別れ
翌日、ロイドとキースが迎えに来た。
ロイドはルーシーを連れてナタリーの実家へ、キースはメリルを連れてドノイへ帰る。
お世話になったサイモンの祖母たちへそれぞれ手土産を渡した2人は感謝を述べ、皆と抱擁を交わした。
ロイドは先日帰る際に、置いて行く2人の生活費としてまとまったお金をサイモンへ渡していたが、追加で謝礼を渡そうとして固辞された。
「お金はもういいよ。ペレス元大佐のあの車、売っ払ったらかなりいい金額になったから。経費として使えってボスが丸々くれたんだ」
サイモンの言葉に目を剥いたのはキースだ。
「えー! あの車勝手に売ったのかよ。ひでーなあ。その金で俺の車を補填してほしーわ」
父親から借りた車を潰したキースは、レンタカーでやって来ていた。
「あー、確かにそれもそうだね。ボスに相談して考えとく」とサイモンが言った。
キースは冗談半分だったが、サイモンは本気だ。
荷物を積み、それぞれの車へ乗り込む前にロイドはメリルへ言った。
「メリル、本当にありがとう。メリルには迷惑をかけっぱなしだ。それなのにルーシーの世話まで引き受けてくれて、一生恩に着るよ」
「自分がしたいと思ったことをしたまでよ。ロイ、しっかりね。ナタリーさんとルーシーちゃんと、また一緒に暮らせることを祈ってるからね。色々あったけど恨んでないから」
言葉に出してそう断言すると、メリルは晴れやかな気持ちになった。
いつまでも引きずってウジウジしていられない。前を見よう。
2人の別れを見守っていたキースは、最後にロイドに声をかけた。
「また連絡する。何かあったら頼れよ」
「ありがとう、キース。新しい仕事でバタバタしてるときに。また連絡する」
ロイドが先に車を出し、全員で手を振った。ルーシーは後部座席に固定されたベビーバスケットの中だ。
「ルーシー、またおいでねー!」
「元気でなー! 母ちゃんのことは任せろー!」
ザラとアランが叫んだ。
武道場へいつか戻って来るであろうナタリーのフォローは、この家の人々がしっかり請け負ってくれることになった。
ナタリーが戻って来たらロイドとサイモンへ連絡を入れ、すぐに集合する決まりだ。
ちなみに武道場にはザラが移り住み、留守にしているときにナタリーが戻って来ても混乱しないようにと、ナタリー宛のメッセージを書いたイーゼルを常設した。
サイモンのアイディアだ。
ロイドとルーシーを見送り終え、キースはサイモンへ声をかけた。
「サイモン、色々ありがとうな。それに悪かった、変に勘繰って。お前が親切すぎて怪しかったから。お前のこと、俺も友達って思ってもいいか?」
「今さら?」
サイモンは皮肉っぽく笑った。
「もうとっくに友達だと思ってたよ。それに僕も、自分がしたいようにしただけだからね。途中からはボスに依頼されたからってのもあるけど、最初は純粋に君たちを助けたかっただけだし。僕は君たちのことが好きだから」
キースはぎょっとした。好きという言葉に反応したのだ。
「おっ、お前もメリルのことが!?」
サイモンの祖母たちと話しているメリルに聞こえないように、キースはサイモンに詰め寄った。
「うん、好きだよ。弟みたいにしか思えないって振られちゃったけどね」
肩をすくめるサイモンを見上げ、こんなにでかい弟がいるかよと思ったキースだったが、メリルの言いたいことは分かった。
あっ、そうか。フィンに感じが似ているのか。
メリルの弟のフィンレイも近所で噂になるくらいの美青年で、背が高く、そして少し斜に構えた感じがあって、社交性に乏しく見えてそうでもなく、掴みどころがない。だけど嫌いじゃない。鬱陶しそうにされても構いたくなる。
「なるほど、そいつは残念だな」
「うん、残念」とサイモンは歌うように言って笑った。
かと思うと、ぐいっとキースの肩を抱いて唇を寄せ、耳打ちした。
「だからキース、頑張ってね」
「えっ!」
ばっと離れて驚くキースに、サイモンはにっこり笑った。
「なっ、何で!?」
「何でって、キースの態度じゃすぐにバレバレじゃん。分かってないのって本人たちだけだと思うけど? 早く言っちゃいなよ。愚図愚図してると、僕がもっと本気で口説いちゃうよ?」
キースを焚き付けるため、サイモンは柄でもない台詞を吐いた。
女性を口説くなど、実際のサイモンにはハードルが高すぎる。絶対に無理だ。
しかしハッタリをかますだけなら楽勝だ。
意識してヒーローを演じている時と同じ要領で、それらしく演じればいいのだ。
幸い、今のサイモンの風貌は有利だ。
余裕たっぷりにハッタリをかませば、それなりに様になる。
「おっお前って何なん、ほんと訳分かんねえ。二重人格かよ!?」
キースは悪態をつきつつ、サイモンの挑発に乗った。
「分かってるよ。メリルにちゃんと告る。そのつもりで今日迎えに来てっし」




