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Lv10 新しい装備と仲間 □




 何だかんだあって俺は防具制作依頼の目標を達成した。それと同時に俺は、自分が制作した竜刀の価値を知ることになる。


 まさかあんな騒ぎになっていたなんて…


 もし一人であの記事を見ていたら、怖くなってゲームから逃げ出していたかもしれない。一緒に状況整理してくれたハンナリさんに感謝だ。


 防具の完成には一日かかるということで、その間に俺は和道の装のメンバーであるアヤトリさんにこれまでの出来事を話してみた。


「大変でしたね…レアアバターについては頼りにならないかもだけど、ゲームで分からないことがあったらいつでもお姉ちゃんや私に相談してください!」


 アヤトリさんは明るく励ましてくれた。

 もう一人で悩みを抱えなくてもいいんだと思うと嬉しくなる。これからも和道の装は心強い味方になってくれそうだ。

 

 …ただ問題が一つある。

 まだ二人に自分がネカマであることを話せていないことだ。


 味方になってくれる人に隠し事なんてしたくないし、やっぱり言うべきだよな…防具が完成したら打ち明けてみよう。





 後日、俺は再び和道の装へと足を運んだ。

 店に入るとハンナリさんに作業場まで案内された。ここでなら装備を脱ぐことが出来るんだとか。


「さあさあ、早速試着してもらおうかな」


 ハンナリさんは待ってましたと言わんばかりに手招きしてくる。


 本当に楽しそうだな…ハンナリさん。

 依頼した時は思い詰めた表情で性能のことばかり話していたけど、今はすごく楽しそうにデザイン重視の装備制作に取り組んでくれている。


 最初のあれは何だったんだ?


「はいどうぞ、ヨウカさん」


 ハンナリさんからアイテムを受け取る。

 これが俺の防具、記念すべき初の取引品だ。


「装備してもいいですか?」


「もちろん!どうぞどうぞ~」


 ハンナリさんからの了承を得て、俺は貰った防具を装備した。


「これが…新しい防具」


 それは立派な着物だった。


 しかもただの着物ではない、肩の部分や腰などに甲冑のような鎧が施されていた。着物の美しさと甲冑の勇ましさ、その二つを両立させている。着物の柄は赤を基調に、繊細で鮮やかな花がちりばめられていて優美だ。

 

 そして俺は着心地の良さにも驚いていた。動きにくそうな着物に見えるが、まるで邪魔に感じない。動きに合わせて着物自体が意思を持っているかのように翻してくれる。


「おおー…綺麗!」


 パチパチと拍手を送るアヤトリさん。

 その通り、見事な防具だ。


「それとね…その防具には私のとっておきの素材を使ってるんだ。ちょっと舞ってみて」


 ハンナリさんからそう指示される。


「え、舞う?」


 舞うって言われても…

 取りあえず体を一回転させてみた。


 すると着物の色が変化し始める。


「わぁ、青の着物になった!」


 アヤトリさんも変化に気付いて驚く。

 赤色だった着物は鮮やかな青色に変わり、花柄もその色に合った花に咲き誇る。


「それが“和装・七花繚乱”のユニークスキル、舞うことで七種のデザインに変わる“七色の舞”だよ!」


―――――――――

【和装・七花繚乱】

階級    特級作品

種類    着物

防御力   100

魔法耐性  100

耐久力   500

重量    50

属性耐性  なし


【スキル】

・七色の舞

[舞うことによって和装の色彩が変わる]

・七花繚乱

[和装の色彩によってスキルが変わる]

赤のスキル [?]

橙のスキル [?]

黄のスキル [?]

緑のスキル [?]

青のスキル [?]

藍のスキル [?]

紫のスキル [?]

―――――――――


「デザインが変わるだけじゃなくて、七色それぞれで別々のスキルに変化するんだ。どの色でどんなスキルが発動するかは私でも分からないから、いろいろ試してみてね」


 一つの防具で七種類のデザインとスキルに変えられるなんて、すごい贅沢な防具だ。匠のハンナリさんが拘り抜いた、見事な逸品と言えるだろう。


「でも、うーん………やっぱりな…」


 するとハンナリさんが防具を装備した俺を観察して唸りだす。


「どうかしました?」


「ヨウカさん…先に謝っておくんだけど、その防具はまだ未完成なんだ」


「え?」


「性能もそうなんだけど、デザインにもまだ不満が残るんだよね。今は取りあえず渡すけど、今後も防具の更新はさせてもらえるかな?その七花繚乱に似合う装飾品も検討中だし」


 この完璧な着物にまだ改良の余地があるのか…やはりハンナリさんは根っからの職人だ。


「はい。迷惑でなければ、またよろしくお願いします」


 性能やデザインに関しては文句ないけど、この店に再び来る口実が出来たぞ。せっかく作れた唯一の繋がり、大事にしたいからな。


 …あれ?


 防具の詳細を見ていたら、気になる項目を発見した。


「あの…この防具の階級、特級作品ですよね。それってこのゲームで最高レアの素材を使ったんですか?」


「そうだよ。うちは腐ってもリリース当初から攻略前線にいたギルドだからね、秘蔵アイテムの一つや二つくらい隠し持ってるよ」


 ハンナリさんは得意げに胸を張っているが…


「自分の取引で渡した刀は一級作品ですよ。ランクが釣り合わないのでは…?」


 このゲームの取引は等価交換が基本だ。

 だからこそ素材や装備に階級が付けられているんだ。竜刀は珍しい物だけど所詮は一級作品、ハンナリさんから貰った特級作品ではランクが一つ足りない。


「いいのいいの。その辺りはお互い納得する取引になればいいんだから」


「で、でも…」


「ヨウカさんのおかげで久しぶりにいい仕事が出来た、ありがとう」


 有無を言わせずハンナリさんは握手を求めてきた。

 どこまでも職人気質な人だ…そこまで言われたら断るのも野暮だよな。


「…こちらこそ、最高の防具をありがとうございます」


 俺はハンナリさんの握手に応じた。

 やっぱり和道の装に依頼して良かった。





「あの、ヨウカさん!」


 取引が終わったタイミングで、アヤトリさんが俺の近くに寄ってくる。


「私をヨウカさんのパーティーに入れてくれませんか!?」


「え?」


 パーティーってことは…仲間になるってことだよな?


「ここで会ったのも何かの縁ですし、一緒に冒険に行きましょう!」


 アヤトリさんがグイグイと距離を詰めてくる。


 その要望は願ってもないものだ。

 冒険をする上で仲間の存在は防具よりも重要なものになる。


 ただ…そうなるといよいよネカマの秘密を明かさないといけない。

 アヤトリさんは距離の縮め方やスキンシップがかなり大胆な時がある。でもそれは俺がネカマであることを知らないからだ。そんなアヤトリさんと性別を隠したまま接していたら、俺は罪悪感に耐えられなくなる。


「私からもお願い、ヨウカさん」


 ハンナリさんが手を合わせて俺を見つめる。


「アヤって可愛いから、男がいるギルドに行かせるのが不安だったんだ。ヨウカさんなら安心して任せられる。このゲームって変にリアリティが高いから、ヨウカさんも男性に会ったら注意しなよ」


「な、なるほど…あはは…」


 今の俺はきっと、引きつった笑みを浮かべているんだろうな。

 言えない…少なくとも男性を警戒しているハンナリさんには言えない。


 一先ずアヤトリさんの要望を受け入れることにする。

 そして後でアヤトリさんにだけこっそりネカマであることを打ち明けよう。それでもしアヤトリさんに嫌われたら、それは仕方のないこととして受け入れるしかない。


「じゃあ…よろしくお願いします」


「やったー!」


 アヤトリさんは大喜びしている。

 こんな無邪気な女の子に嫌われるかもと思うと、気が重くなるな…




挿絵(By みてみん)

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