混沌
手紙には地図が入っていた。ここに二人は誘拐されたのだろう、貴史さんと僕は急いで示された場所に向かうことにした。
佐々木舞
私が十思に連絡をいれ、家を出ようとした瞬間、インターホンが鳴った。私は十思が来たのだと思い、ドアを開けた。するとと見知らぬ体格がいい男が覆面を被った二人組が立っていた。腹部から電気が走るスタンガンだろうか。壁にもたれかかりながら私は気を失う瞬間に弱々しい声で叫ぶ。
「お母さん逃げて、、」
薄れる記憶の中で見たのは男たちが母に向かって拳銃を向けている場面、鈍い音と母の悲鳴、だった。
目を覚ますと私は教室らしきところにいた。蛍光灯が点いたり消えたりしている。動こうとして体を揺すると腕が椅子に荒縄で固定されていた。私は静かに顔を上げるとそこには、悪夢以上に残酷な出来事が繰り返されていた。
血まみれの母と思わしきヒトに複数人が群がり犯している場面。まるで、ハイエナが草食動物を食い散らかしているようだった。母の顔面は白い液体で覆いつくされ、服は全て破り捨てられ、穴という穴に棒を差し込まれている。腹には肉便器という文字が刃物のようなもので刻まれていて腹部からは赤黒い液体が流れ出ている。
あまりにも悲惨な現状に、私は目の前の出来事が悪夢のように思えた。ただただ呆然と母が犯されていくところを見ていることしかできかった。だが、次第に生臭い匂いが鼻腔の奥に突き刺さり、腕を締め付ける荒縄の感触、興奮している男たちの下品な声が夢ではないことを教えてくれた。
現実だと知ると、足元から悪寒が走り、腹の底からはどす黒い殺意が溢れ出し、脳みそは現実を拒絶して、口からは喉が破れるような悲鳴を出していた。
「いや、、、いや、、、ぃやややあやややや」
こみ上げてくる気持ち悪さで叫びながら胃液をぶちまける。
「おいおい、吐くなよ」
群がるハイエナの中から聞き覚えがある声がする。全身を怪物に舐められているような怖い思いがが全身に走る。この声はよく教室で聞いている声だった。勇気を出して声がした方ゆっくりと見る。
担任の郷田先生だった。
「先生……何で」
私の全てが崩れ落ちるのが感じた。頭の中で思考の土砂崩れが起きる。思考の中で疑問符が大量に浮かぶ。心が全てが崩れ去る。
「先生な、、こういうの一度やってみたかったんだよ」
不敵な笑みで笑う先生の手には血まみれのカッター、そして、、、生肉が刺さっている。私は考える。何の肉だろうかと、、
「佐々木、問題だ。これ?何の肉だとおもう?先生に教えてくれよ」
先生は笑いながら豪快に生肉にかぶりつく。咀嚼音と男たちが喘ぐ声、母の真っ白い汚れた顔、血だらけの床地獄さながらの現実だった。
「――――――」
私は答えることが出来なかった。答えるのが怖かった。
「正解は、人だよ。先生な人を食うのが好きなんだよ。昔に一度やってから、この味が忘れられない。生臭くて生暖かく柔らかい感触と味、命を感じるよ。もう最高でさ。あ~生きているって感じがしてやめられない」
思考が凍りつく。
「あ、ごめんな、勘違いさせたよな。安心してくれ、まだ佐々木のお母さんのは食べてないから安心してくれ。先生、死ぬ寸前の若くてほのかにあったかい肉が好きなんだよ。だから今は犯すだけだから安心してくれ、もうコイツは冷え切っているし若く無いから非常食として頂くから」
非人道的な話をまるで、趣味のことを話しているように滑らかで、熱をもって楽しそうに話している先生はもう人間ではなく怪物のように見えた。
「あ、それで、この肉は先まで犯していた。女子高校生の胸かな?皮を剥いで食べるから何処か分からないな」
先生は美味しそうにかぶりつく。私も最後は先生に食べられてしまうのだろうか。そう思うと怖くて叫び声さえもでなくなる。
夢ならば、速く覚めてほしいと思った。殺意、悲愴感、苛立ち、恐怖で感情は壊れ、嘔吐、涙、鼻水で顔はぐちゃぐちゃになり、声帯も壊れて、抗う力を失った。
「助けて……十思」
私は惨めな表情で呟く。
「おいおい、彼氏に助け呼んでどうする」
先生は口元を赤黒い血で真っ赤にして、不敵な笑みを浮かべている。先生はまるで幼い子供が蟻の手足を無残に引きちぎって遊んでいる子供のようだった。
「ここがどこでも十思なら……、来る……約束したんだから、私を守るって」
恐怖で身も心も覆われて、思うように声が出ない、悔しい、怖い、逃げたい、全身を舐められているかのような気持ち悪さが走る。
廊下から誰かの足音が聞こえた。期待に鼓動する。私は十思だと思い、最後の力を振り絞って掠れる声で叫んだ。
「じ……じっ……じっし……!た……すけて!!助けて!私はここにいるよ。ジッシ、、」
私は椅子に固定されている身体を左右に揺らして、何とかして廊下の方へ向かう。私は必死に廊下の方へ方へと椅子を引きずりながら向かう。
廊下の足音が徐々に大きくなる、私の期待も徐々に高まる。これで十思が来てくれれば助かる。そう思った。一筋の光のようなものを追いかけているような、そんな気持ち廊下の方に向かう。
私は身体のバランスを崩して椅子ごと前の方に転んでしまった。勢い良く顔面をぶつけて、鼻からは赤いものが出る。
廊下でしていた足音が教室の方に入ってくる、そして私の鼻先で止まる。
「十思、、たすけに来てく、、」
私は勢いよく顔をあげる。だが、そこには十思は立っていなかった。代わりに立っていたのは、私のことを一番恨んでいるであろう。宇土正真と親友だと思っていた奏音が立っている。
「え、何で、、何で奏音が、、噓で、、しょ、、、ねぇ!ねぇってば!奏音!どうして!ここにいるの?」
奏音はこの日を待っていたかのようにただただ残酷に見下すように笑っていた。




