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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1.5章 七尾奏音 色欲復讐編
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願い

 俺はDream planについて佐伯さんに話した。話の内容を元から知っているかのようだった。一通り計画を全て話し終わると、佐伯さんは部屋の片隅にあったレターケースから数枚の写真と書類を取り出し、テーブルの上に置いた。


 写真には、ピンク色の肩だしトップスと白のロングスカートを着ている女性が写っていた。他にも男とホテルに入り込む写真、高級マンションらしきものまで写っている。


「現在の七尾奏音だ。書類の方は、住所と最近買った物の購入履歴、携帯のパスワードなどの個人情報が載っている」

「佐伯さんはどこまで知っているんですか……」


 鳥肌が立つ。俺が七尾奏音に復讐しようとしていることについては分かっていると知っていたが、ここまでとは知らなかった。まさか七尾奏音の情報や行動範囲までを事前に調査してあったなんて、思いもよらなかった。やはりこの人は恐ろしい。


「全てさ……探偵として依頼主や相手を把握していることなんて当たり前だろ。特に君はね」

「まぁ、もう……いいです」


 当たり前かのように常識外れのことを言う佐伯さんを見て、どうでも良くなる。佐伯さんがどんな人でいようとも、Dream planを遂行できると信じているからだ。俺にはそれが一番大事なことだ。逆を言えばそれ以外には何も要らない。


「Dream planはいつ頃決行できそうですか?」

「そうだな…………材料も既に調達してあるし、やろうと思えば明日にも決行はできるだろうが、佐藤君が望む結末にはならないだろうね。だから……一週間後かな」

「一週間、随分早いですね。少なくとも一か月はかかると思ってました」

「七尾奏音に一か月はかけられない。Dream planを()()叶える頃には君はあの世だろうからね」

「なるほど、確かに……」

「じゃあ、Dream plan決行は来週火曜日7月14日でいいね?」



 俺は静かに頷く。でも、予想していたよりも速くDream planの計画が決まって行ったことに驚いていた。流石佐伯さんだ。朝食を食べ終わると、佐伯さんはやることがあると言って、俺をエレベーターまで見送るとツリーハウスに戻って行った。


 外に出ると昨日と代わらない夕陽が沈みかけている。まるで時が止まっているかのようだ。精神的にも肉体的にも何日も経ったかのように感じるのに、不思議な感覚だ。


 昨日と変わっていることと言えば、向かう方向ぐらいの違いしかない。


 自宅に戻ってくると、直ぐに横になった。先まで眠っていたというのに、まだ眠い……きっと色々なことがあったからだろう。身体が沈むような感覚を味わいながら、深い眠りについた。








 朝焼けの日の光で目が覚めた。窓から朱色の光が差し込み顔を照らした。昼間は身が溶ける程に暑いというのに、今は涼しい風が吹く。気持ちがいい。


 佐伯さんからの連絡があるまでは、することは特に無いで家でだらだらしようかと思ったが目も頭もスッキリと起きれたので、少し散歩することにした。


 朝速いせいか大通りに出ても車も人もいなかった。まるで自分だけしか存在していないかのようで特別な気分を味わうことができた。折角なので昨日思い出した場所を巡ることにした。


 一番近かった恵沢神社に向かうことにした。歩いているといつの間にかオレンジ色の太陽が白色になっていた。

 

 神社が見えると心臓が徐々に不気味に高鳴り、近づくにつれて視界が歪んでいき、息が浅くなり、荒くなる。流石に苦しくなってきたので、木陰で手を膝について休んだ。記憶を取り戻したせいか、辛い思い出がフラシュバックする。虐待されていた時にタイムスリップしたようで気分が悪い。


 あの頃とは違うと言い聞かせ、深い呼吸を繰り返す。数回繰り返すと鼓動がゆっくりになるのが分かった。まだ視界は揺れるがそれも収まりつつあったので、鳥居をくぐり本堂へと続く階段を登り始めた。一段一段登る度に虐待されていたころの辛い思い出、希との楽しかった思い出、舞との甘酸っぱい思い出、夏祭りでの憎らしい思い出が頭の中で映し出される。


 階段を登り切り振り返ると、これまでの苦難の道のりを表したかのような長い階段と、全てを肯定してくれているかのような壮大な青空、まるで生命の海のような遠くまで続く家々。


 何度かここには来ているが、振り返りこの景色を見たのは初めてだった。まるでこの日のためにとって置いたかのように感じる。


 景色を眺めていると隣から声が聞こえた。


「ここの景色は綺麗だろ」

「えぇ、とても綺麗です。自分がやってきたことを全て肯定してくれているかのようで」

「そうだろう!私もここに勤めて長いが、この景色以上に綺麗な場所はまだ出会ったことが無い」

「俺もこの景色以上に綺麗な場所には出会えなさそうです」

「アハハ!君はまだ若い、これから沢山見て決めるといい、では、私は仕事に戻ることにするよ」


 住職さんはそう言って仕事に戻って行った。後ろ姿はどこか幸せそうに感じる。でも、俺は少し悲しくなった。住職さんはまだ若いと言ってくれたが、半年後には俺はこの世にはもういない。だから、きっと住職さんのように幸せそうにこの景色を話せないだろう。


 本堂へと向かい参拝と少しばかり願いを言った。

『もし……もし可能でしたら、あと少しだけ、少しだけでいいので長く生きさせてください、そして全て終わったらもう一度この景色を見られますように……』

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