地割れ蛇
メリルはキースに向かって駆け出した。
わけが分からないが、逃げなければ殺されるということは理解した。
無我夢中で走っていると、地面にどんっと大きな衝撃が響いた。足元が揺らぐ。
震動が伝わってきた方向へ振り向くと、ロイドと目だし帽の男が視界から消えていた。
2人のいた辺りが、まるで蟻地獄のようにぽっかりと半球状に窪んでいる。その中心から放射状に地割れのヒビが走っている。
そのヒビはまだ走っている最中だ。まるで生きている蛇のように地面を這ってくる。ボコボコボコっと地割れを起こしながら、メリルを追ってくる。
転びかけたメリルを抱きとめたのは、キースだ。
「わっ、な何だこれっ」
キースもパニックだ。一体何が起こっているのか理解が追いつかない。メリルを守ることが最優先だとは分かった。
メリルの手を取り、急いで車を停めてある駐車場へ向かった。しかし追ってくる地割れ蛇は執拗だ。
「きゃっ」
「メリルっ、大丈夫か!? 俺に掴まれ」
「俺が運ぶよ」
すぐ後ろで声がして、振り向くとサイモンが立っていた。
2人は目をみはった。
この騒ぎの中、地割れが走っている中、どうやってここへ来たのか。涼しい顔をして立っているサイモンを凝視した。
「運ぶって、えっ?」
聞き返したキースに「猶予はない。急ごう」とサイモンは言い、メリルをひょいと両腕で抱き上げた。
メリルを軽々とお姫様抱っこしたサイモンは、長い足でゆっくりと走り出した。
「キース、車すぐ出せるようにキーを用意しといて。ていうか持ってる?」
呼吸を乱すことなく、併走するキースに話しかける。超人のようなサイモンに成り行き上お姫様抱っこで運ばれているメリルはじっとそうされながら、ひどく驚愕し混乱していた。
「持ってる。キーも財布もポケットに」
「ナイス」
ペンションから少し離れた場所にある駐車場まで辿り着いた。
サイモンはメリルを下ろして、車の後部座席に乗せると、自分は助手席に乗り込んだ。そして運転席のキースに早く車を出せと急かした。
「あ、ああ。お前も一緒に?」
「えっ駄目?」
「いや、駄目じゃない」
「ねえ、ロイは!? ロイを置いて行って大丈夫?」
メリルの問いかけに答えたのはサイモンだ。
「ロイドがアイツを足止めしてくれてる。だからその間に逃げなくちゃ。ロイドの踏ん張りが無駄になる」
「アイツって? 一体何が起こってるんだよ」
キースがわめいた。
「ヤバイ奴だよ。とにかく今は逃げるが勝ち。ロイドなら大丈夫。軍人で能力者だよ。そう易々とやられない」
考える暇はなかった。しつこく追ってきた地割れ蛇が駐車場までやって来たのだ。しかも先程よりパワーアップしている。
走ってきた道は舗装されていない地面だったが、アスファルト舗装されている駐車場をバキバキに破壊しながら這ってくる。
慌てて車を出したキースが峠を下る。地割れ蛇はしつこく追ってくる。
キースのドライビングテクニックは、アクション映画さながらだった。
峠のコーナーに差しかかると車のリアがきゅるるると横滑りする。ドリフト走行だ。メリルの悲鳴が上がる。
「ちょちょちょ、キースっ」
「大丈夫、運転は任せろい!」
そう言ったそばから、車が上下に跳ねた。ものすごい衝撃と共に破裂音がした。タイヤがバーストしたのだ。車体は大きく傾きぐるっと横回転し、山肌に激突する寸前で止まった。
死ぬかと思ったメリルだったが、九死に一生を得た。3人揃って大きく息を吐いた。
「まずい。みんな外へ。車は捨てよう」
サイモンが言った。




