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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
37/76

熱戦

 十思は二投連続でガターだった。だけれど案外楽しそうで少し安心する。十思の番が終わり、2フレーム目に入る。私は先程のように皐月に馬鹿にされたくないので、事前に菜摘からコツを教えて貰っていた。それを頭の中で反芻させ意識しながら投げる。


 流石は菜摘。先よりもボールが真っ直ぐに走る。しかし、球速に勢いが無く五本しか倒れない。二投目はもう少し腕を後ろに下げてやって力いっぱいに押し出す。今度はボールが指から離れる瞬間左にずれてボールの軌道も左側にずれてしまいガターになってしまった。


「舞どうしたの?凄くうまくなったじゃん!」


 皐月から褒められた。別に煽りとか無く単純に褒められた。なんだか照れてしまう。他のみんなも褒めてくれた。人から褒められることに慣れてない私は気恥ずかしく顔が火照った気がした。


「これは、もう舞に負けられないから私も本気出しちゃおうかな!」


 皐月がやる気満々で席を立ちボールを持った。


「そう言えばさ、何でボウリングに誘ってくれたの?」


 隣にいた奏音が聞いてきた。ここは素直に答えるべきか、濁すべきか困っていると、十思が多くいたほう楽しめるからとフォローに入り俺が提案した経緯を話してくれた。


「確かに二人で行くよりは人数が多い方がボウリングって楽しめるよね」


 奏音が可愛らしい笑顔を向けながら言うとレーンの方から大きな音が聞こえた。奏音の顔からレーンの方に顔を向けると皐月がガッツポーズをしている。皐月がストライクを取ったらしい。私たちは話に夢中で全く見ていなかった。


 私たちは皐月とハイタッチしていく喜びを分かち合う。皐月はやっぱりやればできる子だと思う。単純にすごいと思う。


 奏音が皐月とのハイタッチが終わるとそのままボールを持ちレーンに向かう。私は疑問に思った。奏音はよくあの華奢な腕で、しかも片手で投げられるのだろうか。そもそも、なんであんなに腕が細いのだろうか。肌は色白だし、本当に羨ましい。


 奏音が投げ終わる。戻ってくると今度は菜摘が投げる。菜摘とは初めてボウリングに来るが、ホームが綺麗で投げるときは軸が全くぶれていない。しかも、高スコアを獲る。まるでプロのような投げ方にみんなが菜摘に魅了される。先ほどの会話なんて忘れてしまうほどに美しい。


 十思は力任せで投げているから。球速だけで、ピンを倒している感じがある。お世辞にも上手いとは言えない。


 3フレーム目、4フレーム目と進んでいき、5フレーム目に入った。途中結果をすると、菜摘、奏音、十思、皐月、私のランキングである。初めてボウリングに来た十思に負けているのは思いのほかショックだ。私は悔しい気持ちを払拭するためにボールを握り投げる。ボールは中央をめがけて進んでいき、左端と右端のピンが残ってしまった。


 これで、皐月との点差は一点差になった。十思とは二点差である。私は皐月と並ぶためにも確実にピンを一本倒すことにして集中する。心臓がドキドキしている。きっとこれは、武者震いだと思う。そうであって欲しいと思いながら、私は勢い良く腕を後ろに引いて投げた。狙い通りに左端のピンに向かってボールが進んでいく。ガターに落ちそうでハラハラする。


 怖くてピンにボールが当たる瞬間に目をつぶってしまう。目を開けるとスペアという音声が流れてきた。席に座っているみんなが立ち上がって驚いている。何があったんだろうかと不思議に思っていると、菜摘が興奮気味に言う。


「舞、凄いよ。左側に残っているピンを倒して、そのピンで右側のピンも倒すなんて、まぐれだとしても凄い!」


 左端のピンを倒した反動が右端のピンに当たって倒れたらしい。ともかくこれで、皐月を超して十思と並んだ展開となった。面白い展開だが、ここで皐月がストライクをとってしまうと奇跡が台無しになる。


 だがこういう時に限って、皐月と十思はストライク、スペアをとってしまうから嫌になる。これで、点差が開いてしまった。


 6フレーム目、私の心は折れかけていた。だけど、ここで諦めてしまったら、私じゃないと思いもう一度、闘心に火を燃やして投げる。


 ボールは勢い良く真っ直ぐに中央のピンにめがけて転がって行く。このまま行けばストライクを取れると思った。しかし少し球速が足りずに九本しか獲れなかった。ストライクを期待しただけに、落胆が大きい。


 だが次に一本当てるだけで、スペアになる。逆転することができる。そう思うことで気持ちを立て直して、再びボールを握り再びレーンに立つ。


 胸が破裂しそうなほどに波打っていて身体も息も震える。私は一度胸に手を当てて深呼吸をして気持ちを抑える。そして、レーン上に残っている一本のピンを見る。鷹が狙った獲物を見るように、鋭く見る。そして、私は鷹が獲物に近づくように腕を勢い良く降ろす。鷹のように素早く勢いがあるボールが投げられたと思う。


 ボールがピンに近づいていく。残ったピンめがけて転がっていく。私は思わず息を止めてしまう。まるで、息を止めると心臓の音がやけに耳に響き、次第に時間が止まったようにゆっくりとボールが転がっていく、周りの雑音が聞こえなくなりレーン上を転がるボウリング玉の転がる音だけが聞こえる。


……


ゴロゴロ


……


ガッシャーン


 真上にある画面から音声が聞こえてくる。


 また、奇跡が起きた。席に座っているみんなも歓声を歓声をあげる。皐月も十思も立ち上がって自分事のように喜んでいる。その光景が何よりも嬉しい、敵である前に友達であるということを実感して優しい気持ちに包まれる。


 皐月と十思は互いに三本残しで終わった。8フレーム目に入る。奏音はねぇねぇと言いながら肩を叩いて聞いて来た。


「ねぇ、舞、あのさ、十思君ってどんな風に告白してくれたの?」


 唐突な発言に飲んでいたお茶を吐き出しそうになった。奏音の目を見るとキラキラした瞳で私のことを見つめている。なるべくなら期待に応えてあげたい。そう思い、告白された時のことを思い出す。だけれども、恥ずかしくて、言えなさそうに無かった。なので奏音には悪いが誤魔化した。


「えっとね、内緒!!!」


 顔を火照らしてはにかむ照れ笑いをしながら言う。告白した当人はピンを倒すのに精一杯みたいだ。


「なにそれ!内緒とか、可愛いかよ」


 奏音に可愛いと言われて更に恥ずかしくなった。手で顔を隠す。


「舞、それ反則的に可愛すぎる~」


 奏音は更に余計にヒートアップして身を悶えさせながら可愛いと連呼する。

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