使徒の長老の家
メリルは秘かにサイモンに期待した。
ペレス元大佐の登場を予見していたサイモンは、きっと何か対策を立てているに違いないと。
まさか何も準備せず、黙って今日を迎えたわけではあるまい。
サイモンも毎日誰かに電話をしていたのだ。これから会う祖母や、どこにいるのか知らないが雇用主の『ボス』と情報をやり取りしていたはず。
使徒の長老であるサイモンの祖母やその弟子たちが、馬鹿強いのかもしれないし。
そう期待したメリルだったが、聞いていた通りの『ぽつんと一軒家』に住むサイモンの祖母は、小柄なメリルよりも小さくて、少し腰の曲がった老人だった。
メリルの若々しい祖父母に比べると、随分『おばあちゃん』だ。
おばあちゃんは皺の多い顔をほころばせて、孫の友人たちを歓迎した。
「遠いところをよく来てくれのう。サイちゃんがこんなにようけ、お友達を連れて来るなんて、思ってもみなんだわ。この子は本当に優しい子でのう、ただ照れ屋すぎて、喋りが苦手やけん心配でなあ。それが女の子のお友達まで連れきとんやなあ、あれまぁ。誰かのカノジョかいな」
「ばあちゃんっ、そういう話はいいから」
サイモンが慌てて祖母の話を遮った。顔が赤い。
「電話で話したよね。悪魔ワガナオが封印された指輪を外したいんだ。そのために使徒を連れてきた。『気』のロイド、高校の同級生。『土』のペレスさん、ロイドのお父さんのお友達。そして指輪の契約者、メリル。メリルも高校の同級生。そしてキース、以下同文。ナタリーさんはロイドの奥さん」
サイモンに紹介され、それぞれ頭を下げた。
以下同文って、とキースは内心でつっこみを入れた。
「ばあちゃんしかやり方を知らない。だからどうやればいいか、細かく教えて」
「早速かい? 来たばっかりやけん、お茶でも飲んで、休んでからでええやないの」
「おばあさん、すみません。あまり時間がなくて……せっかくのご厚意ですが、今すぐにでも指輪を外す儀式を始めたいのです。無理を言って、大変申し訳ありません。ああ、儀式の後はこちらでゆっくりできる者はそうさせて頂けると有難いです。お孫さんともゆっくりお話されたいでしょうし。私はすぐに戻らなければいけませんが」
ペレス元大佐が殊勝な態度で言った。
他のメンバーは「余計なことは喋らず、かつ自然に振る舞え」と釘を刺されていたため、皆も調子を合わせた。
このまま事が進めば、確かに平和的に解放されるのかもしれないとメリルは思った。
指輪を外し、ペレス元大佐へ渡す。指輪を手に入れたペレス元大佐はすぐにここから出て行き、一旦都へ戻るのだろう。
そしてロイド夫妻の娘が解放され、無事に夫妻の元へ戻ってくればいい。
(だけどそれと引き換えに、この国が変わってしまう。軍国主義になって、軍が政権を握ることになれば、一体どう変わるのかしら……)
政治に感心の薄いメリルにはいまいちピンと来なかった。
しかし現在の議会制の国家のほうが、安心できる気がする。軍国主義というと、戦争に積極的な独裁政治というイメージが湧いた。
「あら、そうかい。忙しいんやねぇ。それじゃあ、武道場へ移動するとしようかの。弟子たちがそっちでもう準備しとるんよ」
サイモンの祖母の家は敷地が広大で、本宅、別宅、離れ、武道場2つと、建物がいくつもあった。
別宅にはサイモンの母の兄、伯父夫婦が住んでいる。通いでやってくる家政婦や農夫もいるそうだ。
「自前の武道場が家に2つもあるとか、すげーな」
サイモンの祖母の案内で移動しながら、キースがキョロキョロしながら感嘆の声を漏らした。
友達同士で行動しているのに、ずっと暗い顔をして無言ではお葬式のようで不自然だ。だから少しくらい、当たり障りのない事を喋ってもいいだろうと思ったのだ。
「だね、すごいね」とメリルが相槌を打った。
「僕もこの家の武道場で訓練をつけられた。封印されていた『能力』が解放されたばかりの頃は、上手く使いこなせなくなくてさ。今から会うばあちゃんの弟子2人、アホみたいに手加減ないから、何度死にかけたか」
サイモンがぼやいた。




