期待
長かった平日が終わり待ちに待った週末がやってきた。私は急いで玄関から出ると、玄関先で待っていた十思ががおはようと言う、私たちの久しぶりのデートがこうして始まった。
映画館のチケット販売機の座席表を見ると前回と同じく、『醜い人間たち』は頗る人気が無かった。見る人も私たちぐらいしかいない。でも、人気があったら私はこの作品は見なかったと思う。だからこれでいい。十思は余りの人気のなさに驚いていたが、舞がオススメするならみたいと言ってくれて、ちっともいやそうな事は言わなかった。
映画の上映まで結構時間があったので先にお昼にすることにした。奏音の時と同様に喫茶店に入り、そこで奏音とは何を食べたのか、ここでどんなことがあったのかを話しながらお昼を食べた。前回と違う点と言えば、一緒に来る人と、人混みぐらいだ。前回はお昼頃だったから凄く混んでいたが、今はお昼というよりは朝ごはんに近い時間帯なので人はそこまでいなく、ゆったり過ごすことが出来る。
「奏音がここでね、号泣しながら映画を絶賛してたの、それが凄く面白かったんだけどさ。なんか笑ったら可哀想だからずっと堪えてて、めっちゃくちゃ辛かったんだよね」
「そうなんだ!俺だったら堪えられないかもな~!あ~早く映画みたいな!凄く楽しみ」
「私も!十思は絶対に泣くと思おうよ!」
「え~俺は泣かないよ」
「いや、泣くよ。私も泣くし」
他愛もない話をしながらゆっくりと過ごしているとあっという間に上映時間になり、私たちは飲み物だけ売店で買ってシアターに入った。
十思は5Dは初めてらしく、本編前に少し動いただけでも大興奮している。実際に本編が始まると、あっという間に世界観に入って大人しくなった。私は二度目だが、一度目に見た時よりも違った目線で見れるので凄く面白かった。でも主人公が出てきた瞬間には前回での記憶が甦り涙が出てきて隣の十思が「泣くの早すぎ」と笑っていた。
上映が終わり、明るくなったシアターで隣を見ると十思の頬が少し濡れていた。私たちは映画館から出ると
また朝と同じカフェに入り、ゆっくりとしていた。
「十思はあの映画どうだった?」
私はコーヒーを飲みながら聞いてみた。
「舞や奏音さんが感動するっていていたのが凄く分かったし、やっぱり、最後の展開がいいよね。あと…」
十思は言葉を詰まらせた。やはり、十思もあの事を思い出しているのだろうか。
「別に言ってもいいよ…平気になったとは言えないし、思い出すだけども怖いけど、私は、この映画を見て少し勇気をもらったの」
十思の表情が少し軽くなった気がした。
「あと、人間の醜さは自分も含めて夏祭りの日に嫌ってほどに分かったからこそ、映画を見て共感できたというか心に残るものがあったし、俺は昔からいじめられていたから、余計に心に痛いほど響いた」
やはり十思も私と同じ事を思っていたんだなって確認できて、安心できた。私は一人じゃないのだと思えとても嬉しい。
「舞はこの映画見て、嫌な感情というかトラウマが思い出されたのに、どうして先は勇気がもらえたって言ったの?」
私はショックだった。完全に十思と同じ思いで入れていると思っていたが、少し違ったみたいだ。でも、しょうがないと思う。私はコーヒーを一口含んだ。冷め切ったコーヒーはただただ苦かった。
「十思は、分からないの?」
私は自分が思っていたよりも期待していたみたいで、先までの明るい声ではなく暗く小さな声が出てしまった。十思は私の態度が突然変わってしまったことに困惑している感じだった。それは、そうだろう。私は勝手に同じ思いでいると勝手に勘違いして勝手にイライラしている。自分でも分かっているが感情に歯止めがかからなくなってきた。
十思は何も言わずに黙っていた。私は残っているコーヒーを飲み干した。
「ごめん、今日は帰らして、、」
そう言い残して、何が起こっているのか理解できていない十思をカフェに置き去りにして私は一人で駅に向かった。
電車の中で何度も頭を冷静にさせようとしたが、無理だった。なんで十思はわかってくれないのだろうか。同じ経験をしたのに、、、
家に帰ると一目散に自分の部屋に閉じこもった。母に何か言われた気がしたが何も答えられなかった。嫌な感情だけが心の中を這いずり回っていた。私はこれ以上そんな感情になるのが嫌になり両耳にイヤホンをしてベットに横になった。
「何で、久しぶりのデートなのに、こんなことになっちゃったんだろう…何であんなこと言っちゃったんだろう…」
自分に対する嫌悪感が募る。同じ気持ちだと期待してしまったせいでデートを無茶苦茶にしてしまった。十思に嫌われただろうかと心配になる。悪いのは全部私で、何も十思は悪くない。私が勝手に怒ってしまった。嫌われてもおかしくないと思う。身体も心もどんよりと重くなる。目からは涙がこぼれる。
携帯が鳴った。十思からだと一瞬思った。でも十思から電話がかかってくることはないと思い返した。だってそもそも十思は携帯を持っていないのだから。携帯の画面に表示されているのは奏音からだった、私は到底でれる気分ではなかったので、無視をした。
自己嫌悪に陥る。そんな自分が嫌だった。なので、もう少し気分が落ち着いたら、折り返しするから、ごめん。と携帯に向かって言った。




