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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
38/76

真相

 私が投げる番に回ったので、そそくさと立ち上がりボウリングを手に持ちレーンに立った。何とか奏音から襲われなくて済んだ。だが、レーンに立ったはいいが、現実に戻された。私と皐月とも十思とも点差がひらけていない現実に戻され鼓動が細かく速く震える。


 私がここで決め切らなければ、また追い抜かされてしまう可能性もある。少なくとも八本は倒してプレッシャーをかけたいところではある。が、そう思うと肩に力が入ってしま。額からは汗が出た。そんな自分を落ち着かせようと深呼吸をする。


 自分を落ち着かせると手に持ったボールを勢い良く投げた。ボールは手汗で滑ってしまって、思った通りには進んでくなかった。ガターギリギリのところを転がっている。私は嫌な汗を搔きながら、願った。しかし、願いは虚しくも届かなかった。


 二投目も気持ちを切り替えることができずにガターに入れてしまった。これで十思と皐月が三本以上倒せば逆転されてしまう。


席に戻ると奏音は大人しくなっていた。きっと私の顔が真剣な表情になったからだろう。


 私はたかが遊びだけど、負けたくなかった。そんな気持ちを持っているからこそ、余計に悔しい。でも、今は7フレーム目だからストライクを取られても、私がガターしなければ全然逆転のチャンスはあるはず。私がそんなことを考えていると、レーンから豪快な音が聞こえた。嫌な予感がした。


 ディスプレイには『ストライク』という文字が映し出されていた。その後も、私の希望は打ち砕かれて、十思もストライクをとってしまった。しかも、それがプレッシャーになり、8,9フレーム共にガターを出してしまう。十思との点差は29点で、皐月とは25点も離れてしまった。


 緊張の10フレーム目。私が投げる前に皐月が言ってくれた。


「舞、顔怖すぎだよ、もうちょい楽しんで投げたほうがいいよ。舞は最初みたいに笑顔で投げたほうが、点数もいいんだし」


 冷水でも浴びさせられたように、緊張で火照った身体が冷めていく。


「皐月、ありがとうね」


 私は満面の笑みで、そう言ってレーンと向かい合った。もう内心、皐月の言葉を聞いて勝負なんて一旦忘れて楽しく投げることだけを考えた。どんな結果になっても楽しんで投げようと誓った。


 投げたボウリング玉は左端のピンめがけて転がって行く。もうガターでもいいと思っていた。大事なのは勝負ではなく、楽しむことだったから。


 私は最後に楽しく投げられた。もう十分だと思っていた。だけれども、ボウリング玉は右側に急カーブをして、豪快な音を立て、次々とピンを倒した。そして、真上にあるディスプレイには、先ほども皐月や十思の時に見た単語が見えた。


 でも、ここでストライクを取ったとしても、勝てないとわかっていた。だから二投目も気楽に投げる。レーンから豪快な音がなる。二度目のストライク。三投目も投げられるようになった。


 私の心は少し勝負欲に支配されてしまいそうになった。もしこれでストライクを取れたら最後の最後で勝てるかもしれないと思ってしまった。


「「「「舞、頑張れ!」」」」


 みんなの声援が聞こえた。声を聞いて、自分だけが勝ち負けを気にしていると気づいた。自分が恥ずかしい。やはりこういう時こそ楽しむからこそ、後悔しない結果になるのだと思う。


 私は心の中でみんなに感謝しながら投げる。


 投げたボールは音を立てて転がって行く。心臓の鼓動とボウリング玉が転がる音が重なり合い、不思議な感覚になる。楽しむことを意識して投げたつもりだが、さすがに緊張してしまっている自分がいた。全ての現象がゆっくりになっていた。ボウリング玉もゆっくりとピンに向かって行っている気がする。私は固唾を飲んで見守った。


 ボウリング玉は中央のピンに当たる、だが前の五本当たった辺りから、ピンが一本ずつゆっくりと倒れる。そして、最後の一本も他と同じように、、、とはいかずに、倒れずに大きく揺れた。振り子のように左右に揺れるが倒れない、何度もなるが倒れない。どんどんと揺れは小さくなって結局一本だけ残ってしまった。


 席に戻ると、『みんなが惜しかったね』と言ってくれた。その言葉は本心から言ってくれているような気がして、悔しさが優しさで溶けていくような感じを味わう。


 今の私だったら、奏音にチケットの話ができると思って隣にいる奏音に思い切って聞いてみた。


「奏音あのさ、チケットくれた時の話なんだけどさ……」


 奏音は明らかに困ったような表情を浮かべている。私は奏音が逃げる前に話し続ける。


「月曜の美術の時にさ、皐月と菜摘がチケットの話した時に、だから最初……って言ったじゃん、あれって何言おうとしたの?」


 私は奏音の方を向くことが出来なかったので、皐月が二投目を投げているのを見ながら言った。


「え?そんなこと言ったかな?覚えてないよ、でも、あれじゃない、だから最初はびっくりしたんだよって言ったんじゃないかな?」


 奏音は噓をつくのが下手すぎる、明らかに誤魔化そうとしているのがわかる。


「あ、そうだったんだ、じゃあさ、何でチケットをどこで入手したのか教えてくれないの?」


 奏音は口を閉ざす、何か言いたくないことがあるのだろうか、せっかく仲良くなったと思ったのに、こうやってだんまりになられると、元から信頼されていなかったように感じてしまう。


「私ね、噓でもよかったんだよ、ほんとのこと教えてくれなくてもよかったの……せっかく、仲良くなれたと思ったのに、隠し事されると、まだ信用されてないんだ。ってなっちゃってさ、傷ついちゃったんだよね……」


 奏音の表情はわからないけど、きっといい表情ではないということは空気の重さで分かった。


「ごめん…実はさ、彼氏から貰ったんだよね。でも、何故か彼氏には俺から貰ったって、誰にも言うなよって言ってて。だけど、舞に噓つくのも嫌で、変に誤魔化そうとしちゃった、ごめんなさい。舞が傷ついてるなんて知らなくて」


「あ、そうだった……だから最初に彼氏から貰った時って言おうとしたんだ」


 でも、彼氏さんはどうして私たちにチケットを渡してくれたのだろうか?いくら奏音が私たちのことを話していても、入手困難なものを自分たちで使わずに他人にあげるのは、不自然な気がする。と思ったが深堀りしても奏音が困ると思ってやめることにした。


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