操り人間
宇土正真
十思たちが夏休みを終えて、二学期を迎え始めてた頃、宇土と七尾は交際し始めて四ヶ月が経とうとしていた。
七尾は宇土の家に居た。
「ねぇ、携帯ばっかりいじってないで私のこと見てよ。私、ちゃんと正真のために色々尽くしてるのに何で正真はいつも終わったら、そうやってすぐにスマホばっかり見るの?正真がゴムしたくないって言ったから最近はピル飲んだり、気持ちよくなってもらいたいからHなビデオ見たりして勉強だってしてるんだよ。それなのにちっとも私の子とみてくれないじゃん……もう私には正真しかいないのに」
四ヶ月間で七尾は完全に宇土に依存していた。美人だった七尾は中学時代から同性に疎まれ、異性からはいやらしい目で見られ精神的に不安定で簡単依存させることができた。
隣で泣いている七尾が鬱陶しい。俺は七尾を置いてベッドの下に投げ捨てられていた服を着て気晴らしに一服しに行く。もちろん七尾からは呼び止められたが無視した。
近くのコンビニに寄って煙草を買う。店から出ると俺はライターで煙草に火を付け、肺に溜まっていたイラつきを吐き出す。
最近は吸わっていないと無性にイラつく、俺がこうなってしまったのは加藤せいだった。加藤が一ヶ月前にサツに捕まって俺の計画が狂い始めた。本来なら今頃休学期間が終わって復讐の計画が進められていた頃だったというのに、あいつが捕まったことで親父から学校にいくなと言われた。
マスコミに俺と加藤が仲良かったことを知られたくないんだろうよ。今の親父はいじめ撲滅政策を成功させて、次の総理大臣候補となってる。だからこそ余計に変な噂を立てられたら堪ったもんじゃないのだろう。
そして今俺は問題を起こしたら親父のことだから交通事故に見せかけて俺を……。親父ならやりかねない。自分の地位と金のためなら家族も捨てるやつだ。だから、、母さんは居なくなった。
ニコチンが身体の中に染み渡る。肺に溜まった鬱憤がすべて吐き出されるのを感じると家に向かって歩きだした。
自分の部屋に戻るとベットの上で七尾は裸でまだ泣いていた。少し気持ちが落ち着いたせいか罪悪感を感じて後ろからそっと七尾のことを抱きしめた。
「悪かったな…」
七尾は涙を手で拭いて嬉しそうに笑う。七尾を見てなんて単純でバカなやつなんだろうかと思った。七尾の肩に顔をのせる。
「なぁ、奏音…奏音にしかできないお願いがあるんだけど……」
七尾は照れたように、頷く
七尾奏音
翌日、七尾は学校に行き昼休みに舞という女の子を探しに四組を見に行った。正真にどんな感じの子なのかを聞くのを忘れていたから誰が佐々木舞なのかは検討もつかない。やっぱり私は馬鹿だな。
「あの、誰か探してますか?」
クラスにいた女子生徒が話しかけてきた。突然のことでどうしようかと焦って噓を言う。
「佐々木舞さんって方いますか?体育の先生が呼んできてほしいと言ってたので…」
そういうとその女子生徒は佐々木舞らしき人を呼んできてくれた。ショートヘアでモデルのようにスタイルがよく元気はつらつとした人がこちらに向かってきた。少しだけ予想外な見た目で驚愕した。正真が言っていたことから想像するとメガネをかけて前髪は顔の大半を隠しているような地味な子かと思っていたからだ。
「舞、なんか体育の先生が呼んでたらしいよ、速く行った方がいいんじゃない?」
「え?うそ!」
舞と言われた女子生徒は焦ったように職員室に向かっていた。舞が走っていく後ろ姿を見てから自分の教室へと戻る。
七尾は自分が想像していたよりも美人で人当たりが良さそうな子だったから正真が言っていたことが信じられないでいた。でも正真に言われた通りに仲良くなることは出来そうだった。
気になったので正真にLightsで聞いてみたが、既読スルーされた。返事が来ないLightsを見ながら考えていた。
舞さんと仲良くなると決めたのはいいけど、どうやって仲良くなったらいいんだろう。もう入学してから半年以上経つのに未だに友達がいない私には結構難易度高い気がするんだけど。気のせいかな?正真はどうやって舞さんと仲良くなったんだろう。
気になって連絡をしようと思いスマホを見るが先ほどと変わらない画面で胸が少し痛む。
こんなことも出来なかったら正真に嫌われちゃうよね。よし自分で頑張ろう。
携帯で友達の作り方と検索してみる。部活やサークルに入部して友達を作るなどの参考にならないようなものから、挨拶してみるとか当たり障りないものばかりで全く当てにならない。
昼休みを終えるチャイムが鳴る。
やっぱり、無難に挨拶するとかかな?でも突然知らない人に挨拶されたら変なやつとか思われないかな。しかも挨拶したらそれだけで終わっちゃうよね…
教室に世界史の先生が入ってくる。入学してから一度も授業をしっかりと聞いたことがないので、先生の名前さえもわからない。とりあえず世界史らしい話しをしているので世界史の先生だということはわかる。だから世界史の教科書だけだしてまた考え続けていた。
次は自己紹介するとかかな……でも、これもいきなり自己紹介し始めたらおかしな人になるよね……
そもそも自己紹介ってなにいえばいんだろう?名前、趣味、特技、好きな食べ物とか?
「えっと……今日は教科書78ページの日露戦争からかな」
ハゲ散らかした中年男性がぼそぼそというとそれを合図に生徒達はまばらに教科書を開き始めた。もちろん七尾はそんなこと聞いていないので、教科書さえも開かない。
名前は、七尾奏音です。趣味はタピオカでタピってるものを見ること?特技は嫌われること?好きな食べ物は、肉……みたいでいいかな?ってか特技が嫌われることって私悲しすぎない?そもそも、入学した時に自己紹介した気がするななんて言ったかな?
確か特技ダンスって言った気がするな…もうやってないけど、でも、六歳の時からやり始めて十三歳までやってたから十分特技って言ってもいいレベルだよね。一人で小刻みに頷いた。
窓から七尾の席に日が差し込んだ。暖かくて、気持ちが良かったので、そのまま机に突っ伏して目を閉じる。
そういえば、体育の先生が呼んでるよって噓ついて悪いことしたな。微睡の中で微かな罪悪感を感じた。だから友達になってもらう前に謝らないとな…なんて謝ろうかな、舞さんと喋るきっかけが欲しくて噓つきました。ごめんなさい、とか?いやいや、それは、なんか言い訳してるみたいじゃない?もう、ここは、普通に昨日はごめんなさいって言えばいいか…
日向の気持ち良さのせいでどんどんと意識が遠くなって行き、眠りについてしまった…