表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/48

契約

ロイドが戻って来て、ホテルのチェックイン可能な時間となり、4人は部屋へ移動した。

サイモン主導のもと、皆の見守る中メリルはベッドに浅く腰かけ、目を閉じて指輪の石に触れた。


そうして強く祈れば、指輪と会話できるはずだとサイモンは言うが、誰もが半信半疑だった。


(指輪よ、私の質問に答えて)


「願いごと?」


幼い声がして、メリルは目を開けて顔を上げた。ベッドに腰かけているメリルのすぐ目の前に、少年が立っていた。少年……少女?

少年にしては可憐な、少女にしてボーイッシュな雰囲気の子供が、片手を腰に当てて妙にふんぞり返っている。

民族衣装のような服装と、何より体が半透明に透けているということに目を奪われて、メリルは絶句した。


慌てて他の3人の顔を見たが、キースとサイモンはその子供の方ではなく、メリルの驚いた顔を見て、驚いていた。


ロイドは出現した子供の姿を視覚では捉えていなかったが、気配の邪悪さに当てられて、息苦しさを覚えた。

指輪を拾った学生時代に比べると、成長したのだ。眩暈と吐き気でぐらつくことはなかった。


「メリル、それが見えているのか。それは悪魔だ」とロイドが警告を発した。


「悪魔!?」とメリルがすっとんきょうな声を上げた。


「あは。どうも、悪魔です。初めましてじゃないけど忘れちゃってるよね、俺のこと。改めて自己紹介いる? 俺はワガナオ、その指輪に封印されてる悪魔だよ。指輪の持ち主の願いを何でも……何でもは無理だけど、大抵のことは叶えてあげる。ただし『時間』と引き換えにね。さあ、願いなよ」


「願いと時間が引き換え? どういうこと?」


メリルは恐る恐る尋ねた。何しろ相手は悪魔なのだ。


「今みたいに、指輪の石を触りながら目を閉じて、強く願うと俺が現れるでしょ。で、願いごとを言う。願いごとの内容によって、もらう時間の長さは変わる。俺が提示した期間でオッケーなら交渉成立ね」


「待って。もう少しゆっくり丁寧に、説明して。時間をもらうってどういうこと?」


子供の姿をした悪魔だから、小悪魔というのだろうか。

小悪魔ワガナオはメリルの隣にひょいと腰かけて、話を始めた。


はるか大昔、今よりうんと凶悪だったワガナオは、神々の力を借りた聖者の手によって、退魔の指輪に封印されてしまった。

弱体化させられたとはいえ、ワガナオを永遠に閉じ込めることはできない。


「500万年なんだよね、俺の禁固期間。500万年もじっとしてるなんて、暇でたまらないからさ、解放を早めるために『時間』を集めることにしたんだ。俺、賢いでしょ」


天真爛漫な笑顔でワガナオが言った。


「その指輪を着けた人間だけが俺を呼び出せるし、俺と契約できる。それを阻止するために、指輪は長らく神殿に奉納されてたんだけどさ。いつの時代にも欲深な人間ってのは争いを起こしたがる。願いを叶える指輪を巡って戦が起こった。で、神殿に大々的に奉納する形式はやめて、そこにはダミーの指輪を置いて、本物はひっそりと人知れず、辺鄙な山奥のほこらに納められた。一応結界とか張って、誰も踏み入れないようにしてたけどね。それも何百年も経てば薄れる。守り人の継承も途絶えたみたいだし」


「それで……何百年も経って、5年前にロイドが山中で拾ったってこと?」


「俺たちはご縁があったって事だね。辺鄙な山奥で俺を拾ったのは、そこにいる君の婚約者……あ、もう元婚約者か。彼だったけど、彼は指輪を着けなかった。君が着けて、願い事をした」


「私があなたに願い事を? 全く記憶にないの。私は何を願ったの?」


「婚約者の命を救ってほしい、それが君の願いだったよ。俺はちゃんとそれを叶えたよ。だから彼、ピンピンしてるでしょ。良かったね」


「私がロイの命を救った……?」


「うん。ああ、覚えてないんだったね。願い事に関することは、願いが叶った後は忘れちゃうからね。彼、俺を拾った山で滑落事故に遭って、重体だったって話は聞いたよね? 病院に担ぎ込まれて緊急手術を受けたけど、五分五分の生存率と言われた。だから君は俺に願った。彼を元気にしてほしいと。5年分の時間と引き換えにね」


5年分の時間と聞いて、メリルははっとした。


「もしかして、だから私には5年分の記憶がないの?」


「うん、そうだよ。正確に言うと、記憶が無いんじゃない。5年っていう時間そのものを俺にくれたんだから、その間の記憶なんてものは最初から存在しない。君は5年分の時間を失っただけだ」


「どういうこと?」


「君が過ごすはずだった、5年間を丸々俺にくれたってことだよ。君以外の人間は5年という月日を過ごしたけど、君は俺と契約した瞬間にそれを失い、次に気付いた瞬間には、もう5年後にいる」


「それって……まさに今がその状態だわ」


「うん、だからそうなんだって。理解してくれた? で、新しい願いごとは?」


メリルは混乱する頭を整理しながら、質問を考えた。


「ねえ、もし1ヶ月を対価とする願い事を叶えてもらったとしたら、その瞬間私の1ヶ月は失われて、次の瞬間にはもう1ヶ月後の世界にいるってこと? 私以外の人間ーー例えば家族からしたら、私は忽然と姿を消して、1ヶ月後に再び現れるってことになるのかしら? そして私は願い事の記憶をすっかり忘れている、と」


「その通り!」と小悪魔ワガナオは答えた。


何てことだとメリルは愕然とした。

話がその通りなら、謎は全て解けた。

目が覚めたら5年経っていたことも、その間失踪していたことになっていて、何も覚えていないことも。


大怪我をして生死の境をさまよっていたロイドのために、この悪魔と契約を交わしたせいだったのだ。


「ねえ……」とメリルは尋ねた。


「過去に戻してほしいっていう願い事は叶えられる? ロイドが事故に遭って怪我をする前に。山に行かないように注意して、怪我を回避できればいいのよね」


「それは出来ない。最初に言ったでしょ、俺には出来ることと出来ないことがあるって。時間を戻すということは、一番出来ないことだよ。貰った時間を返すことも出来ない。俺は『時間』を集めてるんだ。時間を前に進めることを目的にしてる。過去に巻き戻したり、集めた時間を手放すことは絶対にしない」


きっぱりと断られて、メリルは考え込んだ。


「あなたにあげた『時間』の分、私はその時間を生きていないってことよね。5年経ったけど、私はその5年間を過ごしていない。じゃあ、その分歳を取っていないということ? 本来なら今年25だけど、20歳のまま?」


「だね。歳を取らずに、そのまま5年後にスライドした感じかな。けど別に寿命が伸びた訳じゃないよ。仮に元々の寿命が50年として、俺に10年くれたとしたら、40歳の状態で50歳を迎えて死ぬ。分かるかな?」


「ええ、何となく。でもロイドの命を救ったのは? 寿命を伸ばす行為に当てはまらないの?」


「指輪の持ち主以外の時間は、どちみち奪えないからね。どうとでもしてやるよ。俺は指輪の持ち主から、出来るだけ多くの時間を巻き上げたいんだよ。指輪の持ち主が殺されそうになって、助けてと願えば勿論助けるけど、対価の時間は貰う。一度貰った時間は返さない。過去にも巻き戻さない。分かる?」


「指輪の持ち主って、交代できないの? この指輪外れないんだけど、どうやったら外れるの?」


「死ぬまで外れないよ。それを外したいっていう願い事も、叶えられない願い事の一つだよ。せっかく着けて貰ったんだもの、時間が尽きるまで付き合ってよ」


そう言って悪魔はにっと笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ