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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
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モヤモヤ

 奏音が隠したことがどうでもよくなり、私の意識が完全に白黒の世界に落ちた時、鉛筆と画用紙が擦れる音しか聞こえなくなった。今回描いているのは、山の風景画で、麓には川が流れている。川の描き方が頗る難しい、ひたすらに描いては消してを繰り返す。繰り返しては上手く描けない自分に嫌気が指す。そしてそんなことをしている間に、授業が終わってしまった。


 教室に戻る間、奏音にチケットの話を皐月と菜摘が持ちかけていたが、奏音が困った顔を私の方に向けてきた。仕方なく皐月と奏音の間に中間に入り止めてあげた。本当のところは私も皐月たち同様に真相が知りたかった。そして何で隠す必要性があったのか知りたかった。だけど奏音には嫌われたくないという気持ちが勝ってしまった。


 教室に戻ると今度は私に皐月と菜摘が詰め寄ってくる。


「奏音はどうして、頑なにチケットをどうやってゲットしたのか教えてくれないのかな?教えてくれたら、私たちもゲットできると思ったのに」


 私もどこでゲットしたのかを知りたい、どうして教えてくれないのだろうか。疑問に思う。普通に福引で当てたとか何とか言えば収まる話なのに、どうしてだろうか、内緒にされると余計にモヤモヤしてくる。あと、『だから最初』って何を言いたかったのだろうか。


「よし、今日の放課後、絶対聞き出してやるぞ」


 皐月は意気込んでいるが、聞きすぎて嫌われなければいいなと密かに思う。せっかく奏音と皐月たちは仲良くなって最近は一緒に帰ったり遊ぶ中になったのに喧嘩してしまったら、絶対に私が仲介役として巻き込まれる面倒なことになると思うと苦笑が滲み出てしまう。


モヤモヤを抱えたまま、時間だけが過ぎる。学校の帰り、私はモヤモヤしていたことを十思に話した。


「今朝、奏音からチケットもらったじゃん。それでさ、美術の時間の時にチケットの話をした時にさ、奏音がなんか変だったんだよね」


 十思は首を傾げながら私の話を静かに聞いてくれた。


「変って何が?」

「チケットの話になると何かを隠しているような言動をするんだよね。私の気のせいかもしれないけど、なんかそれが、私にとっては少し嫌になったというか、ショックだった」


 思い出すたびに少しずつ自分のメンタルが傷ついていくのが分かる。最初はちょっと嫌だなと思うほどだったが、時間が経つほどに私と奏音の仲は実はそこまでじゃなく、ただの知り合い、いやそれ以下かもしれないと疑心暗鬼になってしまっていた自分がいる。


 私が話し終わると少しの間、沈黙が続いた。秋の肌寒い風の音が鮮明に聞こえた気がした。風の音が鳴りやむと十思は口をゆっくりと開く。


「確かに、仲が良かったと思っている人に何かを隠されたらいやだよね…俺さ、友達とかいないから舞ほどよく分からないけど、でもそんなにモヤモヤするなら直接自分が感じていることを言えばいいんじゃないかな」


 私も自分が感じていることを言えたらどんなにスッキリするだろうかと考えたが、嫌われるのが怖くて聞けない。だから十思に聞いているわけなんだが、ちっとも、分かってくれていないような感じがしてしまい、イラっとしてしまう。


「もし、それで自分が感じていることを言って、奏音に嫌われたら…どうするの…」


 私はイラっとした感情をこらえてなるべく冷静に聞く。


「俺的にはさ、奏音さんがむしろ舞に嫌われたくないから何かを隠したんだと思うんだよ。そもそも、チケットをどこでもらったとかはさ、正直噓付けばどうとでもなるはずじゃん。それをわざわざ不自然な感じで誤魔化したということは、舞には噓をつきたくないという考えがあったんだと思う。だからこそ不自然になってしまったんだと思う」


 確かに十思が言っていることは正しいのかもしれない、だけど、まだ怖い、正直に聞く勇気が出ない。


「よし!分かった!じゃあ俺が代わりに聞いてきてあげるよ!それだったら、問題ないでしょ」


 十思はいいことを思いついたみたいな顔をしているがちっとも名案だとは思えない、というか十思はなんて言うつもりなんだろうか?不安でしかない。


「問題あるよ、なんて聞くの?」


私は怒りを抑えきれなくなってしまい、少し口調を強くしてしまった。


「え?普通にこのチケットって抽選で当たったんですか?って、そうすれば、ちょっとはスッキリするだろう?きっと俺にだったら、正直に言ってくれると思うし」

「その根拠は?」

「無いよ。でもさ、噓でも本当でも言ってくれれば舞がスッキリするじゃん」

「だから噓だとダメなんだって」

「でも噓っていう根拠もない訳でしょう。っていうことは舞が本当だと思えば本当になるでしょ」


 違う。私は心の中でそうじゃないと訴えた。どうしてだろうか、いつもなら私が望んでいる言葉をすぐに見つけて言ってくれる十思。でも今回はちょっと違った。


 私が何も言わないでいると十思は困った表情を浮かべて口を閉じてしまった。沈黙が続く。沈黙が重い空気になり、私のネガティブ思考を加速させる。彼氏にちょっとした友人関係での不安を話したら、困らせてしまって、しかも、一生懸命に考えてくれているのに、私はあれもこれも嫌だという始末だ。どうすればいいのだろうか。


加速するネガティブ思考を抑えられないまま。十思が住んでいるアパートに着いてしまった。私はなんていえばいいのかも分からず、帰ろうとしていると十思が言った。


「今週末、奏音さん誘ってボウリングに行こうよ。じゃあ、また明日」


 そう言い残すと十思は満面の笑みを浮かべて104号室に消えてしまった。どういうことだろうか。全く意味が分からない。

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