表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/48

待ち合わせ


翌日、遂にヘリオーズ地方入りした。

電車の終着駅を降り、無人の改札口を抜けて、キースが言った。


「駅前と思えないくらい、何もねえーなあ」


「田舎の駅ってこんなもんだよ」とサイモンが答えた。


「いい雰囲気ね」と声を弾ませたのはメリルだ。

見渡す限り緑が広がり、少し先には黄色い花畑が見える。ひまわり畑だ。


「ロイドのお友達はもう来てるかな?」


サイモンがロイドを見た。

指輪を外すには、気・火・水・土の4使徒の協力が必要だ。

ロイドが気、サイモンが水、サイモンの祖母が火で、土の使徒が足りなかった。

そこでロイドが友人を呼び寄せたのだ。


数日前に「心当たりがある」と言っていた相手だ。

その友人は自家用車でヘリオーズまで来るため、この終着駅で落ち合うことになったと、他の3人は今朝ロイドから聞かされていた。


「ああ、あそこだ」


四輪駆動の大きな車が停まっていた。


「おっ、いい車っ」


キースは潰してしまった実家の車のことを思い出した。土砂崩れによる不可抗力だったとはいえ、キースの責任だ。


(あー、帰ったら車の買い換え問題か。働き始めたら、給料はそれに消えていきそうだな……。てか、俺のせいじゃないよな、あの覆面野郎のせいだし。マジで弁償してほしいわ)


四駆の前に立っていた背の高い男が、近付いたロイドに向かって片手を上げた。


「やあ、待ったよ」


その声にメリルはドキリとした。地を這うような低い声は、どこかで聞いた気がする。

嫌な予感がした。


キースも軽く面食らっていた。ロイドの友達というからには、同年代くらいだろうと勝手に思っていた。目の前にいる男は50は過ぎていそうだ。

大きなサングラスをかけ、濃い口髭を生やし、がっちりした筋肉のついた体をしている。軍人だろうか。


(けど、軍の人間は信用できないって言ってたよな……?)


「お目にかかれて光栄です、ペレス元大佐」


ロイドの隣に並んだサイモンがすっと片手を出した。


「えっ!」とキースは思わず叫んだ。


「悪いが、犬ころと握手する趣味はないのでね。資本主義の飼い犬くん」


覆面をしていないペレス元大佐は、握手を求めたサイモンの手を取らず、手のひらを上に向けて差し出した。

お手をしろというポーズだ。


「ロイっ、どういうことだよ!? この人がペレス元大佐って!? なんでここに?」


ロイドの腕をがっと掴んで、キースが尋ねた。メリルはキースの後ろで硬直している。


「協力をしに来たんだ。指輪を外すには、4使徒が必要だと聞いてね」


ロイドの代わりに元大佐が答えた。


「ってロイっ、お前っ裏切ったのか!」


ロイドを掴んだ腕を震わせ、キースが怒鳴った。


「ロイドくんと取引をしたんだよ。指輪を渡してくれるなら、君たちには手を出さない。人質も無事に返すとね」


「人質……?」


「ロイドくんの妻子だ。奥さんは車の中だ。約束どおり、ここで返そう。ただし下手なことをすれば、別の場所で預かっている娘の命はない。だから君たちも大人しく従いたまえ。友人の子供を見殺しにしたくないだろう?」


「くそっ、そういうことかよ……」


キースはぎりっと歯ぎしりした。

サイモンはひどく冷めた顔でじっとペレス元大佐を見ている。

呼びかけるとキースのほうへ向き、小さく頷いた。言うとおりにしようということらしい。


メリルは驚きと恐怖で足がすくみ、一言も発することができなかった。

本気でメリルを殺そうとして放たれた弾丸や、どこまでも執拗に追いかけてきた地割れ蛇を思い出した。

また追って来るかもしれないと怯えていたが、これまでに追手の気配はなく、ついに逃げ切れたと安心する寸前で、再び姿を現した。

しかも、頼りにしていたロイドの手引きで。


「何の言い訳もない。いま、大佐の言ったとおりだ。君たちの安全を保証し、妻と子を返してもらうために、メリルの指輪を外して大佐へ渡す。そうする以外の選択肢はないと思ってほしい」


ロイドが前を向いたまま言った。


「黙ってここまで来たことは申し訳なかった」


「妻子を人質に取られてちゃ、仕方ないよ」


サイモンが飄々とした調子で言った。


「了解。とりあえず全員車へ乗ればいいのかな? ばあちゃんちへ行こう」


「使徒の長老だとかにも、変な真似をさせるなよ。でないと……」

「はいはい、分かってます」


ペレス元大佐の言葉に被せ気味に、サイモンが軽い調子で返答した。

次の瞬間、サイモンの頬がすぱんっと平手打ちされた。

よろめいたサイモンをロイドが受け止めた。


「ガキが舐めた口きくなよ。女から車へ乗れ。次にロイド、そこの茶髪、そしてお前は助手席だ」


キースはメリルをずっと背中で庇っており、そばを離れる気はなかったが、指定された順番で仕方なく間にロイドを入れた。

ついさっきまでは、無力な自分よりも頼れる存在として信頼していた親友が、今はまるで敵のように思えた。


(けどサイモンの言うとおり、人質を取られていたんじゃ仕方ない。それに、メリルを殺して指輪を奪おうとしていたオッサンが、平和的に指輪を外すのを待ってくれるって言うんだから。ロイがそうするよう掛け合ったんだよな……)


ロイドは自分たちを裏切ったのではなく、守ろうとした結果のこれなのかもしれない。

しかし、現状に全く安心はできない。


(手を出さないって言ったそばから、サイモンをぶってるし。俺ら本当に無事で済むのかよ)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ