お願い
ゲームセンターの中はゲーム機の音が混在していてる。店内は高校生達で溢れていて、祭りのように騒がしく気分を少しだけ陽気にさせる。
「じゃあまずはあれからやろう!」
七尾が指を指した先には、最近話題になってるアニメ、落ちこぼれ魔王 神を倒して世界平和。通称、落神と言われているアニメキャラクターのぬいぐるみが飾られているUFOキャッチャーだった。
正真も落神は見ていたし、それなりに好きだったが恥ずかしく見ているとは言えなかった。それに七尾に馬鹿にされるのは腹が立つ。
「私、これなら1発で取れるよ」
UFOキャッチャーのアームは三本爪で、比較的取りやすそうである。七尾は100円を入れて、横から見たりしてアームを動かした。アームはキャラクターの胴体をがっしりと掴んで、そのまま景品取り出し口の方に落ちた。
「ねぇ!言ったでしょ!まぁ、正真君には無理だっただろうけどね」
七尾は正真にドヤ顔を向けてきた。途轍もなくウザかったのだけは分かる。
「は?俺も1発で取れるし」
「本当に?」
対抗して乗らなくてもいい挑発に乗ってしまった。彼女のニヤニヤした顔が更に俺の闘争心を煽る。正真は100円をゲーム機の中に入れると慣れた手つきで動かし。タグにアームを引っ掛けて取った。
「え……私より凄い!やったね!」
「こんなの当たり前」
「じゃあ次は……板チョコ何枚取れるか勝負しよ」
七尾は大量の板チョコが螺旋状に積まれているUFOキャッチャーを指した。結構高くまで積まれていて触れば直ぐに崩れそうではある。先攻は正真だった。アームの先を上手く使って上手くいったといった感じがしたが、数枚しか落ちなかった。後攻の七尾で正真が攻めた反対側にアームの先を当てる。七尾は正真よりも1枚多く落ちていた。それを見ていて再び闘争心に火が付いてしまって、もう一度チャレンジする。結局負けず嫌いの二人はタワーが無くなるまでやり、ちょうど所持金も無くなった。
勝敗は正真が53枚取り、七尾が54枚だった。
「私の勝ちだね!」
「……………」
正真は悔しそうだったが、どこか楽しそうでもあった。
「ねぇ~次はどこに行く?」
「まだどっか行くのかよ」
「だってまだお礼してないし」
「もういいよ、十分楽しかったし」
「まぁまぁそう言わずに付き合ってよ。でも、とりあえず、お金も無いし飽きちゃったから外に出よ」
「そうだな」
二人はゲームセンターを出て、ぶらぶらと新原駅近くの商店街の方に行って、食べ歩きなどをしながら他愛もない話をしていた。終始、正真の反応は冷めていたが七尾はとっても嬉しそうに話していた。日も暗くなって駅の方に向かっていると、七尾が言った。
「ゲームセンターの話覚えてるよね?勝った方のお願いをなんでも聞くっていうやつ」
「あ、そういえばそうだったな」
「私のお願いは……」
「――だよ」
「なに?」
七尾が喋った時に救急車が通り聞こえなかった。正真はもう一度聞き返した。
「もう何で聞いてないの!」
そう言い残して、七尾はニコニコしながら帰って行った。改札をくぐり抜けて一人で電車に乗っていると、Lightsに通知が入っていた。
【先は、ちゃんとバイバイしないで帰ってごめんね。でも聞いてなかった正真君がわるいんだからね】
【だからチャンスを与えます】
【しょうがねぇな。勝負は勝負だから行ってやるよ】
【なにそれ、めっちゃ上から目線やん笑】
【嫌ならいかないけど】
【嫌じゃない嫌じゃない!全然平気!】
家に帰るまで連絡を取り合い七尾とは来週の土曜日に会うことになった。
それからどう佐藤達に復讐しようかと考えているとあっという間に平日は過ぎて気付くと七尾と会う日になった。
「おはよう!」
「おう」
「ところで今日はどうして、浜横に来たんだよ」
浜横とは東宿府の隣にある、金岡府の中にある市である。
「浜横にね、最近できた子犬カフェがあるんだって!」
「ほら~これなんて超かわいくてタピってるの!」
そう言って、写真などをアップするSNSのタピオカを見せてきた。タピっているとは写真に沢山のいいね、つまり沢山の方に共感してもらっているということである。最近では、タピっているものほど若者に人気がある。
「確かにかわいいかもな」
「でしょ!でしょ!」
「後はね、この子犬カフェがある浜横通りに、めっちゃタピってるお煎餅があるのほんとにすごいんだよ!でも、それは、驚かせたいから行くまでの秘密ね」
可愛いとは全然思っていない声でそう言った。七尾は淡泊な反応をする正真を無視して自分の話をして秘密だよと言ってウィンクをした。
「とりあえず、午後になると混んじゃうと思うから速く行こ!」
「はいはい」
犬カフェがある浜横商店街に向かった。浜横商店街はカラフルな商店街が混在していて、若者が好きそうな感じが漂っていた。どこの店舗も若者が行列をなしていた。その中でも子犬カフェはひときわ異彩を放っている。子犬カフェの行列に並ぶ。
「やっぱり凄いね~」
七尾は前に連なっている人をみた。
「あ、そうだな。」
「だね~」
「そういえば、七尾って高校どこに通ってるの?」
「あ~そういえば、まだ言ってなかったね、東宿高校だよ」
「え!まじで!」
正真は目を見開いた。それは宇土も通っている高校だったからである。
「え、俺と同じじゃん」
「そうなの!でも、正真君見たことないよ」
「あ、それね。俺、家庭事情で夏休み明けまで休学してるから」
正真は咄嗟に思いついた噓とも本当ともどっちつかずのことを言った。
「そうなんだ…大変だね」
七尾は自分が踏み込んではいけない話だと思ったのか深くは聞いて来なかった。それに表情を見る限りだと四組で起きたことはまだ知らないみたいだ。頭の中で一筋の光が見えた気がした。十思と舞に仕返しするためのアイデア。七尾のことを利用すれば復讐が出来ると確信したのであった。正真は情報収集のために高校の話を聞いたり、七尾のことを聞いたりした。ふと見ると行列の一番前になっていることに気づいた。
子犬カフェでは、90分の時間で子犬と触れ合うことができた。子犬カフェでは七尾は正真と子犬のツーショット写真を撮ったりしてるので、ほとんどの時間シャッター音が鳴りやまなかった。次に行ったタピるということで有名なお煎餅屋さんは、虹色に着色したもち米を煎餅にしたというものであった。それから、浜横の名物タワー桜田ファミリアで、買い物をした。桜田ファミリアは日本一高いビルで、約五百メートルあるらしい。
「正真君、最後に夜景を見て帰ろう!」
「嫌だ。疲れた」
「いいじゃん!最後に!見ようよ!」
七尾は小さい子供のように駄々をこね始める。しょうがなく横に振っていた顔を縦にすると花が咲いたように笑顔な顔をしていた。
桜田ファミリアの最上階にある展望台までエレベーターで登る。気圧で耳が詰まる。七尾はそれすら楽しんでいるようだった。エレベーターの扉が開くと、そこには広がる街があり、窓からはビルなどの光が散りばめられ、まるで天の川を見ているようだった。
「わぁ~凄い!」
「ねぇ!正真君も早く」
七尾は子供のように喜んで夜景がよく見える窓ガラスと走って後ろにいる正真に手招きをしている。流石に正真も始めて見る景色に気分が高揚していた。
「綺麗だね…」
「そうだな」
二人は暫く、夜景に見とれていた。
「そういえば、私がこの前言った。お願いなんだと思う?」
夜景を見ながら七尾が言った。
「わかんねぇな」
「それはね…」
「私のお願いは、私の彼氏になることだよ…」
あまりの発言に夜景を見ていた視線が七尾に向いた。彼女の赤く染めあがっている横顔は夜景より美しかった。