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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
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初夜

十思の目からは涙がこぼれていた。ちっとも男らしくない。だけど、優しさで溢れていた。そんな彼は私を抱き寄せてくれた。彼の胸の中で私は今まで不安だったことや怖かったこと全てをぶつけるように泣いた。


沢山泣いた。枯れるというほどに泣いた。涙がすっかり枯れ果てて出なくなった頃、私たちは抱き合いながら、静かにキスをした。

 

 ゆっくりと重ね合う唇から少しずつ唾液が混じる。目尻に残っていた涙も口の中に入る。仲直りのキスは少しだけしょっぱかった。


 唇を離すと十思と目があった。瞳には私が映っている。透き通った目だ。瞳の中に映る私はちっとも可愛くない。でも、幸せそうだった。


 もう一度キスをした。今度は今という時間を貪るようなキスをした。息を吸うということも忘れて無我夢中でした。脳がとけるような激しい幸福感に包まれる。お互いに舌を絡めて溶け合う。


 私は導かれるままにキスをしながら十思の部屋の中に入る。私たちは玄関で座ってキスをしながら器用に靴を脱いで、服や下着を脱ぐ。欲望が止められないほどに高まっていくのが分かる。今という時間を、幸せを、貪るように性欲が高まっていく。


 リビングに敷きっぱなしになっている布団に押し倒された。十思の唇が徐々に下に向かう。首に軽くキスをされると腹部よりも下のあたりがじんわりと濡れる感覚が伝わった。好きな人に触られるのは心地よく感じる。祭りの時とは全然違った。次第に体液という体液がお互いに混じり合い。一心一体になっていく。まるで、絵の具になった気分だ。体が快楽で溶けて液体となり、自分という色に十思の色が混ざる。新しい色となり、生命という名の絵の一部となる。幸せだ。


 快楽に埋もれながら眠る。


 朝になると隣には、裸の十思が寝ていた。私は、起こさないようにそっとキスをした。軽くシャワーをして、着替えると、冷蔵庫から卵を取り出して台所で卵をかき混ぜながら、十思のために料理を作っていた。好きな人に作る料理は格段に楽しい。きっと、結婚したらこんな幸せなことが毎日できると思うと、楽しみで堪らない。



 かき混ぜた卵を四角いフライパンに流し込む。いい音とともに、香ばしい匂いが部屋中に漂う。ただの玉子焼きだが、いつもより特別な玉子焼きになりそうだ。


 玉子焼きが完成したら豆腐やネギを包丁でリズムよく切り、お湯に味噌を溶かして味噌汁も作った。十思の家にここまで食材があるとは驚いたし感心した。


 色々あって忘れていたけど、夏休みに料理を教えるって約束してたね。ほとんど入院してて、教えられなかったな。ごめんね。


 「これからはちゃんと教えられるから許してね」


 布団で寝ている十思に呟く。夏休みに入る前に買いに行ったミニテーブルに料理を並べる。テーブルには窓から入ったお日様が反射して白く輝いている。いい匂いが部屋に充満していく。とってもおいしそうだ。


「おはよう。いい匂いだね」


 匂いにつられて起きた十思は、まだ眠そうな顔をしている。


「おはよう。一緒に食べよ」


 十思も着替えを素早くすませテーブルに着く。『いただきます』と言ってから美味しそうに玉子焼きを口に運んだ。


「やっぱり舞の料理が一番美味しい。世界で一番美味しい。好きな人に作って貰う料理ってなんでこんなにも美味しいだろうね」

「それはね、愛情がこもってるからだよ」


 私は照れているのを誤魔化すようにウィンクしながら言った。我ながら照れを隠すためと言っても凄くクサイことを言ったなと思い更に恥ずかしくなった。


「そっかぁ、俺、愛されてるのか。嬉しいな。両親からも愛されたことなかったから。凄く嬉しい。舞ありがとう」


 恥ずかしく思った言葉が微笑みながら言われた十思の言葉でかき消された。心の奥まで十思の言葉が深く響いてこの人のことを、これからも愛していこうと思った。


「あのさ、舞、、もしよかったらでいいんだけど昨日のデートの続きしない?」

「いいの?」

「舞が良ければだけど、、、俺がデート台無しにしちゃったから」

「分かった。続きどこ行こうか」

「実はさ、俺行きたいところがあるんだ」


 私たちは、もう一度デートをすることにした。十思は少しだけ照れながら行きたいところがあると言う。それを聞いて私は首を少しだけ傾けた。恥ずかしそうにいうその場所は浜横にある水族館だった。水族館は私が中学生一年生の夏休みに家族と行った以来だから凄く久しぶりだ。前に行ったときも凄く楽しみにしていたけれど、今回はその三倍は楽しみだった。


 しかも十思は水族館は初めてだと言っていた。好きな人の初めてを一緒に体験できるのは彼女として嬉しくてたまらない。昨日は最悪な気分だったが、今日は最高な一日になりそうだ。私たちはお互いに支度して駅まで手をつなぎながら目的の場所へと向かった。


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