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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
第1章 七尾奏音 色欲編
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忍耐

 俺は、トレーニングを始めてから二ヶ月が経ち身体も大きくなった。柔道もそれなりに上達し成長している。最近は、コンビニのアルバイトも始めた。バイト代と佐々木家族の協力もあり、何とか祖父母たちの家から出て一人暮らしを始めることができた。でも、毎日佐々木家で夜食を食べているので自宅は、風呂と寝に帰っているだけの状態になっていた。必要最低限の自炊道具と敷布団、洋服タンスぐらいしかない。いつまでも佐々木家族にお世話になっているのもどうかと思い、自炊を始めようと舞に相談したら、もうすぐ夏休みということで、泊まり込みで教えてくれることになった。


 舞と十思は、終業式終わり一緒に帰宅していた。敷地内の桜はすっかり散ってしまっているが、代わりに初夏が訪れみずみずしい若葉が生い茂っていた。


「じゅっくん、明日から夏休みだね」

「そうだね!めっちゃ楽しみ!」

「舞は夏休み家族とどっか行くの?」

「なんか、今回は、行かないみたい……だからじゅっくんに料理教えるのバイトのシフト次第だからほぼ何時でも行ける。じゅっくんって確か、午前中はほとんどバイト入れてたよね?だったら、私まだシフト出してないから、私も午前中に入れて、午後からにしようか!」


 旅行に行けないと言ったときは悲しそうにしていたが、料理を教えるとなった瞬間気合が入った表情になっていた。


「でも、いつの午後?」

「毎日じゃないの?」


さも当たり前かのように言う。


「え?毎日?泊まり込みで?」

「だって家帰るのめんどくさいし、お母さんも、お父さんも、じゅっくんならいいよって言ってたし。じゅっくんだって、何もしないでしょ?」


 だるそうに言う彼女は本心なのだと思うが、自分の家に舞が泊まることになると緊張して寝不足になりそうだ。


「まぁ、もちろん何もしないけど、布団とかは?」

「それは、じゅっくんが床で寝るから大丈夫でしょ」

「え……俺ん家なのに?」

「まぁ、それは冗談だとして、布団はもう一つあった方が色々と便利だから明日買いに行こうよ!あとほかの家具とかもね」


 舞はウィンクした。俺は胸を下ろした。舞なら本気でやるかもしれないからと思ったからである。


「でも、布団とか買うなら、車で行った方がいいよね?」


舞は視線を宙に這わせて考えた。


「まぁ、そのほうが楽だよね」

「よし。分かった、お母さんにお願いしとくね」

「え、いいの?」

「いいの、いいの。あと話はかわるんだけどさ、明後日に夏祭りあるの知ってる?」

「行ったことないけど、知ってるよ」

「やっぱり行ったことなかったんだ、じゃあ一緒に行こうよ!なんかさ、皐月と菜摘が、今年は家族旅行に行くからいけないって言ってて」


 十思は少しガッカリした、舞が誘ってくれたことには変わりないのだが。舞は俺のことをただの男友達でしか思っていないというのに。俺は期待してしまい、予想通りの結果になったことに少しだけ落ち込んだ。


「うん!行こう!」

 落ち込んでいることを悟られないように少しだけ空元気で返事をした。俺はバイトがあったのでバイト先へと向かい、舞は自宅に帰って行った。



 夏休み初日。舞の母親の佐々木奈美(なみ)さんと俺たちは安くて何でも揃っていることで有名であるレインボーに来ていた。


「私は、一階で食料品見てから行くから、舞と佐藤君は先に見てて」


 奈美さんがカゴを持ちながら言う。舞と俺は返事をした後に、二階に向かった。二階には、多種多様な寝具用品と机などの家具が揃っているフロアだった。寝具用品だけでも数十種類があり舞と俺は迷いに迷い買って帰るころには外は暗くなり始めていた。買った敷布団を車に積み込む。運転席に乗った奈美が思い出したように聞いた。


「ねぇ、舞って明日の夏祭り佐藤君と行くんだよね?」

「うん」

「じゃあ、浴衣着て行けば?」


 ルームミラーで舞を見て奈美さんはニヤッと笑った。当の本人は、けろっとした感じ頷いた。


「佐藤君、そういうことだから明日、現地集合でいい?」

「あ、はい。わかりました」


 多分聞かれている本人よりも緊張していたと思う。舞の浴衣姿が見れると思うと無駄に心臓が震える。あんなことやこんなことを考え悶々としていると目の前に俺の住むアパートが見えた。車が止まり、俺と舞は荷物を持って降りる。


「佐藤君、舞をよろしくね」


奈美はそう言って、ウィンクした。


「は、はい!」


 奈美さんに言われると緊張する。思ったよりも情けない声が出て横にいる舞にクスクスと笑われた。男として情けなく感じた。俺たちは奈美さんに手を振って別れると104と書かれた部屋に入った。部屋は相変わらず、何もなかったが、一緒に帰ってくる人がいるというだけで、心があったかくなった気がした。舞は荷物を置くとキッチンに行き、包丁とまな板をだし、母親から貰った食材で手際よく料理を作り始めた。


「明日速いし、今日は私が作っちゃうね!」


 舞は、リズムよく食材を切っていた。数分で部屋中が香ばしい匂いに包まれ、ジュージューという食欲をそそる音が聞こえて唾液がこぼれ落ちそうだった。俺はレインボーで買ってきた、ミニテーブルを広げ、炊飯器から白米をよそって待っていると、テーブルに真っ白な皿に盛りつけられた二つのハンバーグが置かれた。食欲を誘う匂いと肉汁があふれ出している。


「どう?美味しい?」


 舞は不安そうな顔を浮かべた。


「美味しいよ」


 俺はハンバーグを口いっぱいに頬張った。無我夢中で食べた。食べ終わると疲労と満腹感のせいか直ぐに睡魔が襲ってきた。でもまだ一大イベントが残っていた。


「じゃあ、ご飯も食べたことだし私シャワー入ってくるね」

「う、うん」


 脱衣所にバスタオルなど持って入る舞の後ろ姿を視界の端で追う。姿が見えなくなりシャワーの音が聞こえる。一緒に風呂に入っているのでは無いかと疑うほどに近く大きく耳に響いていた。神経が脱衣所一か所に集まる。蛇口を捻る音も、髪を洗う音も全てが鮮明に聞こえてきた。頭を細かく横に振ってやましい気持ちを追い払おうとするがこびりついて離れない。水の流れる音が止まり浴室ドアが開く音がした。悪戯をした子供が悪事を隠すように急いで座り直した。


 バスタオルで髪を拭きながら出てくる舞、パジャマ姿の舞。どちらの舞も新鮮で胸の鼓動がうるさいほどに波打つ。一気に熱が顔に集まり、恥ずかしくなって俯いてしまって目の前の光景を目に焼き付けることはできなかった。


「じゅっくんも入りな」

「う、うん」


 そそくさと脱衣所に入る。女性独特な甘い香りが濃厚に残っている。匂いが鼻を通るたびに鼓動が激しくなる。息が苦しい。あまり匂いを吸わないように風呂場に入ったが。風呂場の方が地獄だった。抑えきれないほどに下半身が反応してしまう。これは生理現象だからしょうがないと自分に言い聞かせ罪悪感に対する言い訳をする。このままではいけないと青色の蛇口を捻り冷水を頭から被る。火照った身体が一気に冷やさた。


 脱衣所から出るころには何とか心も身体も落ち着かせることができたが、全身鳥肌が立ち。寒気しかしなかった。ブルブルと震えながら出てくる姿を見て舞は大笑いをしていた。


 疲労と程よい満腹感のおかげで寝床に着くと吸い込まれるように夢の世界に入り込んだ。


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