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田舎町のレストランで

空が白み始めた頃、キースは2人を起こした。漁船を出て、漁港を後にした。海沿いの雑草だらけの道を歩き、とりあえず飲食できる場所を目指すことにした。


「しっかし、田舎だなぁ。何処だここ」


睡眠不足でぼーっとした調子でキースがぼやいた。


「距離的に言うと、海に飛び込んだ地点から30キロくらいかな」


サイモンが答えた。こちらは短時間でしっかりと仮眠を取り、回復済みだ。


しばらく歩き、大通りに出て、レトロな造りの観光ホテルが建っているのを発見した。

一階がレストランになっているらしく、朝食バイキングの看板が立っている。宿泊客向けに早朝からオープンしているようだ。


入店した3人は、朝食を取りながら今後のことを考えることにした。

幸い、身に着けていた貴重品は失っていない。それぞれ幾らかの所持金はあった。


4人掛けのテーブルを陣取り、バイキングの料理を食べながら、話し合うことにした。


「まず、ここから帰るのは難しくないとしてーー電車かバスで帰れるだろうから、問題は『このまま帰って大丈夫か』ってことだよね」


サイモンが言った。


「だな。メリルの指輪を狙ってる頭のイカれた奴がいる。家に帰ればそこにやって来るかもしれないよな。同窓会のことまで把握してたんだから、家だって危ないよな」


キースが絶望した口調で言った。


「その指輪、渡して済むならなあー。どうやっても外れないってことは……アイツまさか指を切り落として持って行く気とか……?」


自分で言ったことを想像して、キースはぶるっと身震いした。

押し黙っていたメリルが口を開いた。


「私を殺す気よ。あの男が言っていたの、この指輪は持ち主が絶命しない限り外れないって。だから、私を殺して奪うつもりなんだわ」


メリルの言葉にぎょっとして、キースはサイモンを見た。

サイモンの視線はメリルの左手にじっと注がれていたが、弾かれたように顔を上げた。

こちらのテーブルへ向かって歩いてくる人物が視界に入った。


「みんな、無事で良かった」


ロイドだった。

3人と同じく、昨夜からの同じ服を着ている。田舎の港町に馴染まないドレスコードでありながら、どこかくたびれている。


「ロイド!」


メリルは思わず立ち上がり、抱きつきそうになったのを自制した。


「ロイドも無事で良かった、怪我はない?」


「うん、大丈夫だよ。キース、サイモン……2人でメリルを守ってくれたんだな、ありがとう。恩に着るよ」


「ああ、それはいいんだけどさ、俺たちがここにいるってよく分かったな。で、アイツはどうなったんだ? やっつけた? 逮捕した? もうメリルは安心していいのか?」


「いや、安心できない。俺も何とか逃げられただけで……。あの男はまた指輪を狙って来るだろう。だからなるべく移動し続けた方がいい」


「マジかよっ。移動し続けるって、逃亡生活みたいにか? メリルが? せっかく帰って来たばっかりだってのに、そりゃないぜ。逃げないで、警察に駆け込めばいいんじゃね? だよな?」


キースは正論を主張し、な?と男2人に同意を求めた。が、ロイドとサイモンの反応は鈍かった。


「警察は……残念だけど頼りにならない。軍の管轄になった」


ロイドはそう言い、レストランのテレビのチャンネルを変えた。

速報ニュースを伝えている画面に切り替わった。


『こちら、土砂崩れの現場です』


ヘルメットを被ったレポーターが写っている。

現場中継として映し出されているのは、昨日の国営ペンションがあった山だ。山道の入り口には立ち入り禁止のロープが張られ、ここから先は行けないとレポーターが伝えている。


そして映像が切り替わり、ヘリコプターで上空から撮った景色が映った。

山の斜面がごっそりと崩れ落ち、山道の中腹辺り一帯、なだれ込んだ土砂や岩や倒木で埋まっている。

ちょうどキースの車を乗り捨てて、海へと飛び込んだ辺りだ。少し遅ければあの土砂や岩や木に押し潰されていたのだ。


レポーターの緊迫した声が続く。


『山頂にある国営の貸しペンションは見えますでしょうか。こちらでは昨夜、高校の同窓会が行われていました。夜の9時頃にその会場を後にし、帰路に着いたと思われる男性3名、女性1名の消息が分からなくなっています。土砂崩れに巻きこまれた可能性があると考え、軍が現在、土砂の撤去作業と同時に捜索に当たっています。なお、その4名以外の同窓会出席者の無事は、全員確認できています』


ペンションにいた同級生たちの無事を知り、メリルたちはほっと胸を撫で下ろした。


「良かった! でも私たちが生存不明者になってるのね。早く名乗り出なくちゃ」とメリルが言い、


「メリルの家に連絡! 俺が責任を持ってエスコートしますって約束したのに、すげー心配かけてるじゃんか! やばっ」とキースが慌てた。


すぐにでも電話をする勢いの2人に待ったをかけたのはロイドだ。


「待って。家族に無事を知らせるのはいいけど、居場所は知らせるな。指輪を追っているあの男に――軍から情報が漏れる」


「は? どういうことだ。あの覆面野郎は軍の関係者か?」


ロイドは答えにくそうに頷いた。


「やっぱりか。俺、心当たりあるよ。あんな軍事兵器レベルの土の能力が使える使徒、そうそういないもんね」


サイモンが口を挟んだ。


「知ってるのか!? 誰だよ」とキースが尋ねた。


「ペレス元大佐。政治家になるために軍を辞めた。けど、立ちあげた政党は極端な政策で、国民の支持は得られなかった。軍時代は英雄扱いだったが、政治家としては成功せず、表舞台で見ることがなくなった人。『あの人は今』に出てきそうな、過去の英雄だよね。犯罪者に成り下がっていたとは知らなかったな」


饒舌に喋り終えると、サイモンは一人言のように「危険事案だな」と呟いた。


「そんな危ないオッサンが、何でメリルの指輪を狙ってんだよ!?」


「それは俺から説明する」


とロイドが言った。


「その話をするためにメリルに会いに来たんだ。キースとサイモンも巻き込んでしまったからには、聞いてほしい」


危険を伴う話らしい。キースはごくりと唾を飲んで、ああと頷いた。

 

「けどその前に、とりあえず家に電話を入れようぜ。みんな心配してるだろうから」


レストランの公衆電話からメリルは家に電話した。

すぐに母親が出て、メリルの声を聞いて心底ほっとした様子だった。ロイドに言われた通り「事情があって居場所は言えないし、すぐには帰れない」と伝えた。


「何、それどういうことなの!? メリル、大怪我してるとか、誰かに監禁されているんじゃないでしょうね!?」


「そういうことじゃないの。元気だし自由よ、でも、事情があって」


揉めているとキースが電話口でメリルと交替した。


「あ、もしもし俺です、キースです! 俺が付いてるんで大丈夫です。必ず無事に返しますんで、待っててください。ほんとすみませんっ、でも絶対メリルのことは守りますから! メリルは何も悪くないんで、帰ったら俺が土下座します!」


そう一方的に言って、電話を切った。



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