誓い
佐藤十思
俺はいつの間にか眠って居たようだ。長い長い悪夢だった。六年経った今でも舞のことは鮮明に覚えている。カーテンを開けて日の光を部屋に入れる。Dreamplanの最初の一歩目、遺書を見ること、あの時何を読んで貴史さんは死んで行ってしまったのか、復讐を始める上で知らなければならない。本当に舞が書いたものなのか確かめなければならない。
押入れの奥底に入っている木箱の蓋を開ける。少し黄色がかった封筒に遺書と書かれている物を手に取る。汗が滲み、震える。未だに怖い。だが、見ないと俺は死んでも死にきれない。目を閉じながら封筒に入った手紙を取り出す。ゆっくりと目を開けて文字を目に入れる。
『なんで速く助けに来てくれなかったの。もっと速く来てくれればお母さんも殺されなくて済んだ。私、怖かった。男の人たちに無理やり犯されて、痛くて、苦しくって。でも2人が助けに来てくれるって思ってずっと耐えて待ってたの。でも来たのは全てが終わってから。どうしてお母さんを見捨てたの。速く来ればお母さんも救えたのに、お母さんが死んだのはお父様と十思のせいだから。私は絶対に二人を許さない。さようなら』
年数が経ったせいで字が消えかけているが、これは舞の字じゃない。そもそも舞がこんなこと言うはずがないんだ。だって、あの時舞は『ありがとう』って言ったんだから。
でも、当時これを読んでいたら貴史さんみたいに死んでいたかもしれない。奈美さんを救えなかったのは事実だし、速く助けに行けば二人とも傷つけずに済んだのかもしれない。
当時本当に読まなくてよかったと思う。でも同時に一緒に読んでいれば貴史さんは死なないで済んだのかもしれ無いとも思う。俺が止めることも出来たのかもしれない。そう思うと悔やみきれない。
手に持った遺書を鞄の中にしまう。今日俺は行くところがある。
あそこに行くのは何年ぶりだろうか。高校を卒業してから来ていないので三年ぐらい経つのだろうか。そんなことを考えながら向かっていた。
目的地に着く。沢山の墓地が並ぶ。その中から佐々木と書かれている墓地まで足を運ぶ。墓石の前に経つと暫く来ていないのに綺麗に掃除がされていた。誰かが来てくれているのだろうか。良かった。働き始めてからは地獄に耐えるだけで精一杯で来れてなかったから。
線香に火をつけて、花を供える。
まず、貴史さん、奈美さん、舞、暫く来れなくて本当にすみません。でもこれからは来れそうです。そして、来た時にはいい報告ができるように頑張りますから見守っていてください。三人の仇をとって来ます。
佐々木家族に誓いを立てると、晴天の空から一滴の大粒の水滴が落ちる。清々しい雨に俺は思わず天に向かって微笑んだ。嬉し泣きをしているようだ。
霊園から出ると近くにあったコンビニエンスストアで傘を買った。徐々に天泣だった天気も厚い雲に覆われ、日中だというのに暗く湿気で不快感が体に纏わり付いた。不快感を纏ったままもう一つの目的地に向かった。
ホームページで書かれた地図通りに進むと、無数にビルが立ち並ぶ場所へと出る。その中で一際大きなビルがあった。思わず見上げると、上層階は雲で覆われて見えないぐらい高いビルだった。
もう一度地図に目を戻す。地図はこのビルを指しているようだった。東宿ビルディングというらしい。
緊張しながらも中に入る。エレベーター付近にあった案内板に目を通す。だが目的の場所を示す場所はどこにも見当たらない。
地図には東宿ビルディングと示されているのに何階なのか詳しい情報は示されていない。受付に聞いて見ても首をかしげるばかりで答えてくれなかった。自分が間違っているのではないかと思い、もう一度携帯でホームページを開き、地図を確認する。だが、何度見ても東宿ビルディングと書かれている。そして、困ったことに電話番号も書かれていない。
俺は落胆して、ベンチに座り込んでいると、スーツ姿の男性が隣に座って話しかけた。
「貴方は探偵事務探しているんですよね?数分前から貴方のこと見てたのですが、あなたは案内板を見たのに、エレベーターに乗らず、それどころか受付に何やら話しかけていた。でも受付の方も首を傾げていた。ということはこのビルにあるが無い場所を探しているってことですよね。そして、その場所は一つしかない。それは、私が経営している佐伯事務所です。どうですか?あってます?」
ニコニコしながら話けてくる。彼は怖かった。食い気味に推理じみたもの語る彼は変人認定するには十分というほどに変人だ。逃げるにも逃げられなかった。全てが当たっているから。
「あ、あってます。というか貴方が佐伯事務所の人なんですか?」
変人から体を遠ざけながら聞いた。
「はい!そうです!あ、えっとここら辺に、あ、あった!改めまして私が佐伯事務所の佐伯斗真です。よろしくお願いします」
佐伯は内ポケットから名刺ケースを取り出して、名刺を渡してくれた。だが、渡された名刺には何も書いてなかった。
「あ、あのこれ、、真っ白なんですけど。」
「あ、そうですよね……ちょっと待ってください、えっと、これじゃないしな、あ、これかな?あ、あった!あった!」
そう言って持っていたリクルートバックから出したのはブラックライトだった。
「晴れている日だった、普通に見えるんですけどね」
佐伯は苦笑しながら俺が持っていた名刺にブラックライトを当てながら言った。ブラックライトが当てられた名刺からは文字が次々と浮かんできた。だが名前ではなくて以外なものだった。




