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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
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蜘蛛の糸

 今日も俺は1番乗りだった。学校について昨日と全く同じルーティンをしている。今日も水道水を飲み終わり、教室に戻ったら、舞が昨日と同じように携帯を弄っていた。


「あ、じゅっくんおはよう!」

 昨日は眠れなかったのだろうか、目元には薄っすらと隈ができている。


「おはよう」


 俺は彼女の心配をした。舞は後ろに振り返り、不安そうな顔をしている。

「ねぇ~じゅっくんさ、昨日の見た?」

「ん?なんのこと?」


  昨日のとはなんだろうか?検討もつかない。舞は目を大きく開いて驚いた顔を近づけて大きな声で言った。


「記者会見だよ!まさか見てないの?あんなにニュースになってたのに。日本全国で生放送してたし、朝のニュースを会見の話ばかりだったんだよ。見てないわけないじゃん」


 俺は舞の声が急に大きくなってびっくりして後ろに退いた。


「ご、ごめん、うちテレビも無いし、携帯も持たせて貰えないから…知らなかった…」

「え……本当に?高校生なのに?」

「うん…」


 その後、携帯もテレビも無い理由となんで宇土たちに虐められるのかを舞に話した。舞は複雑な家庭事情に、表情を深刻にさせて、終始真剣に聞いていたが、話終わると、下を俯いて黙っていた。俺はそんな舞を見ていられなくて謝った。何が悪いのか分からないけど謝ることで空気は和らぐと思ったから。舞は顔を上げて、俺の方を見て言った。


「なんで、じゅっくんが謝るの?」

「ごめん…」


 二人の間にはまた、息をするのも重苦しい空気が流れた。そんな沈黙はクラスメイトたちが教室に入って来るまで続いた。教室に入るクラスメイトたちはやたらと舞のことを見て、ヒソヒソと話したりしていた。その声も人が集まるとどんどん大きくなっていた。そこで始めて十思は何となく状況が把握した。朝の予鈴が学校中に鳴り響いて、廊下ではバタバタと足音を立てながら生徒が走っている。男が出席簿を脇に抱えて、教室の前にある引き戸を音を立てながら開け、教壇に立つ。その男は四組の担任になった郷田武(ごうだたけし)である。


「これから、朝のホームルームをする前にみんなに話さなければいけない事がある」


と言うと深刻な顔を生徒たちに向けた。


「宇土と加藤だが、昨日交通事故に遭った」


クラスはざわついたが、郷田は続けて話した。


「幸い、命に別状はないが、半年間の間は学校に来れないらしい」


俺は驚きを隠せなかったが、天にも昇る嬉しさだった。クラスのみんなも同じ気持ちだろう。地獄が始まると思っていたのだから。


❁.

朝のホームルームが終わった後に、舞は明るい顔をして、こちらに顔を向けた。

「じゅっくん、よかったね!本当に!」

「うん!」


 顔中、赤紫色に腫れさせていたが、俺は人生で初めて満面の笑みで笑った気がした。切れた口元が痛かったがそんなことがどうでもよくなる程に気分が良かった。今までは厚い雲に覆われ、強雨(きょうう)が振り続けていた。でも空から一筋の光芒(こうぼう)が差し込んだ見たいだった。雲一つない青空になったような、それはとてもとても清々しい気持ちになっていた。気付くと舞と二人で笑い合っていた。


舞はそんな俺の満面の笑みを見て、少しだけ頬が赤くなっていた気がした。


「じゅっくんってそんな顔で笑うんだね」


舞にそう言われて、俺は手を頬に当て口角が上がっているのを確かめた。


「……あ、ほんとだ!自分でも初めて気づいた!」

「俺、今、笑ってるんだ。こんなに清々しいのは初めてだよ!」


 人生初めての経験で心を踊った。本当に、本当に清々しい。


「そうだよ!笑うってとてもいい気分なんだよ」


舞は名案が閃いたように目を見開いて、人差し指を立てる。そして身体を俺の方に突き出して興奮気味にまくし立てた。


「ねぇ。そうだ!これから宇土たちが戻って来ても大丈夫なように、いつまでも笑って過ごせるように、強くなろうよ!」

「私のお父さん、柔道めっちゃくちゃ強いんだ!だからうちのお父さんに鍛えて貰おう。うん、そうしよう!」


 舞は机の上に置いてある、スマホを手にとってLights(ライツ)で父親に連絡していた。昼休みになると、舞は児玉菜摘(こだまなつみ)成田皐月(なりたさつき)と机をくっつけて仲良く談笑しながら昼食をとっていた。

 なんでも、中学からの友人らしい。俺は、そんな三人の後ろで、一人窓から景色を眺めながら、今度こそ何かが変わるんでは無いかと胸を高鳴らせていた。もし、自分が強くなったら、宇土や加藤から虐められなくなるんではないかと考えると鼓動が大きくなる。


 咲き乱れていた桜が綺麗だった。


 帰りのホームルームが終わると、舞は振り返って嬉しそうな顔をした。

「朝の件なんだけど、いいよだってさ。だから明日、朝の十時に東宿公園(とうやどこうえん)集合ね!遅刻しちゃダメだからね!」

 そういうと、手を振りながら教室を出ていった。強くなっている自分を想像すると夢みたいで胸が踊った。家に帰ってから祖父母たちに酷い扱いをされても我慢できた。それどころかいつもは不安と緊張で寝れなかったが今日だけは安心して寝ることが出来た。

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