表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/48

痛み

とりあえず色々考えるのは後にして、ルーシーの空腹を満たそうということで満場一致した。


ここには乳母も粉ミルクもない。

このぽつんと一軒家から車で30分のところにスーパーマーケットがある。

アランとザラが粉ミルクと哺乳瓶を買って来ることになった。


「それとオムツも。すみません」


ルーシーを腕に抱くロイドが頭を下げた。

ルーシーは泣き疲れて眠ってしまい、起きてはまた泣いた。

メリルは、どうしようという気持ちでいっぱいだった。


(どうしよう、本当にナタリーさんが指輪に願い事をして消えたのだとしたら。どのくらいで戻って来るの? まだこんなに小さいルーシーちゃんを置いて……)


この子の母はあの状況で咄嗟に願ったのだろう。娘を返してほしいと。


もう指輪の契約者ではないメリルは、悪魔ワガナオの姿も声も認識することができなくなっていたが、きっとワガナオは現れて、ナタリーにも同じように説明したのだろう。

願い事を叶える代わりに時間をもらうと。


それが一体どのくらいの時間なのか、残されたメリルたちに知る術はなかった。

ナタリーも悪魔の指輪も姿を消してしまった。


アランとザラが買い物から戻り、ルーシーにミルクを与え、オムツを替え、本家から運んできた布団を敷いて、武道場に寝かせた。

ルーシーの健やかな寝息を見守りながら、大人たちは話し合いを続けた。


「願い事の内容によるんだっけか、代償の時間の長さは」


キースが言った。


「だね。ペレス元大佐が生きてるか死んでるかにもよりそうだね」とサイモンが言った。


「一般的に、人を死なせたなら罪も重いよね。けど例えば、この赤ちゃんとペレス元大佐の位置を入れ替えてほしいって願いだったなら、どうかな」


「テレポートみたいな感じで? だったらナタリーさんもすぐに戻って来るかも。ペレス元大佐もまた来るかもしれないけど」


メリルは良い方向へ想像を働かせた。

ナタリーさんはきっと数日か、数週間、遅くても1ヶ月後には帰って来るのではないかと。そう信じたかった。


ナタリーさんはすぐに帰って来る。

その場合また指輪を奪いにペレス元大佐がやって来るだろうが、その前に土の使徒を探して『指輪の契約解除の儀式』をやってしまえばいい。

ナタリーさんから指輪を外して、サイモンのボスへ渡す。サイモンのボスならどうにかしてくれるだろう。

指輪を手離せば、再びメリルたちやルーシー親子が狙われることもないはずだ。


「そうだといいが……」


ロイドが言った。

ルーシーをあやしているときはまだ覇気があったが、今は生気が抜けてしまったように肩を落としている。

人質にされていた娘は無事に戻って来たが、その代わりに妻が消えてしまったショックは計り知れない。


「都へ戻って、ペレス元大佐の消息を追ってみるよ。といっても大佐がどこに住んでいるのか、普段どうやって暮らしていたのか、俺も知らない」


ロイドの父親の葬儀に参列したときに初めて顔を合わせた元大佐は、それ以降ロイド母子を気にかけてくれていた。

ロイドの誕生日やクリスマスには、カード付きのプレゼントが届き、お礼の手紙を書いて送るというやり取りが数年続いた。


ロイドが高校を卒業し、実家を出てからはそれはなくなったが、忘れた頃に職場へ電話がかかってきた。一緒に飲みに行ったこともある。

それほど密な関係ではなかったが、子供の頃から距離を置いて見守ってくれる、親戚のおじさんのような感覚だった。


ロイドが軍に入る前にペレス大佐は退役し、政治家を目指したため、同じ時期に軍で働くことはなかったが、年に数度忘れた頃に連絡があるのは変わらなかった。


「士官学校に寮があるだろ。なんで寮に入らないんだ。家賃が勿体ない」


「寮に入るつもりだったんですけど、付き合ってる彼女が一緒に暮らしたいって、ドノイから出てきたんで」


「惚気んな。学生で同棲か、けしからんな。ちゃんと避妊しろよ。卒業したらちゃんと結婚もしろよ」


「勿論そのつもりです」


メリルのことも話した。

その同棲していた彼女が失踪して戻らず、他の女性と結婚したということも。そのときにはお祝いが贈られてきた。


そして最近かかってきた久しぶりの電話で、ロイドは元大佐に相談してしまった。

失踪していた彼女が戻って来たが、どうやら呪われた指輪を着けている。


「俺が実地訓練中に山で拾った指輪なんです。あの指輪からは、とても禍々しい嫌な気配がした」


その話に興味を持ったペレス元大佐は、ロイドから詳しく指輪の特徴を聞き出し、確信した。

それは『悪魔ワガナオが封印された指輪』だと。遥か大昔に4使徒に封印された悪魔の話をペレス元大佐は知っていたのだ。


契約者の願いを何でも叶える指輪。

契約者とは指輪を嵌めた者のことであり、指輪は一度装着すると外れない。

指輪の持ち主が死ねば、指輪は外れる。


つまり、とペレス元大佐は結論付けた。

指輪を奪うには持ち主を殺すしかない。

それが例え、同期の忘れ形見の恋人であろうとだ。

大きな改革を成し遂げるために、痛みはつきものだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ