彼女
佐伯斗真
もう一人の佐藤君が帰ったあと僕は少しだけ彼女のことを思い出しながらKの展示会に来ていた。『Dream plan』を進める上で欠かせない物を受け取るために。
彼女を待つ間、会場の中に彩られている絵画をゆっくりと味わいながら奥へと進んでいく。どの絵も赤色が目立つ個性的で感動的な絵が並ぶ。だが目の前に飾られている絵はその中でも群を抜いて衝撃的な絵である。地獄の中で咲く赤いヒマワリ。自分の奥底にある赤黒い感情が動く。
どす黒い感情に支配されている自分の隣に彼女がスッと表れて言う。
「殺したい?」
※々※舞?
私は絵に見とれている佐伯さんに可愛く『殺したい?』と聞いてみる。この人も殺したいほど憎い人がいることは知っている。この人のことは何でも知っているから。
彼からは返事は無かった。だけどその答えに黙って私からのプレゼントを受け取ってくれた。これが彼の答え。
「手紙、読んでくれたかな。私が今までで抱えてきた6年間の想い伝わってくれると嬉しいな」
隣にいる佐伯さんは私が描いた絵を見て、こぼれ落ちるように言った。
「きっと読んでくれるよ」
「あ~速く、この絵を描いたときのように何度も何度も突き刺して、真っ赤に染めて、美しいほど憎しみを込めて殺してあげたい。あの時私が受けた苦しみを、最愛の人との別れる気持ちを、大事な家族を目の前で殺さる想いを」
『今度はアナタの番』
楽しみだ。奏音が地獄に落ちていく姿を見るのが。私は『果報者』になるの。愛するほど憎いアナタを殺して幸せものになる。
佐藤十思
目を覚ますと前回同様で自分の家の天井が見えた。佐伯さんともう一人の自分が話していた内容はもちろんのこと思い出せない。でも分かったことが一つあった。佐伯さんはもう一人の自分を昔から知っている。そして何回か会っている。ということは佐伯さんが俺のことを全て知っているのは俺自身が全て教えていたからなのかもしれない。
『Dream plan』はもしかしたら、俺が探偵事務所に訪れるもっと前から始まっていたのかもしれない。
俺の熟考を妨げるように、布団の近くに置いてある携帯が鳴った。手に取ってディスプレを確認すると高橋さんからだった。
「もしもし、高橋さんどうしたんですか」
「え、『どうしたんですか』じゃないですよ。約束したじゃないですか。遊園地に行きましょうって」
これは一体どういうことだろうか、俺がいつ高橋さんと遊園地に行く約束をしたというのだろうか。
「もしかして、やっぱり忘れてたんですか?」
「やっぱり?」
「佐藤さん、一昨日自分で言ってたじゃないですか、『結構忘れっぽいから当日の朝8時になったら電話して欲しい』って、それすら覚えてないんですか」
一昨日、、きっとこれはもう一人の自分がした約束だろうか。
「すみません。ちなみに待ち合わせ場所と時間は、、、」
「場所は桜田駅で時間は10時ですよ。それすらも忘れたんですか?」
「すみません。ありがとうございます。それじゃあ、また後で」
電話を切ると。一つの疑問が浮かんだ。。どうして遊園地なんかに行こうとしているのか。行くことが何か『Dream plan』に意味がることなのか。暗闇の中で訴えかける。自分が何をしたいのか。暗闇の中でもう一人の自分をイメージして訴えかけてみる。
答えは何も帰ってこない。目をゆっくりと開ける。
「行けば分かる」
そう呟いて服を着替え外に出る。最寄りの駅までの道のりを歩いている間ずっと考えていた。今度は自分の頭で、待ち合わせ場所は浜横にある桜田駅、桜田駅の近くにある遊園地はコスモスパーク。コスモスパークは記憶にある限りでは一度も行ったことが無い。記憶が無くなっているだけで以前行ったことがあるのかもしれない。だが、到底遊園地に『Dream plan』に関係があるとは思えない。
ならば、高橋さんと出かけることに意味があるのだろうか。高橋さんとは幼少期の頃に出会っていることが最近分かった。それも俺の初恋の相手だった。
そして高橋さんも俺のことが好きだったらしい。もし、お互いの気持ちを最初に気づけていたなら、違った未来が訪れていたのだろうか。
俺は頭を横に振った。違うだろう。今は高橋さんが『Dream plan』に関係があるのか考えるはずだろ。自分にそう言い聞かせてもう一度考える。
そう言えば、高橋さんの父親は最近亡くなったそうだ。そして、それが病気では無く殺されたのも俺は薄々感じている。だからもし『Dream plan』に関係があるのなら、父親の死が俺と関係あることなのかもしれない。
そこまで考えたところで最寄り駅に到着し、目的へと向かう電車に乗り込み再び考える。
もし仮に関係性があるとしたら、どういった関係なのだろうか。そもそも高橋さんの父親はどうして殺されなきゃいけなかったのだろうか。
今度それも調べていく必要がありそうだ。それにしてもどうして遊園地なのだろうか。高橋が『Dream plan』に関係あることは分かったが場所はどうしても関係があると思えない。
電車が桜田駅で停車する。都心ということもあってホームは人で混雑している。電車のドアが開かれホームへと足を踏み出す。電車へと乗り込む人に肩を擦らせながら改札へと向かう。
無事に改札口を出て、スマートフォンを取り出して時計を見る。時間は九時半、まだまだ待ち合わせの時間までは余裕がある。
時間になるまで駅周辺でも歩きながら、もう少し考えることにしようと思い駅から出る。目の前には四車線ある大通り、そして視線を上げると桜田ファミリアが見えた。




