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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1.5章 七尾奏音 色欲復讐編
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不思議な男

 名刺に書かれていたのは氏名などの情報ではなく暗号だった。


氏名

『⁻・-・-・ -・--- ー・ー・・ ・・-・・ ・・ー ー・・ー


階数

『5166538787726921388』


 意味が分からない。俺が不思議そうに名刺を眺めていると、佐伯は暗号の解読方法を語り始めた。


「これはモールス信号って言ってツートンツートンツートン ツートンツーツーツー ツートンツートントン トントンツートントン トントンツー ツートントンツー、佐伯斗真って読むんだよ。で下の暗号は事務所にいくための暗号、見方は先ず、逆さまにしてアルファベットに見える2,9,6,3,7,1を排除して5と8だけにするでしょ、そこから55888っていう数字が出てくるからそれを16進数にして8A848になるからそこから8を排除してA4って導き出す。そしてA4、A4は紙のサイズだよね。サイズは297×210だからそれをエレベーターに入力すれば行けるようになってるよ」


 呪文のようなに早口で暗号の解き方を教えてくれているが、何を言っているのかさっぱりわからない。


「とりあえず、見せたほうが早いと思うからついてきて」


 佐伯に言われるがままついて行き、使用禁止と紙が貼ってあるエレベーターに乗り込む。


「え、このエレベーター乗るんですか?使用禁止とか書かれてますよ。乗っていいんですか?」


 佐伯は先にエレベーターに乗り込み、中から手招きするだけで何も言わない。乗るしか選択肢は残されていないようだ。中に乗り込むと佐伯は慣れた手つきで、2階、9階、7階、開ける、2階、10階、次々とボタンを押す。エレベーター内の階数表示板に地下10階と表示された。先ほど確認した案内板には地下10階なんて言う場所はなかった。もしあったならば気づいたはず。それに階数ボタンにも地下10階のボタンは無い。


 エレベーターが大きく揺れる。腰が抜けて尻餅をつく、使用禁止と書かれていただけに恐怖が増す。今にも壊れそうな音がした。俺は泣きそうになった。その様子を佐伯は笑って眺めている。


「いや、ここには何人か連れてきましたが、佐藤さんが一番面白い反応しますね」


 佐伯に殺意が湧く。依頼人がこんなに怯えているというのに笑うのは探偵としてどうなんだろうか。


「オコですか?いいですね!怒りってパワーの源ですからね!どんどん怒っちゃいましょう」


 『何がオコですか?』だ。頭の中どれだけお花畑なんだよこいつは。


「あ、着きましたよ!さぁ、ここが私の家兼事務所です」


 エレベーターから出ると、そこには、プロジェクションマッピングを使った夜景が広がっていて、内装は高級レストランをイメージさせるような空間だった。佐伯に案内されるがまま、真っ赤なテーブルクロスがひかれたテーブルに着く。佐伯は別部屋に消え、戻って来た時にはワイングラスと赤ワインを手に持っていた。


「まぁまぁ、ワインでも飲みながら、ゆっくり依頼内容について話し合いましょうよ、というか佐藤さんが来た理由はもう知っているんですけどね」


 不適笑みを浮かべる佐伯に少しだけ恐怖を感じた。佐伯はグラスに赤ワインを注ぐ。


「氏名は佐藤十思、西暦2310年10月14日生まれ、天秤座、血液型はB、身長は173㎝、体重は40㎏、今は、細胞破裂型ウイルス症候群、CEVという世界で三件しか症例が無い難病になってしまった。半年後に人間爆弾となり死ぬ運命の君は残された命で最愛の彼女を殺した七尾奏音に復讐するためにここに来たんですよね。あってますか?」


 ニコニコしながらワインを注ぎながら言う姿は、知っていて当然と言いたげな表情をしていた。


「貴方は何者なんですか」


 佐伯の瞳を見る。瞳の中に映っていたのは自分だった。佐伯は道化師のようにニッコリと笑う。グラスをクルクルと回しながら言った。


「強いて言えば、僕は君が作り出した幻ですよ。まぁそんなことはおいおい話しますよ。今はどうでもいいことですから、まぁ、先ずは飲みましょう。ちなみにこのワインですけど2000年代のワインなんですよ。名前はvengeanceって言って、今から、310年前に作られたワインなんです。世界ではもう残されてなくて、もう二度と飲めない赤ワインです。お値段は一本で8億」


「8億、、、俺飲めませんよ。そんな高級なワイン。しかもまだ21です。ワインのワの字も分からない人が飲んでいいもんんですか」

「君のために開けたんですよ。もし飲んでくれないのなら、今回の話は白紙にしちゃおうかな~」


 値段の額が想像以上で椅子から転び落ちそうになる。そして手を思いっきり左右に振って拒否した。だが佐伯は飲んでくれないなら、依頼はなかったことにすると言いだしてきて飲むしか無くなった。


 震える手でグラスを傾けて液体を口の中に含む。苦い。今にも吐き出したいぐらい苦い。苦くて飲めたものじゃなかった。だが高級ワインだけあって残すことは出来ない。ここに来るんじゃなかったと後悔した。


「あ、忘れた!ごめんね、つまみの一つも出さなくて。今からちょっと作ってくるから待ってて」


そう言うと佐伯は再び消えた。俺は、ガラス越しの夜景を眺めた。プロジェクションマッピングで作られた夜景は、ここが地下だと言うことを忘れさせてくれるほどに、綺麗だ。特にビルの明かりが白色、黄金色に輝き、その下には車のテールライトで道路一面レッドカーペットのようになっている。そして立体的なプロジェクションマッピングだからより美しく見える設計になっている。壁にマッピングしてあるんではなくて、四角い部屋にマッピングしてある感じだ。

 

 相当、佐伯はお金持ちなのだろう。羨ましい。


「お待たせ。とりあえず、ステーキ作ったからこれでも食べながら飲もうか」


  真っ白いお皿に盛られたステーキ。肉の上に置かれているローズマリー。まるでローズマリーがメインのように感じる。ローズマリーの花言葉は確か『あなたは……私を……』上手く思い出せない。まぁいいか。


「ところで佐伯さんは何であんな複雑な暗号を?」


 俺は肉をナイフで切り分けながら気になっていることを聞いてみた。佐伯はニコッと笑ってサラッと言った。


「あ~僕は命を狙われてるからね。第三者に偶然名刺が渡っても分からないように複雑な暗号にしたんだ」

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