表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1.5章 七尾奏音 色欲復讐編
50/76

 恐ろしくなった。忘れていた記憶を思い出す度に起こる気持ち悪さ、痛み、苦しみを味わうことが、何で復讐する俺が苦しまなければいけないのだろうか。もう散々くるしんできたはずなのに可笑しい。そう思うと俺は逃げたくなった。足をエレベーターの方に向ける。


「佐藤くん、かくれんぼ終わってないよ。でも君ならそうすると思って、事前にエレベーターの電源は切ってある。気持ちは分からなくはないけど、これも必要なことなんだ」


「必要なことってどういうことですか」

「それはまだ言えない。でも、今後分かってくるはずだ。僕がやっていることの意味を、それに七尾奏音がどうして舞さんを殺したのかも分かるはずだ」

 

 先ほどとは打って変わって重く真剣な声で言う佐伯さんに俺はどうしていいのか戸惑った。戸惑う俺を更に混乱させる言葉が耳に入る。『七尾奏音がどうして舞さんを殺したのかも分かるはずだ』これは一体どういうことなのだろうか。俺の記憶の中に舞が殺されなければいけない理由があるということなのだろうか。


「これで少しはやる気になってくれたかな?」

「少し、整理する時間をください」

「ダメだ。整理する時間を作ってしまうと君はまた自分の記憶を封印してしまうからね。佐藤君、ちょっとの我慢だ耐えてくれ。今日が終われば全て分かるはずだ」

「そんなこと言われても、分からないです。佐伯さんは俺の気持ちの何が分かるって言うんですか。俺が俺のことさえも知らないのに、よく言えますね」


 混乱する頭を整理させるために時間欲しかったが、佐伯さんは落ち着かせる時間さえもくれなかった。俺は吐き捨てるように言葉を投げつけた。


 佐伯さんは何も言わずにプロジェクターの画面をいつもの夜景へと切り替えた。普段よりも冷たい夜景に見えた。


 次第に超音波らしき音も無くなり、痛みがぶり返して来る。こうなってしまったら速く終わらせるしかない。


 記憶を取り戻すための絵を探すために再度部屋を見渡す。中央には真っ赤なテーブルクロスが引かれたテーブル。奥にはプロジェクションマッピングされた夜景が見えるガラス張りの大きな窓。左右の壁中央には青色の龍の絵と白色の虎の絵が描いてある。これは四神(しじん)青龍(せいりゅう)白虎(びゃっこ)だろう。でも北と南の玄武(げんぶ)朱雀(すざく)が居ない。これじゃ四神じゃなくて二神(にしん)になってしまう。


 後は左右に扉があるぐらいだ。恐らく右側の扉はキッチンに繋がる扉だろう。昨日、佐伯さんが料理を作ってくると言った時に、右側の扉に入ったのを覚えている。


 そうなると、キッチンなどの水周りには絵は隠せないと思う。だから先に左側に部屋から見た方がいいと感じた。俺は左の部屋へと繋がる扉のドアノブに手を掛けて、中へ入った。


 中は思いのほか広く、二十畳ぐらいありそうだ。床から天井までの高さは三メートルといったところだろうか。そして壁一面には本が並べられている。不思議なのはこの部屋には本棚以外は何も無かったことだ。机も椅子も家電らしきものも何も無い。書斎だと思ったが、書斎なら机や椅子があるはずだ。本のために作られた部屋のようだ。


 びっしりと本がある本棚に近づい一つずつ確認する。佐伯さんのことならこの部屋に絵を隠しているかと思ったから。数十分見たが主にミステリー小説ばかりで不可思議な場所が見つからない。そして絵らしきものも挟まったりなどしていない。正直この部屋で引っかかる点など無かった。強いて言えば、部屋にある本がミステリー小説だけだったのぐらいだ。ミステリー小説が好きだって言われたらそれで終わりだが、それにしてもあり過ぎる気がしてならない。


 もう一度扉付近から一つずつ見る。人差し指で本の題名をなぞりながら見ていく。


『神の隠された秘密』


 という本が気になり、人差し指を止めて、本棚から取り出す。本を裏返しあらすじを読む。


 簡単に内容を整理すると禁忌を起こした白虎がお天道様に罰として、記憶を抜き取られて隠されてしまう。白虎は記憶を取り戻す旅に出る。道中で出会う仲間たちと試練を乗り越え、最後には自分の記憶を取り戻すと言ったあらすじであった。


 この本は童話みたいだ。ミステリー小説しかないと思ったが自分の気のせいだったみたいだ。


 結局この部屋にも何も無かった。そうなると残されたのは反対の部屋だけだ。でもそこに、四枚の絵が隠されているとは到底思えない。少なくとも一枚はこの部屋のどこかにあるはずだが、一旦分からないのに探すのは時間の無駄だと思い別の部屋へと移動することにした。


 少しモヤモヤした気持ちを抱えたまま隣の部屋へ移動する。ビルの高層階にある高級レストランみたいな部屋を通り抜けて、青龍の絵が飾られている扉に手をかけて中へ入る。


ダイニングキッチンでバーのようなカウンターキッチンがあった。想像していた風景とは少し違って驚いた。カウンターキッチンの奥にはワインセラーがある。間接照明で10畳ほどの部屋を杏子(あんず)色で照らしている。落ち着きのある空間って感じだ。


 やっぱり絵はぱっと見なさそうだ。念のため一通り見てみてる。カウンターキッチン、ワインセラーの中、壁、床、天井。


 あまり大きな部屋では無かったので数分で見終わってしまった。先程と同じで何一つ無かった。もちろん佐伯さんも居ない。


 でも違和感を覚えた。これで全ての部屋を見たはずだったが、ある場所が無かった、人が住んでいるなら絶対になくてはならない場所。生活する上には必要不可欠な場所。


 トイレ、風呂場、寝室が無い。佐伯さんは命を狙われているので、この事務所に住んでいることは確かなはずだ。わざわざ危険を起こしてまでここから別の家に帰っているとは考えずらい。だったら、他に部屋があるのだろうか。


 そしてその部屋は隠してあるのだろうか。


そうなると隠し部屋があるのはやはりあの場所だろうか。でも一体どこにそんな場所が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ