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業火な御馳走  作者: 赤八汐 恵愛
序章(前菜)
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Dream plan

佐藤十思

アスファルトには陽炎が揺らめき、蝉の鳴き声が騒がしい猛暑日だった。 俺はそんな日に余命宣告を受けた。


佐藤十思(さとうじっし)さん……貴方は持って半年です…」


医者の声が遠くで聞こえた。何を言っているのか全く分からない。突然のことで理解が及ばない。もう一度、聞き返す。


「え…今なんと言いましたか?」

「えっと……佐藤さんは世界でもまだ三件しか症例がない細胞破裂型ウイルス症候群 通称CEVにかかっています……残念ながら症例が少なく、これといった治療方法が見つかっていません……」


 蝉の声がやたらと大きく聞こえる。医師の表情は重苦しかったが、それとは裏腹に死刑を宣告する裁判官のように無慈悲な言葉を告げていく。


「我々には説明義務がありますので、病状についてお話させていただきます。CEVとは癌化と同じように遺伝子変異によって生じます。癌と同じく腫瘍ができますが、取り除くことはほぼ不可能です。その理由としては。2つあります。1つは全身への転移の速さです。発症から約3ヶ月で全身に腫瘍が転移します。佐藤さんの場合は既に発症から3ヶ月経ってしまっているので摘出が難しいと思われます。また2つ目の理由は身体から排出出来なかったガスが時間と共に腫瘍の中に溜まり、膨張していく病気で、1つ1つの腫瘍が爆弾のようなものへと変化していきます。そのため1つ摘出するのに相当な時間がかかり、全てを摘出するのはほぼ不可能です……」


医師は淡々と症状について説明するが、現実を受け入れられないでいるため他人事のように聞こえる。何故自分がこんな目に合わなければならないのだろうか……そんな事ばかりが頭をよぎっていく。


「……ということなのでこれといった薬も無く……酷な話でしたが、これが現状です……」

「そうですか…」


 魂が抜け落ち空返事をする。


「大丈夫ですか……すみません、大丈夫で……はないですよね……えっと……病は気からといいますので、お気をしっかり持ってくだ……すみません。医師失格ですね」


 励まそうとしてくれているのだろうが、いくら義務とは言え淡々と貴方は絶望的な状況で半年後には死んでいます。と、言った医師からしたら返す言葉もないだろう。実際、そんな医師から慰めの言葉を言われても惨めな気持ちになるだけだ。


元から米粒ほどしか無かった残りの生気を診察室に置いて行き、会計を済ませた。東宿(とうやど)総合病院と大きく書かれた建物を背にして歩く。日差しは焼き尽くすような業火なようだ。歩道に気持ち程度に植えられている木からは、干からびた蝉が腹を上にして落ちている。いずれ、俺もこんな風になるのかと思うと今すぐにでもビルから飛び降りてやろうかとさえ思えてくる。でも俺はまだ死ねない。


  俺はやり残すしたことがまだある。それをやりきるまでは死ねない。長い間、それだけを胸に刻み生きてきた。それは、余命宣告された今でも変わらない。


 日差しに当てられ、余命宣告も告げられ、疲れた。少し一休みしてから家に帰ろうと思って近くにあった公園に入り、自動販売機になけなしの金を入れて水を買った。生きている人間はこの水が60%もあるそうだ。今の俺には1%もないように感じる。最近、仕事もクビになって、ろくなものを食っていなかったし、水道も止められているので、水も二、三日飲んでいなかった。だから案外傍から見れば、干からびた屍のように見えるのかもしれない。


 茶色の錆びたベンチに腰を掛けると猛暑日というのに氷のように冷たく感じた。ペットボトルの蓋を開けようとするが、心なしか固かった。喉を鳴らしながら水を飲む、冷たい液体が喉から胃へと伝わっていく感覚を感じる。これがきっと生きているということなのだろうか。


 少しだけ生気が満ちた気がした。生命の源とはよく言ったもんだ。


 ベンチから立ち上がり、家へとの帰路についた。10分ほど歩いたら俺が住んでいるボロアパートが見えた。周りには蔓や雑草が生い茂っていて、外壁は茶色に焦げ付いている。


 昔はもっときれいだったのにな……と懐かしさを感じながら104号室の扉を開ける。熱風が全身を覆う。部屋に入ると更に暑い、汗で身体に接着されたTシャツをぬいで上半身裸になる。こうすれば、辛うじてサウナだと思って過ごすことができる。まぁサウナには一回も行ったことがないが、昔テレビで見たことがあるから知ってはいる。


 部屋中の窓を全開にあける。心地の悪い生温い風が部屋中を駆け巡る。それでも幾分かはましになった気がした。蝉がミンミンと喚いているのが聞こえる。まだあいつらも生きているのか、いずれ干からびて死ぬ運命だというのに……


 俺は鼻でクスっと笑った。俺も蝉も同じようなものだなと思った。どうせ干からびて死ぬのなら、最後ぐらい()()()()()()ぐらいは頂かないとな


 押入れの奥底にしまってあるA4サイズのノートを一冊取り出した。表紙には『DreamPlan(ドリームプラン)』と綴ってある。


 俺の『DreamPlan(ドリームプラン)』これは俺の生きる希望である。そして、これが果たされた時、悔いなく死ぬことができるだろう。


 俺は復讐をするために生きる。


 















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