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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1.5章 七尾奏音 色欲復讐編
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 暗闇しかなくなってしまったとき、一筋の光が左手から見えた気がした。左手の方に静かに顔を向けると薬指に指輪がはめられている。指輪からは目を覆いたくなるほどの白色光(はくしょくこう)が発せられ、暗闇だったはずの景色が一瞬で優しい白色に包まれた空間になる。


 白色のワンピースに包まれた、桜のような綺麗な女性が現れた。そして悲しそうに照れている。

 

 「十思、、久しぶり、今までごめんね、そしてありがとう。えへへ、久しぶりに会うって言うのに、これしか出てこないなんて、私、彼女失格だね。バイバイ」


  彼女は身体を花弁のようにさせて散らせている。桃色の花弁は風に乗っているかのようだ。


 「ま、い、、、まい、、、舞!舞!行かないでくれ!俺は、俺は、いつまでも、、あ、いしているから、行かない、、」

 

 目の前の光景に脳がついていくことが出来ず言葉が喉に引っかかる。全てを言い終わるころには彼女は花弁のように散ってしまった後だった。


 声が聞こえる。自分の名前を呼ばれている。遠くで響く声が段々と近くになる。ぼんやりとした視界が鮮明になる。人の顔が見えた。佐伯さん。


「良かったよ、見つけられて」

 

 佐伯さんが俺の頬を親指で拭う。


「ここは、どこ、ですか、、先まで迷路に居たはず、何で佐伯さんが目の前に、」

「まぁ、質問したいことは色々あるだろうけど、順を追って説明するから」


 景色が一変したせいか、混乱していて言葉が詰まる。佐伯さん落ち着かせるように説明すると言ってくれた。


「先ず、君は最初からこの場所に居た。最初というのも君が朱雀の()に入った時だね」


 佐伯さんは天井を指さしながら説明をする。指先には防犯カメラのような装着にガスが放出されるだろう筒が付けられているものがあった。


「あそこに人感センサーが設置してあってね、人が侵入すると、自動的に特殊な催眠ガスを放出するようになっているんだ。ガスを吸い込むと事前にプログラミングした幻覚を見せることができる。それが君が見た迷宮の正体」


 俺が先までいた迷宮自体が幻覚だったってことだろうか。それよりも気になることがあった。


「俺が絶望の淵にいた時、舞……元恋人が出てきたんです……もしかして、それも」

「それは、違うよ。君はそれを見た時、寝たでしょ?」

「え……あ、確かに疲れていて眠った気がします」

「夢は深層意識が反映される。つまり僕が作り出したのなら、精神世界に影響を及ぼすことになる」


 どういうことだろうか。付け足すように佐伯さんが説明する。


「あくまで、プログラミングしたのは迷宮そのもので、対象の人物には精神的な影響を与えるようにはできないんだよ。そうだな……簡単に言うならば、視覚はある程度こちらで設定できる。でも、僕が思うように精神や感覚は設定することはできないってこと」

「なるほど、幻覚はあくまで視覚的なもので、精神的な影響は及ばないってことですね」


 ということは俺が見た舞は幻覚ではないということ。それは、つまり俺の中に舞が生きているということだ。頬に暖かい雫が滴り落ちる。俺の肩に佐伯さんは優しくも力強く手を置いて言った。


「つまり、君の中で舞さんはまだ生きている、生き続けているんだ」


 涙が止まらなくなった。拭っても拭っても溢れる。ひさしぶりに感じる暖かい何かが心を覆う。まるで母親に抱きしめらているような温い感覚だ。


 佐伯さんは俺を抱きしめる。抑えられ無くなり、嗚咽を上げながら泣く。もう涙が出てこない程泣いたと思っていたのにとめどなく流れる。まるで暖かい雪解け水のようなとても綺麗な涙が流れる。


「辛かったな……よく頑張った」


 佐伯さんは一層力を強くして抱きしめる。俺は涙が枯れるまで思いっきり泣いた。気付くとそのまま眠ってしまっていた。




 目を覚め、瞼を開ける。また見たことがない場所で俺はベットの上で寝ていた。身体を起こす。朱雀の間のようなコンクリートの部屋ではなく、大自然に囲まれたツリーハウスのような部屋だった。窓からは森林が一望できる。窓から顔を出すと春ほんのりと暖かい風が当たる。山奥に来たというのだろうか。


 俺が戸惑って居ると、ドアが外から二回ノックされる。


「佐藤君、入るよ」

「あ……はい」 


 佐伯さんが入ると珈琲の香ばしい香りとトーストの甘い香りが鼻腔をくすぐった。唾液が口の中で溢れる。木のトレーに載せてあるマグカップとトーストをミニテーブルの上に置く。自分が寝ていたベットに腰を掛ける。


「朝食をもってきたのだけど、お腹は空いているかい」

「はい、空いてます」

「なら、良かった。気になっていると思うから朝食を食べながら、ここがどこかも説明するよ、さぁ、食べようか」


 トーストに齧りつく。珈琲で流し込むと佐伯さんはここがどこなのか説明しだした。


「ここは、森林に囲まれた場所ではなくて、まだ東宿ビルディングの地下なんだ。地下と言っても事務所がある地下10階じゃなくて、20階に作ったSR、|senseセンス realityリアリティ」これは、従来のMR、VRなどと違って仮想現実ではなくて、言うならば『もっとも現実に近い現実』。だから、東宿ビルディングの中とも言えるし大自然の中とも言える」

「って事は先みたいに幻覚を見ているということですか?」

「いい質問だね!先の幻覚ガスも、このSR技術を使ったものなんだ。でも、先程のは下位互換みたいな感じ。幻覚ガスは対象人物が寝なければ幻覚を見せることはできない。でもこのSRは対象人物が寝なくても幻覚を見せることができる。まぁ、寝ていない訳だし、感じる五感覚はもちろんのこと、直感などを含めた六感、全て本物だから、厳密に言えば幻覚ではないんだけどね」

「何となく理解は出来ました。要するに現実って思ってればいいってことですね」

「まぁ、そういうこと」


 佐伯さんは珈琲を啜り、一言言った。


「場所の説明も終わったことだし、次は佐藤君が思い描いているドリームプランについて話し合おうか」

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