 初めての冒険を終えた次の日、俺は“和道の装”に来ていた。


「へぇ、得られるステータスポイントが多いんだ…」


 今はアヤと二人で、昨日の冒険で得た収穫をハンナリさんに伝えている。

 レベルアップで得られるポイントが多かったこと、装備の使い心地は好調だったこと、竜の里の平原で珍しい発見がなかったことなどなど。


「だったら装飾品は補助よりもスキル重視で考えてよさそうね」


 話し終えると、ハンナリさんは真剣な表情で俺のための装飾品を検討してくれている。

 

「あの…強さには拘わってないので、そんな考え込まなくてもいいですよ?」


 俺は攻略を目指しているわけじゃないから、そこまで強さに執着していない。ステータスもわざわざ竜薬を使って微調整するつもりもないし。


「作るからには拘りたいじゃない、デザインも性能も」


 ハンナリさんの意思は変わらず。

 相変わらず拘りの強い人だ…好きでやってるみたいだし、本人のやりたいようにやらせよう。


「そういえば、今日はお客さんが来てますね」

 

 いつもガラガラな和道の装だけど、本日はそこそこ人が来ていた。


「私もぼちぼち活動を再開させようと思ってね、和道の装のギルドページを更新して見つけやすくしたんだ。もっとも他の防具専門ギルドに埋もれてるから、気付いてくれる人は少数だろうけど」


「へぇー人気出るといいですね」


「いや、目立たず細々とやっていくつもりだよ」


 ハンナリさんは困った笑みを浮かべる。

 アヤから聞いたけど、和道の装のお客が少ない原因はハンナリさんが一時期ゲームから身を引いていたかららしい。過去に何があったのか気になるけど、どうせ地雷だろうから詳しく聞くのは止めておこう。


 それともう一つ気になるのが…


「…なんか俺、周囲から注目されてません?」


 気のせいではないと思う。

 だって店内を見回すと、かなりの確率で人と目が合うんだもん。


「ヨウカさんが美少女だからだよ。しかも私の傑作を装備してるから、ただ者じゃないオーラが滲み出てるよ」


 自分が手掛けたんだから当然、と誇らしげなハンナリさん。


 格好良くなるのは構わないんだけど…レアアバターであることがバレてしまう危険が増えるから、あまり注目されたくないな。後でハンナリさんにお出掛け用の地味な装備でも依頼しようかな。


「…ところでヨウカさんの一人称って“俺”だったんだ」


「!?」


 やばい、つい男口調で話してしまった。


「ええっと…これは…」


 まずい…ハンナリさんにはネカマであることを隠した方がいいとアヤから注意されているのに。今から言い訳して何とかなるか?


「そういうキャラでロールプレイしたいんだよ。ね、ヨウくん」


 そこでアヤが会話に割って入ってくれた。


「なるほど…男勝りの竜姫ちゃんね、いいじゃない!私もそんな感じのイメージで着物をデザインしたから嬉しいよ」


 ハンナリさんはうんうんと納得している。


 どうやらハンナリさんは、俺が“男勝りの竜姫”というキャラを演じていると思ってくれているようだ。


(これでお姉ちゃんの前でも普段通りにして大丈夫だね)


 アヤが親指を立てて、俺だけに聞こえる会話機能を使って意思を伝えてくる。俺も同じ機能を使って返事せねば。


(ありがとう、アヤ)


 ふう…機転を利かせてくれたアヤに感謝だ。


「仲良くなったね、二人共」


 そんな俺とアヤのやり取りを見て、ハンナリさんは嬉しそうに微笑む。ネカマだとバレた時、その笑顔が嫌悪で歪むことになると思うと胃がキリキリする。


「それで、初めての冒険は楽しかった?」


 ハンナリさんは頬杖をついて、冒険の感想を求めてきた。


「楽しかったです!やっぱりすごいですね、このゲーム」


 迷わずそう答えた。

 まだ大したことはやってないけど、すごく楽しかった。このFOOが世界的に人気なのも頷ける。


「アヤはどうだった?」


「楽しかった!ゲームの先輩になれるって気持ちいいね」


 アヤからすごい先輩風が吹いている。

 でもよかった…ちゃんと楽しめてて。俺が足を引っ張ってばかりで、アヤは満足に楽しめてないんじゃないかと心配だったから。


「その調子で、私らはまったりゲームを楽しもう」


 ハンナリさんは穏やかな口調でそう告げる。

 結局、ハンナリさんも攻略には興味ないんだな…





「それでヨウカさん。冒険の中で足りないと感じたものとか、何か欲しいものはある?」


 報告会を終えて、次は今後の活動についてを話し合うことになった。


「欲しいものですか…」


 足りないものならいくらでも思いつくけど、欲しいものを優先するなら…


「仲間ですかね」


「ほう」


 俺が欲しいもの、それはパーティーメンバーだ。アヤと二人きりでも十分楽しいけど、もっと仲間を増やして賑やかに冒険したい。


 だからまずハンナリさんの勧誘を試みてみよう。


「ハンナリさんはどうですか?作ってばかりじゃなく、一緒に冒険へ出たり…」


「うーん…お誘いは嬉しいけど、私には運動神経というか戦闘センスっていうの?そういうものが皆無だから、どうも冒険は苦手でね」


「そうですか…」


 苦手なことを強要することは出来ない…残念。そうとなるとレアアバターの俺が新しい仲間を探すのは難題だぞ。


「実はハンナリさんが魔法使いじゃないかと期待してたんですよね」


「ヨウカさん、魔法に興味があるの?」


「魔法ってファンタジーの定番じゃないですか。是非とも見たり使ったりしたいです」


 ここは剣と魔法のファンタジー世界だ。

 剣はそれなりに堪能できたけど、せっかくなら魔法も楽しみたい。


「私とヨウくんは前衛だから、後衛の魔法使いが仲間に加わればパーティーのバランスがとれるね」


 アヤも魔法使いの加入に賛同してくれる。

 俺たちは攻略には興味ないけど、竜の里を隅々まで探索できるくらいの戦力は揃えたい。新しい魔法使いを加入させれば冒険はかなり安定するだろう。


「ふむ…魔法使いね」


 ハンナリさんは腕を組んで考え込む。

 もしかして考え直してくれたかな。


「おーいハンナリ、久しぶり!」


 その時、一人のお客さんがハンナリさんに声をかけてきた。


「あ、久しぶりだね」


 ハンナリさんは手を振って迎える。

 どうやら知り合いのようだ。ハンナリさんはリリース当初からFOOをやってるから、それなりに顔が広いのだろう。


「復帰してくれて嬉しいよ。また攻略組に加わるの?」


 そのまま会話を続ける二人。

 黙って見守っていよう。


「いや、もう攻略組に関わるのはこりごりだよ」


「昔ほど今の攻略組はピリピリしてないし、ハンナリならみんな大歓迎だよ」


「うーん…」


「また一緒に高みを目指そうよ!」


 その人はやたらハンナリさんを攻略組に関わらせたがっている。ハンナリさんが困っているのに、頑固な人だな。


「やっぱり遠慮するよ。みんなに合わせる顔ないし」


「ハンナリは被害者でしょ!例のPK事件に巻き込まれて災難だったよね」


 …事件?巻き込まれた?

 何の話だろう…PKって何の略語だっけ。


「昔の話はしたくないな」


 ハンナリさんは少し強引に話を切り上げようとした。


「あ……ご、ごめん。じゃあ、たまに顔出しに来るね」


 その人は慌てて和道の装を後にした。


「…」


 しばらくハンナリさんは思い詰めた表情で俯く。

 なんだか気まずいぞ…


「ヨウカさん」


 ハンナリさんは顔を上げ、真っ直ぐな目で俺を見る。


「は、はい」


「あのね………ヨウカさんの新しい仲間候補として、ある人を紹介したいんだ」

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