指輪の外しかた
「肝心なことを聞き忘れてたんだけど」
4人で買い物へ向かいながら、サイモンが言った。
「指輪の外しかた。悪魔は教えてくれた?」
あっ!とキースが声を上げた。
そういえば、それを聞くことが目的で指輪の悪魔を呼び出したのだ。
それよりも衝撃的な事実ーーメリルと悪魔の取引内容が判明したため、皆の気持ちはすっかりそちらへ囚われていた。
「あっ、それは無理と言われたわ。悪魔は指輪の持ち主からなるべく多くの時間を巻き上げることを目的としているから、一度寄生した相手からは頑として離れないつもりらしいの。一度奪った時間を返すことも絶対にしないって言ってたわ。時間を巻き戻す系の願いごとも無理だって」
成る程ねぇとサイモンは一人言のように頷いた。
「持ち主が死ぬ以外に指輪の外しかたがあったとしても、口を割らない感じだね。教えるメリットが悪魔には無いもんね」
「でもさー、欲しがってる奴に渡した方が使ってもらえるんじゃね? 悪魔にとってもその方がWin-Winじゃん」とキースが言った。
「人を殺してでも悪魔の指輪を欲しがるような奴に渡すって? 世界征服とか願いそうだ」とサイモンが冗談でも無さそうに言った。「危険だよ」
そうよねと頷いたのはメリルだ。
「指輪の悪魔が言っていたの。はるか大昔は神殿に納められていたって。人手に渡らないように。指輪の力を欲しがった人々が戦争を起こして、だから指輪は神殿から移されて、辺鄙な山中の祠に。結界が張られていたそうだけど、何百年も経って薄れてしまったし、指輪の存在自体が忘れられてしまった……。だけどとても危険な物よ」
「悪魔はどんな姿だった? 名前は名乗っていた?」とロイドが尋ねた。
「10歳くらいの銀髪の綺麗な子供よ。指輪に封じ込められたときに弱体化させられたって言っていたから、子供の姿なのかも。名前はワガナオと名乗ったわ」
「指輪に封じられた悪魔ワガナオか……封じたのは神?」
「神々の力を借りた聖者と言っていたわ」
サイモンがはっとした顔をした。
「使徒か」
気、火、水、土を操る能力を持った使徒は、神の使いと崇められることもあった。神話や伝説にもよく登場する。
「使徒の長老なら、その指輪について知っているかもしれないな。外す方法も」
サイモンが言った。
「決めた。会いに行こう」
「使徒の長老に? そんなのどこにいるか知んねーぞ」
キースが目を丸くした。
「僕の母方の祖母だ。すごく田舎に住んでいるから、逃げるにも丁度いい。なるべく遠くに逃げた方が良いでしょ。当てもなく逃げるよりは、目的地があった方が。多分匿ってくれるよ」
サイモンの申し出は渡りに船だが、すぐに飛び付くのは躊躇された。
「で、でもおばあ様にご迷惑が」とメリルが言った。
「この指輪を追っているのは、恐ろしい能力者よ。もし逃げた先に追いかけて来たら……」
「だよな」とキースも言った。
「サイモンだけでなく、サイモンの家族まで危険に晒す訳には。なあロイ、軍でどうにかならないのかよ。逃げずに事情を話してさ。あの覆面のオッサンが偉い軍人だったっつっても昔の話だろ? ロイの上司に話せば、俺たちの味方になってくれるんじゃないのか?」
ロイドは硬い表情で首を横に振った。
「ペレス元大佐は偏った軍国主義者で、国民には理解されなかったが、軍部には支持者が残っている。水面下だから、誰がそうなのか分からない。信用している上司かもしれないし、更にその上司かもしれない。ペレス大佐のことを抜きにしても、その指輪の存在を軍に知らせたところで、メリルの安全が保証されるとは限らない。殺人を犯してでもすごい力を手に入れたいと願うのは、何もペレス大佐に限らない。軍部は強い力を求める者の集まりだからね」
「つまり、上司も仲間も信頼できないってことだね」
サイモンが皮肉げに笑った。
「疑心暗鬼だね。そういうことなら尚更、僕の祖母を頼るといい。祖母は田舎の使徒を牛耳る長老で、強い弟子も側にいる。軍より頼りになるはずだ。ペレス元大佐に捕まる前に指輪を外すことができれば、僕たちの勝ちだ。元大佐の目的は指輪で、彼女の命を欲しがっている訳じゃないからね」
「指輪を外せたら、メリルを殺す必要はないもんな。けどそうかな、俺らすでに殺されかけたし、口封じ的な意味で殺されるんじゃねーか?」
「僕たちを襲った男は覆面をしていたよね。覆面強盗だ。その正体を僕たちは知らない。だから口封じされる必要はない」
サイモンはそう言い、ロイドを見た。
「ね? そういうことで宜しく頼むよ」




