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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
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嫉妬

 十思と二人で息を荒くしながら教室の扉を開けると朝のホームルームの最中だった。郷田先生に怒られながらも席に着くと隣の席に座っている菜摘に声をかけられた。


「舞が遅刻するなんてどうしたの?あ!もしかして、、十思君とイチャイチャしてたら遅刻しちゃった感じ?」

「もう、うるさい!」


 菜摘はニヤニヤしながら言う。そんな菜摘に煽られて私は内心そこまで嫌な気分はしなかった。多分本当に十思のことが好きだから嫌に感じないのだろうか。まだ私には分からない。気付くと朝のホームルームが終わり、皐月も参戦して来た。


「いいな~!私も彼氏とかとイチャイチャしたいな~!」

「ほんといいな!舞が一番最初に彼氏できるなんてずるいぞ!」

「ほんとそれ!ずるい!私たちにも彼氏の作り方教えて~!」

「あ、授業行かないと!ほら、二人とも行くよ」


 キリが無くなりそうだったのでとりあえず話を変えて逃げることにした。


 一時間は美術だった。美術は奏音がいる一組と合同でおこなっていた。奏音にはプレゼントを選んでくれたお礼もしなきゃなと思いながらも私は皐月と菜摘にまだ絡まれていた。そして教室についても二人はニヤニヤしながら私の惚気を聞いて来ようとしていた。


 美術室に着くと、私は二人に断りを入れて奏音のところに向かう。


「奏音、おはよう!奏音のおかげでプレゼント渡せたよ!凄く喜んでくれて、綺麗って言ってくれた!」

「え!良かったじゃん!」


 奏音は私以上に喜んでくれた。やっぱり奏音は凄くいい子だなと思うし気も凄く合うなと感じる。


「うん!でさ、今週末お礼したいからまた二人で遊びに行こうよ!」

「え!いいの!いこいこ!でもお礼のお礼になっちゃうね。ほら、元々プレゼント選びに行ったのも私が保健室まで連れてってくれたから、お礼したいって言ったから」

「本当だ~じゃあ、お礼のお礼させて~」


 奏音に指摘されて私は自分の言ったことが可笑しいことに気づいて笑った。舞もそれにつられて笑う。こうして授業前に友人と話し合う時間が私にとって一時のやすらぎのように感じていた。

 

「じゃあさお礼のお礼に舞の家に遊びに行きたいなって思うんだけど、ダメかな?」

「いいよ!ってかお泊り会しようよ~」

「え!!いいの?」

「全然いいよ~」


チャイムが鳴る。私は奏音に手を振りながら自分の席に戻る。席に座ると、横にいる菜摘に話しかけられた。


「舞さ最近、一組の奏音ちゃんと仲いいけど、どこで仲良くなったの?」


 菜摘は一瞬視線を奏音の方に聞いてきた。授業の説明をしている先生に怒られないように小さな声で説明した。


「あ~それは、菜摘は知っているか分からないけど先週かな?その時にバスケットボールをやったんだけど、それで、授業前にバスケットボールで遊んでた男子たちがいてさ、その男子がバスケットボールを手から滑らして、奏音の頭の方に投げちゃって」

「あ~!誰か、鼻血出してたよね!」


 菜摘は少し大きな声を出したので、教室の全員が菜摘に注目した。


「そこ!授業中に喋るじゃない!」

先生は私たちを鋭く一瞬睨みつけて、再び授業の内容を話し始める。


「ごめん……」

菜摘は申し訳なさそうに手を合わして謝った。


「で、どこまで話したっけ?あ、そうそう!顔面にバスケットボールが当たっちゃって、それで、保健委員の私が先生に頼まれて保健室まで連れてってあげたの」

「それから授業が終わって教室に戻る時に奏音とあってさ、その時に奏音がお礼をしたいからとりあえず、連絡先を交換しませんかって言われて、それでその夜にLightsで話していく間に仲良くなったって感じかな?」

「へ~そうなんだ!ねぇ、今度さ一緒に遊ぶとき私も一緒に遊ばせてよ!あの子、可愛いし私も仲良くなりたい~!」


 菜摘は体を前のめりにして少し興奮気味に言ってきた。私は少しだけ嫌だなと感じてしまった。なんでか分からないが菜摘に奏音がとられてしまう気がしたからだ。


「分かった、本人に聞いてみるね」


 私はなるべく嫌な顔をしないように答えたが、普段はきっと微笑んで返事をしただろうが、今回は少しだけ表情がぎこちなくなってしまった気がする。授業中も自分の感じた嫉妬に囚われてしまって全く絵に集中出来なかった。


 モヤモヤとした気持ちを抱えたまま授業が終わる。いつもは三人で喋りながら戻るが今日は一人で教室に戻ろうと思った私に、奏音が話しかけてきた。


「舞さん、今日の放課後一緒に帰ろう~」

「あ~彼氏も一緒だけど、大丈夫ならいいよ」

「そっか~そうだよね。それは邪魔したら悪いからいいや!また今度一緒に帰ろう!」

「ごめんね~」


  奏音がせっかく誘ってくれたのに悪いことしたなと少し感じていると、後ろから皐月と菜摘が奏音に対して言った。


「ねぇ、七尾さんこんな舞はほっといてさ、私たちと一緒に帰ろうよ!私、前からずっと仲良くなりたいなって思ってたの!」

「えっと……」

「舞の友達の児玉菜摘です!で、こっちが皐月ね、よろしく~」

「あ、よろしくお願いします」


 奏音は凄く困惑した表情を浮かべていた。でも私は気づかない振りをして本心とは真逆のことを言った。


「せっかくなんだし、一緒に帰ってみたら?」


 







帰りのホームルームが終わると皐月と菜摘は私に向かって嬉しそうに手を振って奏音がいる一組へと向かった。私の心はまだモヤモヤした感情を抱いたままだ。少しだけ表情を曇らせながら十思と一緒に教室を出る。


「なんか舞、元気なくない?」


 十思は上履きを下駄箱に入れながらボソッと聞いてきた。


「え!なんで気付いたの?」


 昇降口を出ると夕焼けが地面を照らしオレンジ色に輝いていた。


「なんでだろうね?自分でも上手く分からないけどそんな気がした」


 十思はやっぱり凄い。中学から一緒だった皐月や菜摘には全然気づかれ無かったのに、気づいちゃうなんて。そう思うと口から自然と心の中にあったモヤモヤが溢れ出していた。


「最近さ、一組の七尾奏音さんと仲良くなったんだよね。でもさ、今日そのことを菜摘と皐月に言ったら私たちにも紹介してよって言われて、なんか胸がモヤモヤしたんだよね」


 帰り道をゆっくりと歩きながら十思に話し始めた。十思は静かに私が話し終わるのを待ってくれた。


「なんかさ、私、嫉妬してるのかな?本当嫌だな…」


 軽く笑いながら言う。嫉妬しているのだと実感するのを冗談だと思いたかったからだ。


「それってさ、、めっちゃいいことなんじゃない?それだけ、七尾さんのことを大切に思ってるってことでしょ?」


 十思は私が話し終えてから少し間を開けて微笑みながら言った。


「なにそれ?どういうこと?」

「舞が奏音を大切にしたいって思ってるから嫉妬しているんでしょ?もしこれがさ、嫌いな奴だったり普通の人だったら嫉妬しない訳じゃん。だから、舞が奏音さんのこと大好きってことだからめっちゃいい事ってことなんじゃないって思った。俺馬鹿だから上手いこと言葉で説明できないけど、嫉妬って別に悪いことじゃないと思うんだよ」


 優しく包み込むような微笑みを私に向けてそう言う。私はまた一段と十思のことが好きになり、いつしかモヤモヤとした気持ちが晴れ渡っていた。


 夕焼けが雲を赤く染めるように、十思は私を優しさで包み込み照らしてくれた気がした。


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