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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1.5章 七尾奏音 色欲復讐編
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未来

強く願いが叶うことを祈って、目を開ける。中にある御神体は何も言ってくれない。静かに見守っているようだった。


 踵を返して階段を降りる。ただ階段を降りているだけなのに涙がこぼれそうだった。階段を登っている時は、今までの道のりが思い出されていたが、やっと人生の折り返し地点にたどり着いた気がした。長いこと不幸だったが、もう少しで報われるような気がした。今まで凍っていた永久凍土が温もりで溶かされているようだった。


 階段を降りきる頃には,涙と一緒に不安が流れたような清々しい気持ちが包み込んだ。


 断末魔をあげていた少女の家を経由しながら恵希公園に行くことにした。今の清々しい気持ちのままなら,フラシュバックしても乗り越えられる気がする。


 思い出された記憶を頼りに少女の家へと歩き続けると、見たことがある風景が見え、次第にあの時と同じ真っ白の家が現れた。視界に入った途端に耳鳴りが鳴る。キーンという音が次第に叫び声に変わり、断末魔となった。俺はその場で耳を塞ぎながらしゃがみ込んだ。流石に耳を塞いでも聞こえる断末魔は堪える。先ほどの清々しい気持ちが犯されていくのを感じながら,耐えしのいだ。少しだけ,余裕ができるとゆっくりと深呼吸をした。心の中で『今は違うと』と唱える。


 犯され終わるのを感じた。断末魔が薄れていき、恐怖も遠ざかっていく,だが,頭の中は黒色の精液で満たされ,薄っすらと粘り気を帯びて留まり続ける。鉛のように身体が重い。


 速く少女の家を通り過ぎようかと足枷がついているように重い足を動かそうとすると、断末魔が聞こえたはずの真っ白の家から子供の明るい笑い声が響いた。玄関から父親と幼い少年が出てきた。少年の首からは虫かごがかけられ、手には虫網が握られていた。花が咲くような笑顔を父親に向けている。


 笑い合う親子を見た。犯されていた身体に希望を見出した気分になった。十数年という時間が経つと地獄だった場所が,楽天地になるのだと気づかされた。


 親子を見ていると、自分のあったかもしれない未来が見えた。今では叶うことは無くなったが。もし、舞が生きていたのなら、あの父親みたいに子供に笑いかけている自分がいたかもしれない。


静かに親子から視線を外して、恵希公園へと歩き出した。


 日がもう少しで真上に来そうだった。すっかり暑くなった。情緒不安定だったせいかまだ腹は減っていなかったが、少し休みたいと思ったので一旦公園の近くにあるカフェで涼むことにした。相変わらずあまりお金は持っていなかったので、アイスコーヒーだけを頼んだ。


 昨日来た時と同じく少し肌寒いぐらいに冷房は効いていた。アイスコーヒーが来るまで、高橋さんのことを考えていた。次あった時に思わず希と言ってしまいそうで少しばかり怖かった。いくら記憶が取り戻せたとしても、高橋さんは俺のことを最近あったばかりの知人にしか思っていないのだから。気を付けなければいけない。


「お待たせしました。アイスコーヒーです」


 しかも、高橋さんが探していた少年の正体が俺だということに気づいたら、辛い思いをさせてしまうし、俺も辛い。来たばっかりのアイスコーヒーを飲んだ。火照っていた身体が冷やされていく。


「あれ?佐藤さん?」


頭上から女性の声が聞こえた。口に含んでいたアイスコーヒーを噴き出しそうになった。


「のぞ、高橋さん?」


声が裏返った。何ともアホらしい声が出てしまって恥ずかしかった。高橋さんはそんな俺をみて笑っていた。


「何ですか?その裏返り方、アハハハ」

「笑わないでくださいよ……」

「すみません、でも無理です」

「ひどいな」

「まぁ、笑ったお詫びとはいかないですけど、そのアイスコーヒーは私がお金払いますので許してください」


 優しく微笑みながら言う彼女に不覚にもときめいてしまった。


「昨日も払って貰ったので大丈夫です……まぁその代わりに少しだけ俺とお茶してくれませんか」


 前の席を指さしながら言った。記憶が取り戻せたと言っても一部だと思うから、高橋さんの話を聞いて思い出せればいいと思って誘ってみたら、高橋さんは満更でもないようだった。


高橋さんは席に着くと店員にアイスコーヒーを頼んだ。


「佐藤さんは今日はお休み何ですか?」

「え?」

「あ、えっと今日はお仕事お休み何ですか?」

「あ……えぇ、そんなもんです」

「何のお仕事されているんですか?」

「あ、えっと、そうですね、内緒です!」


 咄嗟のことに誤魔化すしかなかった。でも、仕事のことを聞かれるとは思っていなかったので驚いてしまった。仕事をクビになってからも人と会うと仕事の話をされるから嫌になってしまう。今は特に。


「内緒ですか~あ!もしかして、殺し屋とかですか、アハハハ」

「まぁ、そんなもんですよ、アハハハ」


高橋さんの笑っていた顔が時間が止まったように止まり真顔になった


「いやだなぁ~冗談ですよね?」

「さぁ?どうでしょう」


あながち殺し屋も間違っていないのかもしれない。だって複数人のことをこれから殺す予定なのだから。

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