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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
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水族館

 水族館に着くと、やはり休日ということもあり、家族連れやカップルで来ている人ばかりで混雑していた。チケットを購入して館内に入る。外と比べて一気に暗くなる。魚たちが泳いでいる水槽が青く輝いている。まるで、スポットライトを浴びている劇団員みたいだった。尾びれや背びれを漂わせてダンスをしているみたいに泳ぐ、私はその姿に魅了されていた。人混みの中をくぐり抜けて水槽に近づこうとすると、十思は私の腕を掴んだ。


「見に行くのはいいけど、はぐれたら大変だから」


 掴んでいる手を私の手に絡ませて恋人繋ぎをした。十思の手は固くてゴツゴツしていた。前に夏祭りの時につないだ時よりも鮮明に触感が伝わる。胸がドキドキしたのが分かった。


「これなら舞でもはぐれないだろ」


 不器用な十思はなぜ、毎回こういう事は自然とできてしまうのだろうか。私は火照った顔を背けながら思う。

十思に引かれて一緒に水槽が触れるところまで行く。魚たちの鱗まで鮮明に見えた。水槽内のサンゴ礁の間からカクレクマノミが顔を出している。何ともキュートで、声を出しそうになった。十思は初めての水族館というのに、いたって大人しく見ている。私の前だからだろうか。


「魚って水中ではこんなに綺麗に泳ぐんだね。俺、魚が泳いでいるところ初めてみたから、知らなかった。すごいな」


 奥に進んでいくと、今度は先ほど見た水槽の四倍ぐらい有りそうな大きな水槽が現れた。そこには、私ぐらいの身長がありそうな魚が数えられないほど沢山いて、アクリルガラスにはエイが張り付いていて、可愛いお顔みたいなのを覗かせている。どこか笑っているようにも見えた。中央にはイワシの大群が渦を巻いて泳いでいる。その姿は、海龍のように大きく美しい。


 十思はあまりの大きさに感動しているようだった。十思をつれてもっと近くまで行く。さらに迫力がある。隣にいる子供たちは、アクリルガラス付近を泳いでいる魚たちを追って右往左往していてとても可愛い、多分三歳かそこらだろう、その子供をにこやかに見ている母親と父親を見て、将来十思との間に子供が出来たらこんな感じなんだろうなと感じた。ふと、周りの家族連れも見てみると、どこも幸せそうだ。私にもこんな幸せが待っていると思うと今から待ち遠しくなってしまう。


「やっぱり、子供ってかわいいね、僕らの子供はきっともっと可愛いだろうね」


 隣にいる十思が子供を見て言った。


「そんなの当たり前」


 私は普通にそう答えた。でもよくよく考えたら、今の十思の発言は遠回しのプロポーズみたいだったような気がする。そんなことを考えているとどんどん顔が熱くなってきてしまった。


「どうしたの、手で顔なんか仰いで、熱でもあるの?大丈夫?」


 十思は不思議そうな顔でこちら見つめていたと思う。私は恥ずかしくなってしまって、俯いてしまった。目の前には青々としていて綺麗な水槽があるというに、今はグレー色の床しか見えなくなってしまった。だけど、今は恥ずかしくてとてもじゃないが、十思の顔は見れないと思ったので代わりに、顔を横に振った。


「そっか、なら良かった」


 十思が優しく言う。館内は混雑しているのに、不思議と二人きりしかいないように感じる。


 館内放送が流れて現実に戻る。どうやら人魚ショーをやるらしい。人が大水槽の前に次々と集まって来た。館内のBGMが変わる。水槽内に人魚の姿を(ふん)したダイバーが現れて、BGMに合わせて様々な魚たちと踊っているように見える。本当に人魚のように見えるほど綺麗に水中をぐるっと一回転したり、魚たちを腕で指揮して泳がせたりしている。まるで、本物の人魚ではないかと思うほど綺麗で、魚たちと息がピッタリなショーだ。


 先まで熱かった顔も、人魚ショーに魅了されてしまって気付くと落ち着いていた。


「凄いね……ちょっとの間だったけど、鳥肌立っちゃった」

「俺も」


 目を輝かせて言っている十思を見て、私もうれしくなり自然と微笑みがこぼれ落ちる。


「特にさ、魚たちと息ぴったりの動きがすごいよね。私も練習すればできるようになるかな?出来たらかっこいいよね」


 手をつないでない方の腕で人魚の人みたい動かして見せた。


「舞の人魚姿は凄く見たいんだけど、厳しいんじゃないかな。だって舞は泳げないんでしょ、だから泳ぎから練習しないとね」

「それもそうか」


 私たちは、顔を見合わせてお互いに微笑みあった。奥に進むと、深海魚たちの水槽が並んでいた。深海魚のコーナーでは室内のライトアップが赤紫色に変わりミステリアスな雰囲気が流れていた。足が異様に長い蟹、タカアシガニ、ダンゴ虫みたいなダイオウグソクムシ、鼻先がまるで、ノコギリがついているようなノコギリザメなど不思議で面白い魚たちがいる。


 十思はどうやら深海魚が苦手みたいで顔を引きつらせていた、特にダイオウグソクムシが入っている水槽の前に行くとすごい顔で拒否反応を起こしていた。私も得意ではないが、十思の顔は今まで見たことがない程引きつった顔をしていて面白い顔をしていた。何だか十思の新たな表情を見て新鮮でこの水槽の前にはずっと入れる気がする。

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