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サイモンとジャガイモ



「それで良かったのか? お前ってほんとお人好しというか、損してるっていうか。それはそれ、これはこれで別もんだろうに」


サイモンの祖母宅に電話をかけてきたキースが、メリルの話を聞いて憤慨した。


「いいの、私がそう決めたんだもの。ロイが仕事を辞めずに、都にいてくれるならいいの。こっちへ移り住むったって、余所者がすぐに就ける仕事なんてないわ。あ、このお家に居候して、雑用なら沢山あるけど。私も今そうやって暮らしてるし」


メリルの毎日は意外と充実していた。

この家の者と交代でルーシーの世話をしながら、農作業や家事を手伝う。

2日に一度はサイモンの運転で近くのスーパーマーケットへ行き、一緒に買い物をした。


ペレス元大佐が置いて行った上等な四輪駆動車が活躍している。

キーは元大佐と共に行方不明だが、サイモンが水の能力を使って型を取り、スペアキーを作成したのだ。


「ばあちゃんち、軽トラしかないからね。この車は拾い物だよ」


思ってもみない幸運だったと屈託なく口にするサイモンの倫理観は、時々危うい。

私設ヒーロークラブのヒーローであるサイモンは、法律やモラルを遵守するわけではなく、むしろ飄々とそれを破っていくようなところがある。

サイモンの中での『善悪』の基準は、サイモン自身が定めているのだ。


「でもペレス元大佐の失踪が表面化して問題になる前に、この車は処分した方がいいだろうってボスが。近々誰かが引き取りに来るって。気に入ってたんだけどなぁ」


残念そうに唇を尖らせるサイモンを見て、メリルは微笑した。

子供じみた仕草が不釣り合いな外見だが、サイモンの根っこはわりと子供っぽいのだ。

同い年で、背はメリルよりもはるかに高いが、話していると弟のように感じることがある。実家にいる弟のフィンを思い出す。


実家の家族には、一足先にドノイへ戻ったキースが話をつけてくれて、週末に帰宅することが本決まりとなった。

帰ったら大目玉を食らいそうだが、今度こそ家族を安心させられるように、地道に暮らして行こうと心に誓った。決意の分、気が重い。


夕食の下ごしらえを共にしながら、サイモンがメリルに言った。


「本当に明日帰っちゃうの? ルーシーはともかく、メリルはいたいなら、ここに残って暮らしてもいいのに」


「え?」


「ロイドの奥さんを待つためとかじゃなくて。ここで暮らすのが心地いいなら。いてもいいよ、ばあちゃん達もそう言ってるし」


包丁を扱う手をとめず、サイモンは飄々とメリルにそう告げた。

サイモンは鈍いようで鋭い。

メリルがこのド田舎での生活を意外にも謳歌し、祖母達とも妙に波長が合い、すっかり打ち解けていることに気付いていた。


5年という年月を一瞬にして失い、戻って来たときには居場所がなかったメリル。

婚約者はすでに別の女性と結婚しており、勘当されていた実家へ出戻ったものの、肩身は狭い。

全くしがらみのない場所で、新しい人々に囲まれて家事雑用に追われていると、色々やり直せそうな気がしてくる。


「でも、家族に何て言っていいのか。おばあちゃん達にもそこまで甘えていいのか……」


「甘えなよ。大義名分が必要なら作ってもいいし」


「何の大義名分?」


「メリルがここで暮らすための、周りを納得させる大義名分。僕と結婚して、この家の家族になればいいよ。孫のお嫁さんなら、ばあちゃんちで暮らしてても変じゃないし。メリルの家族にも納得してもらえる」


サイモンの提案はぶっ飛んでいて、メリルの想像のはるか斜め上を行っていた。


「そのために結婚?」


とりあえず聞き返した。


「うん、形だけのね。僕はボスの指示があり次第、ばあちゃんちを出て行くし、ひとところに留まる生活とは無縁だから、常にフラフラしてる旦那になる。どこでどうしているのか、特に気にしてくれなくて構わない。僕は結婚願望もないし、女の人が苦手だから、きっと一生結婚なんて出来ないからね。適当に名義だけ利用してくれればいいよ。離婚も適当にしてくれたらいいし」


手元のジャガイモだけを見て飄々とそんなことを言うサイモンに、メリルは呆れた。


「サイモン。適当に利用するとか、どこでどうしているのか気にしないなんて、友達なんだもの無理よ。それに結婚制度って、そういうことに利用しちゃいけないと思う。今はそう思っていたって、サイモンにも結婚したいほど素敵な人が現れるかもしれないし。本当に好きになったら、生活の都合とか関係なく、一緒になりたいと思うものよ」


メリルの正論で塗り固めたような抗議に、サイモンはぴたりと手を止めた。

そしてようやくメリルの方を見た。


「君にとってのロイドのように? その結果いま幸せ?」


痛いところを突かれ、メリルはぐっと息を飲んだ。


「ごっ、ごめん、そそそんな嫌味を言うつもりじゃ……」


サイモンは焦って、どもった。


「ぼぼ僕はただ、ききき君が……すっ、好きなだけだからっ」


顔を真っ赤にしたサイモンは、ジャガイモ剥きを中止して台所を出て行った。

言い逃げられたメリルは呆然として、ごろりんとしたジャガイモたちを眺めた。

とても器用に剥かれている。


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