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再会


悪魔ワガナオと契約を交わした瞬間、ナタリーの時間は失われた。


悪魔と契約を交わした瞬間に3ヶ月という時間を失い、気づいたらサイモン祖母宅の武道場に1人だった。


悪魔との契約に関する記憶は一切なかった。

覚えているのは、里帰り出産でルーシーを生み、両親の助けを得ながら、初めての育児にてんてこまいだった、というところまでだ。


(えっ? ここはどこ……ルーシーはどこ?)


寝ぼけていて、まだ夢を見ているのだろうか。

ナタリーは周囲を見渡して、部屋の真ん中で妙に存在感を放っているイーゼルに歩み寄った。黒板に何か書いてある。


『お帰りなさい、ナタリーさん。この建物を出て、真っ直ぐ行って、左手に白壁の大きな家が見えたら入って、その辺にいる人間に声かけしてください。事情を説明します。僕たちは味方ですから安心して下さいね』


怪しい。とてつもなく怪しい文章だ。

しかしナタリーの名前を知っている相手で、ナタリーがこれを見ることを予見してのメッセージ。


(罠かもしれないけれど、行くしかないわ)とナタリーは考え、思わず笑った。罠って一体、何のために誰が?


勇気を出して、ナタリーは建物の外に出た。

すると地面に一歩踏み出した瞬間に、大きな悲鳴が聞こえた。


声の方を見ると赤髪の女がいて、両手を両頬に添えて、大袈裟なポーズで驚いていた。


「な、なっ、ナタリーさん!!」


ダッシュしてきた女はザラと名乗り、「とりあえず色々説明するから、家に入って!」と言った。


「家って、あの……ここは誰のお宅なんですか? あの、私、気づいたらさっきの建物の中にいて、何も分からなくて、混乱してるんです」


戸惑うナタリーに、ザラはぶんぶんと頭を縦に振った。


「だよねえ、不安だよねえ、分かる分かる。だって記憶ないんだもんね。大丈夫、すぐにロイドに連絡取って、来させるからね! あっ、この家はね、ロイの友達のサイモンっていう、顔はいいけど色々と痛くて童貞拗らせてる子の、母親の実家なの。あたしのお師匠様のお家よ」


情報量の多さにナタリーは固まった。

童貞を拗らせている、というパワーワードが強すぎたせいもある。


「えっと…あっ、ロイと連絡が取れるんですね!」

「うん、取れる取れる。電話するよー!」

「あの、娘のルーシーは知りませんか? 私と一緒に居ませんでしたか? まだ赤ちゃんなんです」

「ルーシーちゃん、もちろん知ってるよ! しばらくここに居たけど、ロイが連れに来て、今はナタリーさんの実家よ。大丈夫、元気にしてるよ」


ニコニコ、ハキハキとした口調で教えてくれる、ザラには好感が持てた。ルーシーが元気だと聞いて安心したが、謎は深まるばかりだ。

何故どうやって自分はここへ来たのか。

ロイドの友人の祖母の家に?


(ロイは、私とルーシーを置いて先に帰って、それからルーシーだけを連れに来て、うちの実家へ連れて行ったってこと? なにそれ、全く意味が分からないわ)


疑問符だらけのナタリーだったが、その後サイモンの祖母とアランも交えて話をして、それからロイドと電話で話して、ようやく全てを理解した。

記憶のないナタリーには、にわかに信じがたい話だったが、実際自分の左手には例の指輪が嵌まっており、それはどうやってもびくともしなかった。


「ね、本当に外れないでしょう」


サイモンの兄弟子、アランがどこか得意気に言った。


「4使徒が協力して、指輪の契約解除の儀式を行わないと、指輪は外れない。4使徒に連絡したので、集まり次第儀式をしましょう」


「主人が気の使徒で、ザラさんが火、サイモンさんが水、土はお師匠様のご友人ですね」


「はい。あ、水は私もです。サイモンも来るでしょうけど」


会ったらしいが記憶に残っていない、夫の友人サイモンに再び会ったら、しっかりお礼を言わなくてはとナタリーは思った。

サイモンだけではない。

今回の件で、ナタリーは多くの人に助けられて感謝したが、とりわけメリルには、何と言って良いか分からないほど感謝を覚えた。


指輪の悪魔と取引をし、ナタリーが失踪していた間、メリルはここでルーシーの世話をしながらナタリーの帰りを待っていた。

そして仕事を辞めてここへ移住して来ようとしたロイドに、都で仕事を続けるように説得してくれたという。


「生活の基盤を安定させることが、帰ってきた君を安心させるってね。辞めなくて良かったよ」


ロイドの話を聞き、ナタリーは心底メリルに感謝した。本当にその通りだ。

すぐにでもメリルへ会いに行き、お礼を述べたいと思ったが、ロイドとルーシーを連れて会えば、幸せぶりを見せつけるようで嫌味な気もする。

そんな風に考えること自体が嫌味で、自分は何て嫌な人間だろうと気落ちした。


しかし間もなくして、喜ばしいニュースが飛び込んで来た。

メリルとキースが婚約したそうだ。

ロイドに紹介され、キースとは1度食事をしたことがあるが、快活な好青年だ。


近々、お祝いで集まろうと計画している。

楽しみだが緊張も漂う。

何を着て行こうかと考える。

点けっぱなしのテレビから外国のニュースが流れてきた。

地球の真裏に当たる、メナディゼという国で地震が発生したらしい。

遠い国の話として聞き流し、ナタリーはぐずり出したルーシーを抱き上げた。





以上、追加のナタリー視点でした。

書けたら、指輪のその後の話をサイモン視点でボスとのエピソードを絡めて書きたいなぁと思うのですが、構想だけでいつ書けるか分からないのでとりあえずここで完結と致します。

ペレス元大佐のその後も気になりますよね。色々と気になる終わりかたですみません。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ナタリー視点ありがとうございました。 あの瞬間ナタリーが何を願ったのかはワガナオに聞かないと分からないので そりゃ他国の地震と結び付けて考えないですよね。 [気になる点] 13話で『使徒は…
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