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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1.5章 七尾奏音 色欲復讐編
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記憶の断片

 きっと俺の予想が正しければ隠し部屋は白虎(びゃっこ)の絵が掛けてある側の部屋にあるはずだ。あそこの部屋の本棚の中に隠し部屋に繋がるヒントが隠されているはず。でも、どこにそんなヒントが隠されているのだろうか。


 隠すとしたら、本棚の中に隠すだろうか。それ以外の場所は考えられない。もし天井や床に隠すとしたら、本棚しかない部屋を作るより家具を本より多くおいた方が視線が誘導出来て隠しやすいだろう。だから隠し部屋を隠すなら本棚にヒントがあるはずだ。


「あ、、」

 

 脳内で電撃が走ったように答えが一つに繋がり、思わず部屋の響き渡るほどの声が出てしまった。ダイニングキッチンがある青龍の部屋を出て、足早に白虎の部屋のドアノブの手をかけ勢い良く開ける。本棚の中から一冊の本を手に取る。


 『神に隠された秘密』これだけがミステリー小説ではなく童話だった。童話は子供向けに書いてある本、ということは


「やっぱり……」


 本を適当に捲ると絵が描いてあるページが見つかった。夜明けにボロボロのパジャマ姿で一人の少女は救いを求めるように泣きながらながら手を合わせて何かを懇願している絵だった。少女の後ろには朱色の鳥居が描かれいる。鳥居には恵沢(めぐさわ)神社の看板が書かれている。

  

 恵沢神社の名前が頭の中に吸い込まれていき、頭に激痛が走った。咄嗟に頭を抑えると、本が手から離れスローモーションのように落下する。運悪く、本は絵が描いてあるページを開いたまま落ちる。


 前の時よりも不快感が鮮明になる。今度は不快感に加わり、同情が加わる。気分が悪い、悲しい、憎い、怒り。絵に書かれている少女の感情が俺に憑依している。胸が引き裂かれ、絵に書かれている少女が俺の中から這い出そうな気分だ。懸命に胸を抑える。胸を抑えている握り拳に力を込める。Tシャツ越しに胸に爪が食い込んだ。自分自身に心臓が抉り出されそうだ。それぐらいの力を籠めないと自分が自分を保っていられなくなる。


 冷や汗が額から絶え間なく出る。鼓動が身体に付いていけないほど速くなり、苦しい。胸を抑えながら地面にうずくまる。


 痛みに耐え切れ無くなり。意識が薄れていった。薄れていく意識の中で少女の声が聞こえる。

 

「神様お願いします……お願いします……お父さんを……殺してください……お願いします。そして、優しかったお母さんを返してください……お願いします……」


 少女は絞り出すように静かに神に祈っていた。


 徐々に意識が戻っていく、それと同時に記憶の断片が鮮明に思い出される。


 そうか、二枚の絵は繋がっていたのか。あの日俺は父親から逃げていたんだ。最初に恵希公園の茂みに隠れていた。だが見つかってしまって次に恵沢神社へと逃げ込んだ。もう体力的にも限界で休もうと思って、辺りを見回すと本殿の扉が空いていることに気づいた。そこで少しの間だけ休ませてもらおうと思って中に入ってウトウトしていると、声が聞こえた。住職かと思って恐る恐る物陰から見ると。ボロボロの少女が小声で父親を殺して欲しいということを泣きながら願っていたんだ。


 うずくまっている俺の隣にある本を手に取り、頭痛が残る頭を抑えながら地面に座り込み本をもう一度覗く。この少女は一体誰だろうか。何故、父親を殺して欲しいと頼んだのだろうか。


 これが隠し部屋のヒントなのだろうか。それとも別に何かあるのだろうか。ページをパラパラと捲った。


 絵と文章が書いてあって子供にも分かり安く書かれていたし,パラパラと見ているだけでも何となく内容は理解できた。


 大体はあらすじ通りで,記憶がなくなった神様がお天道様に隠された自分の記憶を八百万の神々と冒険しながら探す物語のようだ。あらすじと違う部分は場所が恵沢神社だったことだ。違うというよりも場所は明記されていないだけだが。


 物語では、絵のページは既に冒険を終え祠に戻っていた場面だったみたいだ。ここでは名前が分かっていて神様は白虎と言われていた。でも冒険を終えても完全には記憶が戻っておらず、自分が何の神様かは分からずじまいだった。だが少女が願い事をした時に記憶が戻るみたで自分が何の神様だったのか思い出すと言ったシーンだった。


 次のページでは白虎が悲しそうに少女を眺める白虎の姿が描かれていた。


 何故、白虎が悲しそうな表情を浮かべているのか不思議に思い。そこだけ読む。どうやら白虎は勇気を司る神様で少女に勇気を与えるだけしか出来なかった。それはすなわち少女の願いを叶えるのは少女の自身の力でどうにか叶えてもらうしかなかった。だから悲しい顔をしたのだろう。


 本では少女はお母さんの病気を治して欲しいと願っていたが、先程の俺の記憶の願いだったらもっと残酷だ。


 何故ならボロボロだったのは服装だけじゃなくて体もだったからだ。勇気が与えられたところで親をどうにかできるほど子供は強くない。


 物語的には最後は八百万の神々に協力してもらい少女の母親の病気を直すことができたことで、ハッピーエンドを迎えている。


 だが不可解なことがある。それは本には何箇所か破られたページがあったことだ。多分それはお天道様が白虎の記憶を隠した理由について書かれている所だと思う。そう思うのは,物語中に白虎が犯した罪が他のページには書かれてい無かったからだ。もし仮に罪の部分以外のところが破られているのなら物語として成り立っていない。


 きっとその禁忌、犯した罪が分かれば隠し部屋の開け方もわかるはずだと思う。

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