温もり
東宿公園は府内でも1番大きく中には、甲子園が行われる東宿球場やスポーツセンターがあるので、あらゆるスポーツができることで有名な公園である。
俺は高校のジャージ姿で公園に着くとあることを忘れていることに気づいた。東宿公園のどこにいればいいかを聞くのを忘れていた。不安そうにキョロキョロと周りを見回していると、大きな建物の前に立っている人影がこちらに手を振っている。目を凝らして見ると舞だということが分かった。舞の隣には、大柄で鉄パイプで攻撃されてもビックともしないであろう、頑丈な身体付きをしている大男が立っている。俺は二人の人影に向かった。
「初めまして。君が佐藤君だね!舞から話は聞いてるよ」
「はい。佐藤十思って十思って言います。よろしくお願いします!」
「よろしくね!」
「僕は佐々木貴史と言います。一応柔道では、黒帯を持っているから、虐めっ子を返り討ちにできるぐらいには強くしてあげられると思うよ」
貴史さんは豪快に笑いながら言った。期待が現実に変わる気がした。
「そうだな~最初は体力作りから始めようか。舞も一緒についてこい」
「え~!」
貴史さんは小走りしながらランニングコースに向かった。
ランニングコースは東宿公園の内周に沿って作られていた。道はそれなりに広かった。周りには、木々が生えている。左側は木々の隙間からエンジン音を立てながら大通りを走っている車が何台もあった。右側には、公園内の施設や花畑などが見える。自分たちの他にも大勢の人がランニングを楽しんでいた。それから日が真上をちょっと過ぎるぐらいまで走り続けた。
「そろそろお昼にしよう」
貴史さんがそう言うと舞と俺は地面に座り込んで。呼吸を整えた。
「私もう、限界……」
ランニングコースから広場に移動すると、三人は舞が作ってきたおにぎりを頬張った。俺の目から涙が溢れた。
「え……急にどうしたの?もしかして塩入れすぎた?」
「……俺、こんなに美味しいおにぎり初めて食べた。今まで、床に落ちた米しか食べさせてくれなかったから。ごめん。こんなにご飯が美味しかったなんて知らなかった……旨い。旨い……」
貴史は泣きながらおにぎりにがっつく俺を見て微笑んだ。
「そっか。そんなに急いで食べ無くていいから。安心しろ。これからは毎日美味しいもの食わしてやるよ!うちの母さんがな!僕の妻が作るメシは世界一上手いんだぞ!あと辛かったらうちに来なさい。いつでも歓迎するから」
舞は涙ぐみながら何度も頷いてくれた。
「うん!それがいいよ!」
俺は胸が熱くなって、喋ったら全てが溢れそうになった。嗚咽しながら噛み締めるようにお礼を言った。
「…ありがとう…ございます」
そんな俺を見て、舞と貴史は目頭を熱くしていた。貴史は親指で涙を拭うと立ち上がって俺に手をさし伸ばした。
「続きやるぞ!」
貴史の手をとりながら俺は元気よく返事をした。スポーツセンターの中にある、ジムで器具を使ったトレーニングを行ったり。柔道の基礎を教わったりした。トレーニングが一通り終わりスポーツセンターを出ると、空は一面赤く染まっていた。
三人は公園を出てすぐ近くにあるファミレス、ハッピーステーキに入った。店内に入ると肉の香ばしい匂いが鼻腔をくすぶった。俺はファミレスも人生で初めて入ったので、ソワソワしていた。店員に案内されて席に着くと三人は疲れきっていたので、席と一体化するように脱力させていた。貴史はメニューを広げた。
「よし!二人ともたらふく食え!」
俺は見たことも無い肉の塊にがむしゃらに食べた。俺たちはお腹が一杯になると公園に停めていた。貴史の車で家まで送って貰った。俺の家に着くと貴史は後ろを向いた。
「佐藤君、明日も同じようにトレーニングするから、ゆっくり休めよ!それじゃあな!バイバイ!」
「バイバイ、じゅっくん!」
十思は笑顔で返事をした。