表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
27/76

映画

 奏音が見せた画像は最近話題になっている東宿21という場所の映画館が写っているものだった。世界初の3Dと4D技術を取り入れた5Dの映画館で有名な映画館である。まだ私は経験したことがないが、想像ではちょっとしたアトラクションのみたいなものだと思う。


 朝食を食べ終わり支度すると私たちは早速、映画館に向かった。今日は日曜日ということもあって家族連れやカップルなどで混雑している。奏音と一緒に入口を入って直ぐにある映画のパンフレットを見て何を見るか決めようと眺める。そこで私はふと、ある作品に目が行き手元にパンフレットを取る。映画の題名は『醜い人間たち』という作品と書いてあった。


 この作品は小さな祠に住んでいる神が人間達に憧れ、神自身が人間として社会に溶け込む。そこでは神が思っている以上に人が噓や嫉妬、欲望にまみれ醜い者だと知り。いつしか憧れが醜さに変貌し、人間へと成り下がりながらも憧れが捨てきれずに日々葛藤し、成長していく物語と書いてある。あらすじを読み終わると私は、今の現状に近いものをこの映画に感じていた。この映画が見てみたいと思った。


「ねぇ奏音、私さこの映画見てみたいんだけど、、、どうかな?」


 別のパンフレットを見ている奏音にこの映画が見たいと言った。私は断られると思った。この映画は別に人気がある作品でもないし、お世辞にも若者が見るような作品でもない。でも実際は違った。


「え!面白そう!神様が人間になるの!見てみたいな~」


と言ってくれた。正直嬉しかった。


 チケット販売機に向かい、『醜い人間たち』を選ぶと5D映画なのに、案の定人気がないみたいで席はガラガラで私たちは真ん中の一番いい席を二席取ることができた。


「凄い!席取り放題だね!ここはこんなに人がいるのに」


奏音は嬉しそうな表情を浮かべているが、私は少しだけ不安に感じて苦笑で返した。


 上映時間まで少しあったので飲み物や食べ物を買いに売店までいく。奏音は新しいものには目が無いらしくて、期間限定のドラゴンフルーツミルクという奇抜な飲み物とトマトポップコーンを頼んでいた。その横で私は塩キャラメル味のポップコーンとコーラを頼んだ。


 シアターに入ると私たちのほかには誰もいなくほぼ貸し切り状態だった。その中で見る大画面は大富豪になった気持ちにさせてくれた。本編が始まると座席はゆっくりと動き始め、画像も少しずつ立体的になり次第に映画の中に意識が溶け込んでいった。





「私、凄く感動しちゃった…」


 奏音は鼻水をすすり、ハンカチを目元に当てる。私もこの作品を見て凄く感動した。まるで、私が主人公の神様で、十思が主人公を変えるヒロインという感じで涙が止まらなかった。映画ほど壮大な物語ではないが、夏祭りの日の出来事が結構似ている気もあって感情移入してしまった。普段なら夏祭りの日の出来事を思い出すと視界が揺らぎ、過呼吸になったりとなるが、この映画を見ている間だけは不思議と平気だった。



 映画館から出ると、目の前には喫茶店があり私たちはそこで、お昼を食べることにした。中は映画を見終わった人達でそれなりに繫盛している。席に案内されて少しだけメニューを見てから私たちは、飲み物と軽食を注文して映画の感想の続きを話した。


 正直奏音はずっと泣きながら話しているので何を言っているのか全然内容が入ってこなかった。結構引くぐらいには泣いている。

 

「ねぇ、舞はどうだった」

「私は、前半部分の人間に騙されて、裏切られたシーンとか凄く胸が痛くなって悲しくて、でもヒロインと出会ってからは凄くよかった!って感じだったかな。あ、でも、私も最後のあのシーンは衝撃的で泣いちゃった」

 

 話ながら映画のシーンを思い出し少しだけ目頭が熱くなるのを感じた。奏音は首が取れそうなほど頷いて共感してくれた。私はそれが凄く嬉しかった。普段から友達と映画を見る機会はあるけれども、話題作ばかりで、そこまで感動できるものに出会えてなかったから、いつも友達と感想を言うときは少し困っていた。でも、今回はテレビとかに取り上げられてなかったのでネタバレもなかったし、心の底から感動できる作品に出合えたので、こうやって奏音と感想を言い合えることはとても新鮮で楽しいと初めて感じていた。


 喫茶店を出る頃には十思ともう一度見に行きたいと思っていた。








 翌朝、十思に会うと映画のヒロインのことを思い出して、少し目がウルっとした。そして学校に向かいながら私の家に奏音が泊りに来たことやゲームをしたこと、そして映画の話をした。すると十思も見たいと言ってくれて週末に見に行くことになった。私は朝から凄く嬉しい気持ちでいっぱいになった。自分が見つけた自分だけのオススメを好きな人と一緒に見れて感動を共有できるということに。






 学校に着くと、昇降口で奏音にあった。いい機会だと思ってお互いをお互いに紹介する。実際、お互いにお互いのことを知っているので簡単に紹介する。


「初めまして佐藤十思です。よろしくお願いします。舞から話聞いてたりするので初めて会った気がしないんですけどね」

「あ、えっと、初めまして。、、、七尾奏音です」


 奏音は人見知りらしくて俯いてもじもじしていた。私といるときはこんな感じではないので新鮮に感じる。十思はもじもじする奏音に一瞬驚いていていたが、直ぐに微笑みを奏音に向けていた。


「俺からいうのも変ですが、奏音さんこれからも舞と仲良くしてあげてください!俺も舞から奏音さんの話聞くの毎回楽しみにしているので」


それから私たちは奏音と別れて教室に入ると、菜摘と皐月が来ていた。十思に一言行ってから私は皐月たちのところに向かう。


「二人ともおはよう!」

「ねぇ、舞聞いて!何と、土曜日に私たちと奏音ちゃんで遊びに行くことになったんだ!いいでしょ!」


 菜摘はドヤ顔で言ってきた少し癇に障るが、前回みたいに嫉妬心はなかった。多分、私しか知らない奏音の一面を知っているからだろう。


「そうなんだ!いいなぁ~どこに行くの?」

「それは今日の帰りに決める予定」


菜摘と皐月は楽しそうに話している様子を見て、心が暖かくなるのを感じた。


「そうなんだ!楽しんできてね!」


私は素直にそう思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ