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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
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混乱

「あのさ、こんなこと言える立場ではないけど、私ね、舞のこと大好きだから、、だから、隠し事もうしないから、許してくれる?」


 奏音の表情を見ると今にも泣きそうな顔をしている。流石にこれが全て演技だとは思えない。


「もう、、しょうがないな。私も自分の気持ちが言えてスッキリしたし、、、だから仲直りのハグ」


 私は奏音のことを勢いよく抱きしめた。奏音の硬かった表情がみるみる柔らかくなっていったのが分かった。


「ねぇ!見て!スペアとれ……って舞と奏音何やっての?二人で抱き合って」


 皐月が振り返りながらそう言った。皐月の言葉で今まで微塵も気付かなかった十思と菜摘も振り返った。菜摘は不思議そうに首を傾げていた。だが、十思だけは優しく微笑んでいた。まるで、良かったね。とでも言いたげそうだ。私は十思にウインクをした。


「えっとこれは……秘密」


 私も奏音同様に噓が下手くそだった。






ボウリングからというもの、あっという間に時間は流れて12月25日クリスマスになっていた。私はマフラーとコートに身を包み、玄関で靴を履きながら十思が向かいに来るのを待っていた。楽しみ過ぎて心も身体も落ち着かない…一分が凄く長く感じる


何度も何度も時計を見るがまだ一分も経っていない。私は居ても立っても居られなくなり、先に駅で待とうかと思いドアに手をかけた。


佐藤十思


 俺は舞を迎えに行こうと思い、舞の家に向かっているとポケットに入っている携帯が振動する。この携帯は貴史さんが無いと不便だからということでプレゼントしてくれた。貴史さんには感謝しかない。


 携帯を開くと、舞からLightsが入っていた。


【先に駅で待ってるね!】

【分かった!着いたら連絡する】


 舞に返事を送る。速く舞に会いたくなった。自然と足取りが軽くなり、少し小走りしながら駅に向かう。思いのほか速く駅に着いてしまった。売店で飲み物とかを買って待つことにする。あったかいミルクティーを二つ買う。かじかんだ手が生き返るようだ。


 売店から待ち合わせの場所に戻るが舞はまだいなかった。Lightsでは先に駅で待っていると連絡が来ていたのに、トイレでも行ったのだろうか。


 携帯を開く、ホーム画面に表示される佐々木家族との写真を見て心が買ってきたミルクティーのように甘く暖かくなるのを感じた。


 もう少しだけ待ってみよう。





 まだ来ない、、、、あれから30分が経った。もう舞には電話している。だが出ない。一つだけ手に持っていたミルクティーは冷め切っていた。嫌な予感がする。身体の毛を逆なでされるような、冬に真水を頭から浴びた時のような、とっても嫌な感覚。


 速く電話に出てくれと思い電話をかける。






「おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません、、、」何回目だろうか。待ち合わせ時間はとっくに過ぎている。


 舞の家に向かおうと足を動かす。手に持つ携帯に電話がかかってきた。急いでディスプレイに表示された名前を確認する。


 貴史さんからだった。心が悲鳴をあげる。舞に何かあったのだろうか。全身が小刻みに震える。心臓が痛いほどにゆっくりと大きく飛び跳ねる。まるで芋虫が心臓に入り込んだような嫌な動き方だった。


「もしもし佐藤君そっちに舞と奈美いるか」


 貴史さんの声色は比較的冷静だが、奥底に焦りを感じさせるものがあった。嫌な予感が確信になる。


「い、ない、です」

「そうか、、佐藤君、、落ち着いて聞いてくれ。舞と奈美が誰かに襲われた」


 貴史さんが何を言っているのかが分からなかった。分かっていたが脳みそが拒絶して全く理解が出来ない。


「え?貴史さん?何を言っているんですか」

「家に帰ってきたらドアは鍵が閉まってなくて、家の中は荒らされていた。それに、、、大量の血痕があった。きっと奈美や舞のものだろう」


貴史は残酷に言葉を紡ぐ。俺は思っている以上に事態が悲惨であるということを知る。足に力が入らず崩れ落ちる。


「一回あって話がしたい」


 そう言って貴史さんは電話を切った。


 崩れ落ちた足を立ち上がらせようとする。ダメだ全然力が入らない。もう何がどうなっているのだろうか。三時間前まで幸せを感じていたのに、どうして、こうなったのだろうか。


 手から落ちた携帯の画面に貴史さん、舞、奈美さんが笑う姿が見えた。


「俺はまた救えないのだろうか」 


『私を守る男になるんでしょ?』


 声が聞こえた気がした。すぐさま立ち上がり辺りを見回す。だが、周りには誰もいない。あの声は絶対に舞だったのに、きっと舞が助けを求めている。直ぐに助けに行かなければ、まだ死んでいるとは貴史さんは言っていないのだから。きっと生きている。だから、今聞こえたんだ。声が思いが。


俺は落ちた携帯を広げて無我夢中で走り出した。一秒でも速く速くと思いながら走る。足が縺れそうになりながらも走る。


 無我夢中で走り出したからだろうか、気付くと目の前には舞の家があった。だが、いつもと違う光景に身体が握り潰されそうになった。


 家の前には数台の警察車両と警察官が複数人いて、家の周囲には黄色テープが貼ってあった。貴史さんが無表情な顔をして俺を見つめる。


「家に呼んどいて悪いけど、場所を移そう」


 貴史さんはそう言って俺に家の中を見せないように歩く。想像はある程度ついた。でも、それ以上に悲惨な状況になっているのかもしれない。だから見せないように配慮してくれたのだろうか。心が割れそうだ。


「それだったら、俺の家で話しましょうか、、」


 俺の家が一番近いというのもあったが、一番は人がいない場所の方が話しやすいと思ったからだ。


 俺の家に向かう間にも貴史さんは暗い顔をしながら呟いた。


「警察は強盗殺人で見ているそうだ…」

「それって、、、、舞や奈美さんは殺されたって、、、こと、ですか」


 俺は足を止めて言う。貴史さんは無言で首を横に振った。


「僕は、まだ二人は生きていると思ってる。証拠に遺体はなかったし、強盗にしては取られたものが少なすぎる。二階が荒らされていなかったのも不思議だ。二階に寝室など比較的貴重なものが置いてあるとされるところが荒らされていたなかった。いや、それどころか、二階に立ち入った形跡も無い」

「じゃあ、何故警察は強盗殺人なんて決めつけているんですか」

「それは、、、、僕には分からない。でも、これは、あくまで僕の憶測なんだけど、二人は誘拐されたのだと思う。爪痕もリビングから玄関に向けて痕跡があった。道路にはタイヤ痕がある」


 貴史さんの意見を聞いて少し肩を降ろした。どこかでまだ生きているのならば、希はあると思ったからだ。


 俺の家に着くと、ポストの中に一つシロツメクサが中に入っているシーリングで止めた黒い洋封筒が入っていた。開けてみると、そこにはチケットを濡らせと書いてある。


「シロツメクサの花言葉は復讐、、、」


 俺は復讐と聞いて待った先に宇土正真の顔が思いつき、急いで部屋に入り蛇口を捻る。そしてユートピアランドのチケットを濡らした。そこには暗号らしき意味不明な言葉が書いてあった。


「ゲームを始めよう!最初のお題は……またな旅田田や多々 に行け」


 俺は、貴史さんに暗号らしき文章を見せる。貴史さんは胸ポケットに入っている手帳を取り出して、何やら書き出す。そして、脱いだばかりの靴を履き直した。


「佐藤君、学校に行こう!急いで!」


 貴史さんに言われるがまま学校に向かった。


「貴史さん何でいきなり学校に行こうって言ったんですか?」


 貴史さんと学校へと走り出しながら聞く。


「あの暗号はタヌキ文なんだ、だから学び舎となり、学校になるんだよ」


 どうしてそうなるのか説明されてもよくわからなかった。貴史さんがいてよかったと思った。もし俺だけならきっと解けないままだっただろう。しかもあの一瞬で解けるとは流石だ。


 学校の正門は閉まっていた。入れそうにはない。幸い先生たちもクリスマスでいなかったので門をよじ登って中に入る。


 昇降口の閉じられたドアの前に着くとまた黒い洋封筒があった。そこには昇降口をあける鍵とヒントが書かれていた。


「ヒント・答えは一回目の暗号の中にある」


 僕が昇降口を開けている時に貴史さんは手帳を見返していた。


「またな旅田田や多々、またなたびたたやたた……クソ!わからねぇ」


 俺は、昇降口を明け終わると、貴史さんの手帳を見て言った。


「たがななかい」

「確かに、たがななつ」


 「『た』が七つ」俺は何かにひかかった。たがななつ、あ、そう言えば、クラスメイトに多賀夏懐(たがななつ)がいることを思い出した。


「貴史さん!もしかしたら答えが分かったかもしれません」


 俺は、多賀夏懐の下駄箱を見に行った。案の定シロツメクサで止められた黒い洋封筒が入っていた。








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