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ある日の武道場で


そう言ったキースだったが、いざメリルと2人きりになると告白するタイミングがなかった。

会話が盛り上がらないのではなく、話題が多すぎて途切れないのだ。


2時間ほど車を走らせ、休憩がてら昼食を取ることにした。

よし、ここで言うぞとキースは意気込んだ。

食事の席でなら、正面から目を見て伝えられる。


(だけど待てよ、旅はまだ長い。早々に告って振られたら、この先の2人きり気まずくね? ドノイに着くまで)


電車とバスを乗り継いで、ヘリオーズに来たときには3日かかったが、ドノイから車で真っ直ぐ来れば1日半だった。

買い物やホテル探しなどにかかった時間も省けたからだろう。

帰りも、途中で1泊するだけのビジネスホテルを予約している。勿論メリルとは別室だ。


(ホテルに泊まって朝食を食べる。よし、そのときにしよう。いや、明日も夜まで一緒にいるわけだし、晩飯のときでもいいか)


ずるずる後回しにしてしまうキースだった。

そして後回しにすればするほど言い出しにくくなった。


何せメリルの口からは、ロイド家の心配ばかりが出てくる。

確かに今ロイドは大変だ。妻が行方不明で、幼い娘は妻の実家へ。長く有給休暇を取っていた分、職場に戻ってからも大変だろう。


親友がそんな状態の中、チャンスとばかりにメリルにアタックしようとしている己の浅ましさが醜く思えた。

ナタリーの失踪をきっかけに、メリルとロイドの距離が再び縮まったらどうしようと思っていたが、そんな心配をしたこと自体が恥ずかしく思った。


(それどころじゃないよな、ロイは。それにメリルも何だか変わったよな。ロイへの恋愛感情はもうないようだし、急ぐこたないか)


『愚図愚図してると僕が本気で口説くよ?』


ライバルのイケメンの顔が浮かんだが、


「ふふん、距離的に俺の勝ち」


え?っとキースの一人言をメリルが聞き返した。


「いや、何でもない」



長いドライブを経て、ドノイに到着したキースはメリルを自宅まで送り届け、メリルの家族への言い訳に付き合い、ヘトヘトになって家に帰った。

明日は仕事だ。新しい職場では一からの新人で、覚えることが沢山ある。


(だよな、俺もまだ『それどころじゃない』。まずはしっかりと新しい職場で認めてもらって、初ボーナスで指輪を買って……)


「結婚を前提に」付き合ってほしいとメリルへ言おう。キースは心に誓った。


それから間もなくして、自宅に突然新車が届き、ぎょっとした。

納車に来たディーラーから気取ったメッセージカードを渡された。サイモンのボスからだった。あっ!とキースは思い出した。


(オッサンの車を売った金で、うちの車を買ってくれって言ったあれか。冗談だったのにマジかよ!? しかも新車って……)


ラッキー!と素直に喜んだキースは、サイモンのボスって本当に実在するんだなぁと現実離れしたプレゼントを介して実感した。

サイモンへ電話をしたが、すでに祖母宅を離れており、アランが伝言を受けてくれた。


「言っとくよ。こっちからは無理だけど、サイモンからは毎日連絡あるから」

「あ、ナタリーさんの確認?」

「そそ。ナタリーさんが帰って来て、もしサイモンがすぐにこっちに来れなくても、水の使徒なら俺もいるしね。指輪の契約解除の儀式はすぐ行える。土の使徒もお師匠さまのツテで確保済み」


ナタリーを迎える準備は万全だ。

そしてその日はやって来た。

忽然と姿を消してから丁度3ヶ月後、ナタリーはサイモンの祖母宅の武道場へ帰って来た。

ナタリーにとって、それはあの日あの時の一瞬先の出来事だ。悪魔と契約を交わした瞬間に3ヶ月という時間を失い、気づいたら武道場に1人だった。

しかもナタリーは、悪魔との契約に関する記憶が一切ない。覚えているのは、里帰り出産でルーシーを生み、両親の助けを得ながら、初めての育児にてんてこまいだった、というところまでだ。


(えっ? ここはどこ……ルーシーはどこ?)


寝ぼけていて、まだ夢を見ているのだろうか。

ナタリーは周囲を見渡して、部屋の真ん中で妙に存在感を放っているイーゼルに歩み寄った。黒板に何か書いてある。


『お帰りなさい、ナタリーさん。この建物を出て、真っ直ぐ行って、左手に白壁の大きな家が見えたら入って、その辺にいる人間に声かけしてください。事情を説明します。僕たちは味方ですから安心して下さいね』


怪しい。とてつもなく怪しい文章だ。

しかしナタリーの名前を知っている相手で、ナタリーがこれを見ることを予見してのメッセージ。


(罠かもしれないけれど、行くしかないわ)とナタリーは考え、思わず笑った。罠って一体、何のために誰が?


勇気を出して、ナタリーは建物の外に出た。

すると地面に一歩踏み出した瞬間に、大きな悲鳴が聞こえた。

声の方を見ると赤髪の女がいて、両手を両頬に添えて、大袈裟なポーズで驚いていた。


「な、なっ、ナタリーさん!!」


女はダッシュしてきた。



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