真実
佐伯さんは明らかにKを知っている。Kがもう一人の俺だってことも知っているのだろう。
「Kにあったんだね。君はどこまで聞いたんだい」
言葉を選ぶように静かに聞く。やはり夢では無かった。佐伯さんはずっと俺のことを見守っていてくれたんだ。高校生の頃から、ずっと、なのにどうして、俺はあんな酷いこと、いくら記憶が無くなっていたとしても、殴って、不審に思って、疑ってしまった。
「すみませんでした。Kから聞きました。高校生の頃から俺のことを支えてくれたって、あと俺は高校生に行って居なかったとも、宇土にも虐められてもいなかった。ただ舞を失って復讐のことしか考えていない俺の傍にずっといてくれて、ありがとうございます。すみませんでした」
布団を涙で濡らす。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。言葉が点と点になってしまい、上手く伝えられているのだろうか。伝えたいのに感情が溢れて文章にならない。気持ちとはなんて不便なんだろうか。
「大丈夫だよ。十思。僕は君の味方だ。何があっても」
佐伯さんは優しく抱いてくれた。気持ちが溢れる。こんな俺に、俺のために、味方がいてくれた。
佐伯さんの暖かい体温が体に伝わる。毎回佐伯さんには助けられてばかりだ。
記憶は無くしてしまったけれど、佐伯さんは俺の事を本当に大切に思ってくれているのが伝わる。
それなのに俺は佐伯さんを※※※なきゃ行けない。
「少しは落ち着いたかい?」
腕を背中から外し、微笑みながら尋ねてくれる姿は父親を連想させる。実際の俺の父親は極悪非道な人だったから、理想の父ではあるが。
「はい、ありがとうございます。大分落ち着きました」
吹っ切れた気がした。清々しい風が心の中を駆け巡る。
得体の知らない自分の正体がはっきりした。少なくともKという名前だと言うことはわかった。それにKは敵では無い。確信は無いが、Kの計画や行動はDreamplanを遂行するために必要なことだからだ。
多分そう思う。希と出会ったのもKの計画だったのだろうか?
全てがkの計画通りであるならば、俺は何のためにいるだろうか?
「良かった。復讐する準備が整ったということだね。それであれば僕とKの話でもしようか」
俺が知らない俺の話。不思議な感覚だ。佐伯さんは改まった感じで俺の方を向き話し始める。
「Kから既に聞いている通り、僕とKは高校の時に出会った。僕は大学生だった。衝撃的な出会いだったよ。僕が家で引きこもっている時に君は、家の前で僕がいる部屋に向かって言ったんだ。「父親を殺した犯人を知っています」ってね。周りの人の目も気にしないで、大声で言ったんだ。その時、僕は父親が殺されたのか自殺したのか全く分からなくて、悲しみの縁にいた。だがらこそ、君のその一言で僕は勇気を貰えたんだ。父は自殺していなかったんだとね。それと同時に生きる希望を貰えた。犯人を父と同じ目に合わせようと、今の君と同じさ」
俺が佐伯さんの家の前でそんなことをいったのか。記憶にはやっぱり無いけれど、佐伯さんの表情を見る限り噓をついているようにも見えない。にわかには信じられないが本当なんだろう。
「それから僕とKはお互いに情報を集め交換しDreamplanを練った。そしてあの悲劇が起こったんだ。舞が父親の時と同じく自殺に見せかけて、殺された」
佐伯さんの話に引っかかった。眉間に皺が寄る。佐伯さんの話を聞くとまるで舞が生きていた頃から会っているような話しぶりだ。俺はあの時をしっかり覚えている。
「ちょっと待ってくれませんか?もしかしてですけど、佐伯さんとKが出会ったのって舞がまだ生きていた頃から会っていたんですか?」
「もちろん。Kと会ったのは僕の父親が殺されてすぐだから、まだ生きていたね。舞とは顔を合わせる前に殺されてしまったが」
やはりそうだったのか、ずっとKは舞が死んだことによって生まれた人格だと思っていたが、実際は違ったみたいだ。もしかしたらKはもっと昔から生まれていたのかもしれない。
「でも、どうしてKは犯人を知っていたんですか?亡くなってから数日しかたっていないですよね?」
話を聞いている限り、佐伯さんの父親が亡くなってから佐伯さんに出会うまでは多分1週間も無いはずなのにKは犯人を知っていた。
「それは希の父親、高橋隆則が鍵を握っていたんだ。今は教えられないが、Dreamplanを進めて行くうちに分かるはずさ、それに君も巻き込んでしまうからね。Kは主人格では無いからまだ気づかれてはいないが、君もアイツらにだいぶ前から狙われているから今は知らない方がいいだろう」
佐伯さんはちょっとコーヒーを入れてくるといい部屋から出ていってしまった。アイツらとは誰だろうか?そして何故、希の父親が関係してくるのだろうか?聞きたいことは沢山あるが、Kも佐伯さんもきっと教えてはくれないだろう。
自分で答えを見つけていくしかない。
佐伯さんが戻ってくると部屋にはコーヒーの芳醇な匂いが漂う。ベットから降りて机に置かれたコーヒーを啜る。
「さて、佐藤君。Dreamplanを始めようか」




