Lv12 初めての冒険
俺とアヤは竜の里の外、広大な平原に到着した。
この平原にあるものは大きく分けて四つ…北の湖、南の山、東の森、西の荒野。今は中央の何もない草原に立っているけど、ちらほらとモンスターの姿が確認できる。
「よし…やるか」
俺は竜刀・陽華を鞘から抜く。
初めての戦闘だ、気を引き締めて行こう。
「そうだ、アレを試してみよう」
隣にいるアヤも竜刀・蜻蛉を抜刀する。
そして懐から小さな宝石のような物を取り出し、それを放り投げた。
「いでよ!」
アヤがそう叫ぶと宝石は砕け散り、小さな水の塊のような物体が生まれる。その塊は意思でもあるかのように動き、アヤのそばまで移動してきた。
「アヤ、それは?」
「私がテイムしてるスライムだよ」
「テイム…」
テイムっていうのは確か…“テイマー”と呼ばれる職業が使用する、敵として出現したモンスターを従わせることが出来るスキルだ。
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名前 クリアスライム Lv.5
必要職業 テイマー【水族】Lv.1以上
飼い主 アヤトリ
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これがゲーム界隈の定番モンスター、スライムか。
「しかもこのスライム、すごく希少なレアモンスターなんだよ。どんなに攻撃を受けても体力が減らない不死のスキルを持ってるの」
そう言ってアヤがスライムに竜刀を刺す。
ヒット音は鳴るもののスライムのHPゲージは減らない。
「へぇーよくレアモンスターなんて見つけられたな」
「えへへ、テイム専門のギルドで売ってたの」
「戦闘でも心強い味方になってくれそうだ」
レアアイテム、レアアバターが破格の性能を有しているんだ。このレアモンスターだって大活躍が期待できる。
だがアヤは首を横に振った。
「ううん…このゲームのテイマー職ってすごく不遇らしくて、テイムできるモンスターはみんな弱いみたい。このスライムも戦闘ではまったく役に立たないんだって」
「え、じゃあなんで買ったんだ?」
「綺麗で可愛いから♪」
嬉しそうにスライムを撫でるアヤ。
…やっぱりアヤも俺と同じ、攻略には興味のないのんびり組のようだ。肩に力を入れず好きな職業を優先して好きなプレイスタイルでこのFOOの世界を堪能している。
うん、俺たちはこれでいいんだ。
「確かにマスコットとしては魅力的だな」
俺もスライムに触れてみる。
ぷにぷにぽよぽよと良い触り心地だ。
「テイムしたばかりだから名前がないんだよね………よし、ヨウくんの竜人にちなんで“スラゴン”と名付けよう!」
アヤはスライムにそう命名する。
モンスターをテイムするのも楽しそうだな。他にもこのFOOには俺の知らない要素がたくさんあるだろうから、ゲームに慣れたらいろいろ挑戦してみよう。
※
「あ、モンスターがこっちに来るよ!」
そうこう話し込んでいると、アヤが正面を指さす。その先から犬型のモンスターが一匹こちらに近付いて来ている。
さて…最初の相手はいかほどのものか。
ウルフ Lv.5
…なんだ、全然大したことないぞ。
これなら俺でも勝てそうだ。
「いくぞ!」
俺は竜刀・陽華を構えウルフに振り下ろす。
しかし、あっさりと攻撃を躱された。
「うわっと…!」
しかも刀の重さで態勢が崩れてしまった。
「ガルル!」
ウルフは無防備になった俺に噛みつこうと飛びかかってくる。
「てい!」
そこでアヤが刀を振るい、ウルフは両断してくれた。
「大丈夫?」
「ああ…ありがとう、アヤ」
初戦から何という醜態…
今まで違和感なかったんだけど、戦闘になると刀や着物がやけに重く感じる。
「ヨウくん、もしかして筋力の数値が足りてないんじゃないかな?」
「筋力?」
「ステータスの筋力より装備の重量が高いと、その分だけ動きが遅くなっちゃうんだよ」
「あ…」
思い返してみたら、俺はまだゲームを始めて一度もステータスを弄ってなかった。初期ステータスのまま優秀な装備を扱えるわけがない。
「…悪い、一度撤退してステータスを見直していいか?」
「もちろん!一緒に調整しよう」
ぐぬぬ…初っ端からグダグダだな。




