四角形のバランス
サイモンの提案で、レストランの階上のホテルの部屋を取ることにした。
しかし、チェックインできるまで少し時間がある。一度別れて、用事をしてから戻って来るとロイドが言った。
「そういやロイ、仕事は? 今日は休みなのか?」
「しばらく有給休暇を取った」
「あ、奥さんの方は大丈夫なの……?」
メリルが気にしたのは、里帰り中のロイドの妻と、生まれたての子供のことだ。父親になったばかりのロイドが、メリルのことに構っていて良いのだろうかと。
「会いに行ったよ。実家の居心地が良くて、しばらく向こうで暮らすそうだから、心配ない。電話は毎日できるしね」
「そう……ごめんね、変なことに巻き込んで」
「それはこっちの台詞、巻き込んだのは俺だ。その指輪のことは、責任持って何とかしたいんだ。だからまた来るよ。キース、サイモン、メリルをよろしく頼む」
ああ任せろとキースが胸を張った。
「俺はニート期間満喫中だ。暇さには自信がある。サイモンは大丈夫なのか? 仕事、何してるか知んねーけど。モデルとかか?」
「自由業だよ。比較的融通が利くから、とことん付き合うよ。乗りかかった船だ」
「そいつは頼もしいな。マジで良かったよ、昨日たまたまお前がいて。たまたまお前が水の使徒で親切で、マジで助かった。それにしても能力の高い使徒が2人も居合わせる確率なんて、すげー低いよな、普通。お前らマジですごいわ」
使徒は千人に1人の確率と言われるが、その能力はピンキリだ。
例えば同じ「風を起こす能力」にしても、扇子の風程度しか起こせない使徒もいれば、家屋を吹き飛ばすほどの竜巻を起こせる者もいる。
力のコントロールには訓練が必要だが、能力の上限は持って生まれた資質によるところが大きい。
よって、ロイドとサイモンは選ばれし者と言える。
ロイドが皆と別れ、サイモンがトイレに立ち、メリルと2人きりになったキースは急に自信をなくした。
「さっきさ、電話でおばさんにメリルを絶対に守りますって偉そうに言っちまったけど、俺はあいつらと違って、凡人だしなあ。ここへ逃げて来るまでも、サイモンに頼りっぱなしだったし。ロイが来てくれて安心したし。情けない。役立たずだよなぁ」
「そんなこと全然ないっ。あのときキースが来てくれなかったら、逃げられなかったわ。キースが来てくれて、運転してくれて、船の見張りもしてくれて。キースがいなかったら……」
メリルは想像した。キースがこの場におらず、もしサイモンと2人きりだったら?
どことなく気まずい。
会話は弾まず、緊張しそうだ。元々あまり話した事がないからといっても、初対面でも気さくに話せる相手というのは少なからず存在する。
サイモンとは初対面でもないのに、どことなく話しづらいのだ。
かっこ良くなって、緊張するのだろうか?
いや、表情が乏しくて何を考えているのか読めない独特の雰囲気が、緊張させるのか。
さっきも話を聞いているのかいないのか、1人別世界で食後のデザートを堪能していたと思いきや、喋り出すと饒舌だ。
ああ、だけどとメリルは気づいた。昨夜から今まで、メリルはサイモンと目が合っていない。どこかよそよそしく、心の距離を感じるのだ。
お姫様抱っこで走って逃げてくれたが、あれも荷物を配達する仕事人のような割りきった態度だった。
(そういえば会話もほとんどキース越しだし。私と話したのって「ありがとう」「どういたしまして」だけの気が。海で上着を貸してくれたときも、キース越しだったし。もしかして私、サイモンに嫌われてる!?)
「とにかく、キースがいてくれて良かったわ。安心する」
メリルの言葉にキースは自信を取り戻した。
「そうか、それなら良かった!」




