プレゼント
朝から気分が頗る良かった。舞さんからお昼を一緒に食べようとLightsが来ていたからだ。私はそのLightsを見てウキウキしながら支度をした。心とは裏腹に家を出ると、少し肌寒く秋の訪れを感る。
お昼時、私は教室で待っていると舞さんは私を見つけニコッと微笑みお弁当を持参してやってきてくれた。
私はとてもうれしかった。やっと私にも春が来たという感じがする。普通の女子高生をしている感じがした。やっと私も普通の女子高生生活を送れていると実感した。
「週末どこに行く?」
「浜横とかどうかな?あそこなら彼氏さんが喜ぶ物があると思うし!特に桜田ファミリアの中は雑貨屋さんとか凄くいっぱいあったし!」
私は昔に正真と浜横でデートしたことを思い出して、表情に出るほどではないが少し寂しい気持ちになってしまった。
「いいね!私、高校でできた友達と浜横に行ってみたかったんだよね!テレビとかでよく見るし」
舞さんはどうやら高校で出来た友達とまだ浜横に遊びに行ったことがないみたいで、何だか嬉しかった。
「じゃあいこ!私も舞さんと行きたい!」
私は子供みたいにはしゃいで飛んで喜んでしまいそうだった。でもそんなことをしたら驚かせてしまうので飛んで喜ぶのは心の中だけにした。
「そいえばさ、彼氏さんってどういう人なの?」
気になっていたことを聞いてみた。
「う~んとね、不器用だけど私のことを凄く大切に思ってくれて、いざという時守ってくれる人かな?あ、あと物凄く優しい!」
「なにそれ!めっちゃいい彼氏さんだね!いいな~」
私から振った話だったが、こっちまでキュンとしてしまいそうだった。
携帯が鳴った。私は舞に一言誤って、教室から出て電話に出た。ディスプレイに表示された名前は正真と書かれていた。
浜横の駅は相変わらず若者たちで混雑している、いつもなら陰鬱な気分になるが今日は違う。私も今日は、今日からはこの街の喧騒に馴染むことができるのだと思うと本当に嬉しかった。
「奏音、おはよう!」
改札口から出てきた舞さんは今日も可愛かった。私はすっかり惚れてしまいそうだった。もちろん友達としてだけど。
ゆっくりと雑談しながら桜田ファミリアに向かって歩く。念願だった青春を味わえて最高な気分でスタートを切ることが出来て道中の混雑も気にならなかった。
桜田ファミリアの前まで来ると舞さんは上を見上げた。
「やっぱり、大きいね…でも、子供の頃家族と来たときはもっと大きいと思ってたけど、久しぶりに来るとあの時よりも小さく感じる。私も成長したな~」
「確かに!でも桜田ファミリアを見て成長を感じるのは舞さんだけだと思うよ」
私が笑うと、舞さんも「そうか」と言いながら笑う。中へ入るとここもやっぱり若者ばかりだった。舞さんとのデートも楽しめそうな気がしてワクワクする。
舞さんは早速入口から一番近い雑貨屋に入って行く。猫をモチーフとした置物を見て可愛いと何度も連呼していた。私も「どれどれ」と言いながら見ると。凄く微妙な猫?のような人のような、言うならば人面猫がいた。見方に次第ではもしかしたら可愛く見えるのかもしれない。と思い苦笑しながら相槌を打つ。
次に舞が目を付けたのは、ろくろ首みたいに首が妙に長い女の子の置物だった、これも同様に可愛いと言っていたが、これは可愛いとか以前の問題ではない。こんな置物を夜に見てしまったら漏らしてしまいそうなくらい怖い。
舞さんは何でこんなにも独特なセンスなんだろうか?何をどうしたらこの置物たちが可愛いと見えるのかが私には少し理解ができないと思った。
それから、壊滅的なプレゼントのセンスで何度か私が止めた末にようやく彼氏さんにプレゼントするものが決まった。
「私、こういうの買うの初めてだから喜んでくれるか心配だな…」
舞はとっても不安そうだったが、私は自信も持って励ましてあげた。
「絶対に大丈夫だよ!舞が一生懸命に選んだものなんだから喜んでくれるよ!」
佐々木舞
私は今、奏音と昨日選んだプレゼントを持って十思の家の前に立っていた。いつも何気なく押している104号室のインターホン。今日はいつも違ってボタンまでが遠い気がした。
恐る恐る人差し指をインターホンに近づけていると、十思が足音を立ててドアを躊躇なく開けた。私は思いっきり頭をドアに激突して尻餅をつく。その衝撃でプレゼントも手からこぼれ落ちてしまい。運悪く十思の足元で止まる。
「あ、、ごめん」
十思は尻餅をついている私の方を見て、手を合わせながら謝る。私は頭と腰を抑えながら「大丈夫」と言いながら微笑む。今は痛みなんかよりもプレゼントの方に意識が向いていてそれどころでは無かった。心の中では緊張で速く渡したいという気持ちと始めての彼氏のプレゼントはちゃんと渡したいという気持ちが葛藤している。そしてどうにかプレゼントには気づかないでほしいとも思っていた。
願いとは裏腹に十思は私の視線の先を目で追いかけて自分の足元を見てしまった。
私は咄嗟に体勢を直してプレゼントを十思よりも速く取ろうと思って動く、だが流石に間に合わず、取られてしまった。
「これなに?」
最悪な渡し方で私はお尻をはたいて苦笑いしながら答える。
「誕生日プレゼント、今日は十思の誕生日だから、、、ごめんね。こんな渡し方になっちゃって」
「あ~、そう言えばそうか」
十思はまるで他人事かのように呟き私の方を向いて「ありがとう」と言ってくれた。その笑顔は入学当初に見せてくれた笑顔のように美しかった。
「改めて、、、誕生日おめでとう!」
私は咳払いをして、やり直すかのようにニコッとしてそう言った。
「これ、今開けてもいい?」
私はドキドキしながらも頷いた。十思は長方形の箱を丁寧にゆっくりと開ける。その様子を固唾を飲み込みながら見守る。心臓の鼓動が耳元で聞こえた。何でこんな事で緊張しなくてはいけないのだろうかとも思ったが、それだけ一生懸命に選んだから緊張しているのだろうとも実感することができた。
箱の中には、銀色に輝く指輪が二つ入っている。朝日が反射して輝いていて綺麗だ。
私も箱の中にある二つある中の小さな指輪をとって左手の薬指にはめた。朝日に向かってかざす。見惚れてしまうほど美しい。同じく十思も指輪をはめて私の隣で「綺麗だね」って囁いた。
ふと私はスマホの時間を見る。八時二十五分と表示されている。
「ねぇ、十思、学校って何時からだっけ?」
「えっと、八時半からだよ」
「あのさ、私の携帯の時計見たら今、八時二十五分って表示されてるんだけど、、もしかして後五分しかない?」
それから私たちは指輪をはめながら学校まで猛ダッシュした。




