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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1.5章 七尾奏音 色欲復讐編
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純潔

 高橋さんの悲しそうな表情を見ると胸が痛くなった。昔きっと家族で来ていたのだろうか。父親が亡くなった傷が癒えていないのに、ここに来たことは失敗だった。


「高橋さん、帰りましょうか。すみません、俺の配慮が足りませんでした」

「え?あ、すみません。大丈夫ですよ。ちょっと父のことを思い出していて、すみません。せっかく誘って頂いたのにこんな顔してたら駄目ですね」


 彼女はニッコリと笑って見せた。その笑顔は昔の彼女『希』が俺と別れる時に見せた笑顔と重なった。タンポポで包まれたあの場所へと戻ったみたいな感覚に陥った。


 気持ちが一瞬揺らいだ。針で刺されるようなときめきを感じる。罪悪感と恋心の狭間にいるようだ。俺は密かに舞に謝る。一瞬でも昔の自分の恋心に惹かれてしまった。


 希さんは呆然としている俺の腕を遊園地の方へ引っ張った。腕から伝わる手の温もりが今は少しだけ嫌だった。暖かいと意識するたびに心拍数が上がるのが分かるから嫌だった。


 入口のところで入場券を買い、コスモスのアーチをくぐる。世界は一変した。まるで僕らが花の精霊になったかのようだ。周りを見渡す限りコスモスだらけだ。コスモスの外観をしたアトラクションや建物が立ち並ぶ。


 花の匂いがする。ジェットコースターに乗っている客はまるで、花を飛び回る妖精のようにも見える。コーヒーカップに乗っている客は、まるでダンスをしているようだ。


 遊園地という場所はここまで世界を変えてしまうものなのだろうか。驚きで腕からいつの間にか温もりが無くなっていたことにも気付かなかった


「佐藤さん何しているんですか?速く行きます」

「あ、すみません。遊園地ってまるで異世界ですね。初めて遊園地に来たのでこんなものなんだって知らなかったです」

「そうですよ。遊園地は異世界なんです。大人も子供の頃に戻れる大切な場所です。だから、入口にゲートを設けて異世界と現実を区別しているんです。分からなくならないように」


 頭上を走り周るジェットコースター、小さな子供が走り回る姿に視線を移しながら言う。


「ところで佐藤さん何乗りますか?折角なので佐藤さんが乗りたいもの乗りましょうよ。今日は子供の頃に戻った気持ちで、私付き合いますから」

「ありがとうございます。でも俺は特に乗りたいもの何て無いですよ」

「本当にないんですか。本当に子供の頃に戻った気持ちで考えましたか」


 所々にあるアトラクションを見た後に、高橋さんは俺の方に顔を向けて『子供の頃に戻った気持ちで考えてみて』と言う。そう言われても俺は瞬時には思いつくはずもなく優しい笑みを浮かべ断るばかりだった。だが、断った後に高橋さんにもう一度考えるように言われて再び考えてみる。


 歩みを止めて、子供の頃の自分を思い出して、考える。子供の頃俺は遊園地という場所に来ていたら何に乗りたかったのだろうか。あの苦しい生活の中で、もし、この場所に来ていたら。もし、希と来ていたら。舞と付き合っている時に来ていたら。


 頭の中で映像が浮かぶ。訪れ無かった過去の映像が流れる。そこでは少年は笑って、コーヒーカップ、ジェットコースター、お化け屋敷、に乗っている。でも少年は乗りたいもの何て無いと思う。。それは、遊園地に来ていることだけで既に幸せを感じているから。だから、一緒にいる誰かの乗りたいものが、乗りたいものだと思う。


「高橋さんやっぱり俺は乗りたいものとか、無いです。だから、、高橋さんの乗りたいもの行きましょう。俺が一番乗りたいものはそれだと思います」

「遠慮している、、、とかではなさそうですね。分かりました。じゃあ、先ずはあれに行きましょうか」


 彼女は、ニカっと笑い、指を指す。指の先に白色コスモスに彩れた施設だった。壁には純白のコスモスはまるで雪のように散りばめられているようだ。


 看板には、『ホワイトハウス』と書かれている。白色の家とはどういったことだろうかと思っていると、高橋さんが察したかのように言う。


 「ホワイトハウスってどんなアトラクションだろうかって気になりますよね。私も最初、父と母と来た時に思いました。さぁ速く入りましょう!行けばそういう事かってなりますから」


 初めて会った時の希のようにニカっと笑う彼女は楽しげに『ホワイトハウス』というアトラクションの名前を語る。俺もつられてニカっと笑いそうになる。


 アトラクションの中に入る。室内は白色のコスモスの花弁で出来た雪景色が広がっていて、空気は冬のように冷たい。どうやらSRで作られた空間らしく外観からは想像できないほどの光景が広がっていた。

 

 空からは白色コスモスが雪のように降り、奥には雪山らしきものが広がっている。


 高橋さんは降り積もったコスモスの花弁を掬い丸めて俺に向かって投げてきた。当たった雪玉ならぬ花玉は身体にあたると花弁のように散っていった。


 ビックリして立ち止まっていると、高橋さんはニコニコしながら言う。


「昔、私も父に雪玉?花玉を当てられるまでは同じような顔をしてました。懐かしいな」


 高橋さんはそう言うとまた、同じように花玉を作る。


「佐藤さんは投げないんですか?私投げちゃいますよ」


 彼女は臨戦態勢をとってニヤニヤとしている。俺も足元に広がっている花弁たちを掌に掬い丸める。冷たくて雪みたいだ。綺麗に丸めると高橋さんに向かって投げた。雪玉よりも遥かに柔らかくスポンジボールのような玉が高橋さんめがけて飛んでいく。

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