Lv11 ヨウカとアヤトリ
初めての取引を終えた俺は、アヤトリさんと共に竜の里へ帰還した。
「ここがレアアバター専用のワールド…!」
崖の上から竜の里を見回すアヤトリさん。竜の里の話をしたら「行ってみたい!」と言うから、こうして招待してみたのだが…
「いろいろ探索してみよう!」
居ても立ってもいられないくらい興奮したアヤトリさんは、俺の手を引いて街に下りようとする。
「ちょ…ちょっと待ってください、アヤトリさん」
「私のことはアヤって呼んでいいよ」
「え?」
「それとパーティーを組むなら敬語も止めよう。これから私とヨウカさんはパートナーになるんだから!」
すっかり仲間になる気でいるアヤトリさん。
…言うなら二人きりの今しかない。
「その前に…自分にはまだ話していない重大な秘密があります」
「秘密?」
アヤトリさんは首を傾げる。
「じ、実は…」
俺は懺悔の気持ちで、自分がネカマになった経緯をアヤトリさんに打ち明けた。
………
……
…
「はえーヨウカさん、ネカマだったんだ」
俺の正体を知ってもアヤトリさんは平然としている。もっと驚かれたり、ドン引きされると思っていたけど…
「だから…その…ネカマなんかと関わりたくなかったら、今からでもパーティーを取り止めにしてもいいですよ」
「え?どうして?」
「だってネカマって嫌われ者だし…」
男が女性を装うネカマなんて、気味悪がられて当然の存在だ。だから嫌われても仕方がない…そう思っていた。
「でもヨウカさんは自分の意思でネカマになったわけじゃないでしょ?」
「それはそうだが…ゲームを続けてるのは俺の意思だし…」
「誰だってレアアバターを手放すのは惜しいよ。それにゲームの楽しみ方は人それぞれだから、ネカマでもいいと思う。現実とは違う自分になりきるのもゲームの醍醐味だよ」
「…」
「あ、でもお姉ちゃんには言わない方がいいかも…ちょっと男性に対して偏った考え方を持ってるから」
アヤトリさんはネカマの存在を否定するどころか、むしろ不本意でネカマになった俺を気遣ってくれた。
「じゃあ…一緒にパーティーを組んでくれるのか?」
「もちろん!こちらこそだよ♪」
アヤトリさんは俺の手を両手で握り、今まで抱えていた不安を吹き飛ばすような良い笑顔で答えてくれる。
「…」
心のつかえが取れ、俺は安堵の息を漏らした。
このゲームで最初に出会えたのがこの姉妹で本当に良かった…
「じゃあ…改めてよろしく、アヤ」
「よろしく、ヨウくん!」
ヨウくんって…その呼び方はどうなんだ。
※
「それじゃあまず、何からやろうか?やれることはより取り見取りだよ!」
無事パーティーが結成され、改めて今後の活動についてアヤと話し合う。
「そうだな…ちょっと平原の探索をしてみたいな」
まだ竜の里を探索しきれていないけど、せっかく装備と仲間が揃ったんだ。刀の試し斬りがしたいし防具の性能も確認したい。
それにこの広大な平原を見た時から、ずっと冒険心が疼いていた。
「いいね!行こう!」
アヤは二つ返事でオッケーしてくれる。
二人で冒険か…なんだか緊張するな。
「アヤってこのゲームを始めてどれくらい経つんだ?」
「まだ一カ月くらいの駆け出しだよ。レベルもようやく30に到達したばかり」
「そうか…平原のモンスターが強くなければいいけど」
ここは英雄専用のワールドだから、どんな手強いモンスターが出現しても不思議ではない。もし手も足も出ないようなら、平原の探索は諦めるしかないが。
「でも戦闘はレベルよりも装備の性能が重要ってお姉ちゃん言ってたよ」
「…確か攻略サイトにも同じことが書いてあったっけ」
このFOOは制作したアイテムがものを言うゲームだ。
俺らの武器は世間を賑わせている竜刀、防具はハンナリさん特製の和装と装備だけなら盤石だ。多少強いモンスターが相手でも戦えるかも。
「そういえばアヤの装備ってどんな感じなんだ?」
「えっと~」
アヤはウィンドウを開いて、装備のステータスを見せてくれた。
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【竜刀・蜻蛉】
階級 一級作品
種類 打刀
攻撃力 60(+60)
切れ味 60(+60)
耐久力 100
重量 30
【スキル】
・蟲竜の鎌
[コンボ数に応じて攻撃力と切れ味が上がる。コンボが途切れると数値は戻る]
・蟲竜の生命
[耐久力がなくなってもスキルが失われない]
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【和装・胡蝶蘭】
階級 一級作品
種類 着物
防御力 80
魔法耐性 300
耐久力 100
重量 20
属性耐性 地水火風雷氷
【スキル】
・蝶の舞
[速度が上がり、全てのモーションの硬直時間を減らす]
・舞い散る花びら
[物理攻撃を受けた時、自動で回避する]
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「防具はお姉ちゃんにお願いして速度特化にしてもらったんだ。ヨウくんから貰った竜刀も重量が軽い武器だから、防具との相性抜群!」
アヤの装備は俺のに比べて全体的に数値は低いが、重量が軽く面白いスキルが備わっている。
「私はとにかく素早さ重視!この広大な世界を駆け回りたくて、ステータスも速度に多く割り振ってるんだ」
「なるほど、それがアヤの拘りか」
拘りがあればゲームはより趣深いものになる。俺も戦闘スタイルくらい、しっかり決めておきたいな。
竜人だから攻撃特化にするべきか…
「何に拘るかは、いろいろ試しながら決めるといいよ」
悩んでいるとアヤからアドバイスをもらった。
…確かにそうだ。竜人だからじゃなく、アヤみたいに自分のしたいことを見つけるところから始めよう。
「そうだな…じゃあ平原に行ってみよう。初めての戦闘になるから迷惑かけたらごめん」
「大丈夫、フォローは任せて!」
こうして俺はアヤと共に、初の冒険へ出ることになった。




