黒歴史からの
その夜、メリルのいる武道場へ1人で食事を運んできたサイモンは、すごくばつが悪そうな顔をしていた。
「夕方はごめん、動揺して逃げて。あ、あのっ、好きって言ったのは、と、友達としてで……っていうか、人として好きって意味だからね? 困らせるような意味じゃないからね」
「あ、うん。分かってる。私も友達として人として、サイモンが好きよ」
照れるサイモンを見ると、メリルも釣られて恥ずかしくなる。
しかし、やはりサイモンのことは何だか弟みたいに思えて、正直言ってむず痒い気持ちになる。
尖った雰囲気で小生意気で、ツンツンしていると思いきや、不意打ちでデレる、弟のフィンレイを彷彿とさせるのだ。
(フィンに似てて可愛い。あれっ、私って実はブラコンだったのかしら……?)
一緒に晩ごはんを食べながら、サイモンはポツリポツリと言葉を紡いだ。
「覚えてると思うけど、昔の僕、ひどく冴えなかったでしょ。人の視線が怖くて、それを避けるために、分厚い眼鏡かけて、髪を伸ばして、隠れたくて……なるべく周囲を遮断できるように」
メリルは美味しいご飯を噛み締めながら、サイモンの自分語りに耳を傾けた。
「でもそんな僕を面白がって、わざと絡んでくる奴らがいた。僕が焦ってどもると笑って馬鹿にして。僕がもしすごい力を持つ使徒なら、奴らをぶち殺してやりたいって思ってたよ。けど高2からのクラスは少しマシだった。ロイドが転校してきたからね。不良ぶって幅を利かせてた奴らも、ロイドには遠慮して少し大人しくなった。誰もが一目を置くロイドは、僕にも至極まともに接してくれた。特別にどう気にかけてくれたって訳じゃないけど、他のクラスメイトへの態度と何一つ変わらない態度で、とてもフラットに接してくれた。悪い方にも良い方にも特別扱いされない、それがすごくありがたかった」
サイモンがそんな風にロイドに感謝していたことを初めて知り、メリルは自分のことのように胸が熱くなった。
と同時に、当時のサイモンへ何もしてあげられなかった自分を改めて恥じた。
「ごめんね、サイモン。私もサイモンにどう接していいのか分からなくて。もっと出来ることがあったって、今なら分かるのに」
「ううん、それは違うっ」
サイモンが声を大にして否定した。
「メリルも僕に普通に接してくれた。よく挨拶してくれたよね。僕は緊張して、一言も返せないのに。おはようさえまともに返せない僕に、気にせず挨拶を続けてくれた。そんな女子はメリルだけだったから、覚えてたよ。ロイドの彼女だったしね」
それから、とサイモンはキースの名前も出した。
「キースは派手なグループとも仲が良かったから、奴らの同類だと最初は思ってた。けどキースは誰とでも調子良く距離が近いだけで、根はいい奴だった。僕をからかって笑ってる奴らがいると、別のことで騒いでそっちに気を引いて、奴らの注意を逸らしてくれることが何度もあったからね。助けてくれてるんだなって分かったよ。昔からお節介だよね」
サイモンは小さく笑って、メリルに言った。
「ありがとう。ずっと3人に言いたくて、でも話しかけることさえ、ずっと出来なくて。再会して、やっと普通に話せるようになったってのに、僕はやっぱりこんな性格だから、やっぱりなかなか言えなくて。恥ずかしいし、プライドも邪魔して、黒歴史を今さら自ら掘り起こして、『あの時はありがとう』なんて言えないじゃん。あー、くっそ恥ずかしい」
口元を手で覆い、みるみる真っ赤になるサイモンを見て、メリルは確信した。
サイモンはやっぱり可愛い。
「サイモンって、ちょっと信じられないくらい可愛いのね」
つい口に出して言ってしまった。
「やっ、やや、やめてよ、からかうのっ」
「からかってないわ。弟に似てて、可愛いなって」
「弟?」
「うん。五つ下の弟、いまは二十歳よ。あっ、似てるって言っても断然サイモンの方が美形でかっこいいけどね。フィンはチャラチャラしてるし、背は高いけどサイモンよりは少し低いし、でももしかしたらまだ伸びそう。とにかく生意気なの、そこが可愛いけど」
「生意気な弟か……それ、似てるって言われてもあんまり嬉しくないね?」
眉を下げたサイモンがおどけたように言い、メリルは「そうかも」と答え、2人で笑った。
寝ていたルーシーが目を覚まし、ふぎぁあと泣き声を上げた。
「メリルは食べてて。僕が見るよ。食べ終わったら交代ね」
サイモンがそう言い、ベビーベッドからルーシーを抱き上げた。
元々ここになかったベビーベッドは、サイモンとアランが日曜大工でこしらえた物だ。
2人はとても器用で、売り物と遜色のないベッドが出来上がった。




