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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
9/76

返されていないもの

 正真は家に帰るまでずっと七尾が言っていた返してないものが何なのかが頭から離れないでいた。玄関の扉を開けると携帯から通知音が鳴った。家の鍵を閉めてから開く。七尾からだった。


【明日空いてる?】


 無視しようとしたが、七尾の言葉が引っかかっり無視出来なかった。


【それよりも返してないもんってなんだよ!早く返せよ!】

【それは明日来てくれたら、返すかも!】

【かもってなんだよ!返せ!】

【来てくれなかったらずっと返さないけどそれでもいいの?】

【はぁ?意味わかんねぇ!】

【とりあえず、明日新原(にいばら)駅に11時ね。来てね】


『まだ行くとは言ってない』とは敢えて返信をしないで置いた、これ以上コイツと連絡するのは思う壺だと思ったから。携帯をしまった。鞄をソファーに投げる。家族はまだ帰ってこない。親父は夜遅くまでは事務所にいる。母親は病気で死んだ。兄ちゃんは海外の大学に行っている。だから、家ではいつも一人だった。父親が作ってくれた飯を電子レンジで温めなおし、勝手に風呂に入って勝手に寝る。


 翌朝、だるそうにベッドから起き上がり支度をした。新原駅に向かうために。電車に乗り込み。目的の駅に着くと。既に七尾がいた。嬉しそうにこちらに向かってくる。


「来てくれたんだ」

「返してないものってなんだよ、速く返せよ。ってか財布も携帯も全部あったぞ。他に何を落としたって言うんだよ」

「とりあえず、あそこのカフェ入ろ」

「おい!俺の話を聞けよ!」

「それはカフェでゆっくり話すから。とりあえず入ろ」


七尾はニコニコしながら指して、正真の腕を引っ張って店内に連れていく


「速く返せよ」

「わかった、返すよ。最後まで付き合ってくれたらね!」


正真に返せと言われるシュンとした表情を浮かばせて返すと言ったが直ぐに悪戯っぽく笑った。正真は可愛く笑う彼女の事が不覚にも可愛いと思ってしまっていた。


「はぁ?意味わかんねぇ。なんで、俺が付き合わなきゃ行けないんだよ」

「いいんじゃん、こんな可愛い子とデートできるんだよ!」

「お前が可愛い?嘘だろ?ってか普通自分で自分のこと可愛いって言わないし」


でも内心では可愛いと思っているし、事実そこら辺のモデル並に七尾はスタイルが良かった。


「あ~酷い!私、結構可愛いって言われるのにな~」

「目が腐ってんだろ」

「みんなの目が腐ってるんじゃあなくて、正真君の方がおかしいんだよ」

「俺がおかしい分けないだろ」

「いや、おかしいね」

「おかしくない」

「じゃあ、おかしくないなら、なんで帰らないの?」


七尾は頬をふくらませたて怒ったが、途端に冷静に戻り言った。


「それは……返して貰えてないからだよ」

「それは違うよ、だって携帯も財布もあるんだったら普通はここに来ないでしょ?」

「…」

宇土は黙った。自分でも気づいていた。落としたものなんて無いということは、でも、それでも彼女が一瞬母親のように見えてしまった。だから助けてしまった。


「私、本当は何にもとってないの…」

「……まだ返されてねぇよ…」

「え?」

悲しそうに七尾は言ったが、直後に正真が静かに言った言葉を聞いて目を丸くする。


「お礼したいんだろ?そういったよな?俺、まだお礼されてないんだけど……まさか恩を仇で返すつもりなの」

「……え、あ、返す返す!いっぱいお礼させて」

「あっそ」


七尾は予想外の言葉に脳が追いつくのに数秒を用いた。だが理解すると顔の表情が笑顔になっていた。正真は冷たく返した。二人は手元にあるカフェラテを飲んだ。


「そういえばさ、正真君は休日何してるの?」

「俺?ってかなんで急に?」

「正真君の事を知らないと、ちゃんとお礼出来ないと思ったから!」

「休日は、ゲーセン行ってる」

「へぇ!ゲーセンで何やってるの?」

「シューティングゲーム。ゾンビ倒すやつ」

「何それ…怖いんですけど…」

「他には?何やってるの?」

「色々」

「へぇそうなんだ!じゃあ一人でプリクラとか撮ってるの?」

「撮らねぇよ!」

「だって色々なんでしょ?ちゃんと言ってくれないと分からないよ」

「あ~面倒臭いな!UFOキャッチャーとかメダルゲームだよ!」

「へぇ!私、UFOキャッチャー好きなんだ!」

「じゃあ、次はゲーセン行こうよ。そこで欲しいものとって上げるよ!」

「いらねぇよ、自分で取れるし」


 七尾はコロコロと表情を変える。怒ったり、悲しんだり、嬉しそうにしたり、照れたり、正真はどこかで感情を捨ててしまっていたので彼女のことが羨ましかった。いつからだろうか相手を見下す以外の感情しか残らなくなってしまったのは。傲慢になってしまったのはいつだろうか。相手は常に自分より下と思うようになったのはいつだろうか。と頭の片隅で思い始めていた。


「じゃあ勝負しようよ!5000円でどっちが多く取れるか。負けたら勝った人のお願いを聞くってどう?」

「それはちょっと面白いかも…」


小声でそう呟いた。幸い彼女には聞かれていないようだ。カフェラテを飲み干すと二人はゲーセンに移動した。


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