ロイドの急用
女性陣に囲まれているサイモンを横目に、メリルはキースと友人たちの輪にいた。
キースは友人のジェレミーに近況報告をしている。
「……ってわけでさ、今はこっちで暮らしてるんだよ。もうすぐ仕事開始。だりー」
「いいじゃん、二ヶ月もゆっくりしてたんだろ。転職して公務員かよ、羨ましいぜ」
キースが就職したのは、ドノイにある国有地の管理と整備をする公共事業団体だ。
我が国の領土はすべて国が所有しているため、管理に携わる公的機関は規模が大きく、各地方にある。
僻地の国有地は特に整備もされず、空き地として放置状態らしいが、ドノイほどの中都市になると放置する土地もなく、管理事業団体の仕事も多岐に渡る。
「けどお前、まだ結婚してないのか」
「ああ、なんでだろうな。そこそこモテんだけどなあ」
他人事みたいに首を傾げるキースに、リズが口を出した。
「私その理由知ってるわ。メリルのことが好きだからでしょ。初恋をずっと引きずって、どの女と付き合ってもやっぱり違う、俺にはアイツしかいねえって思うパターン」
「はあぁ? 少女漫画の読みすぎで、頭沸いてんじゃねーの?」
「わぁ図星だ! 図星さされて逆ギレしてやんの」
リズがけらけら笑って、手にしていたグラスワインをぐびぐび飲んだ。
「この酔っ払いめ。シラフの身にもなれっての」
「けどさあ」
とジェレミーが口を挟んだ。
「いいんじゃない? お前とメリル、この際付き合っちゃえば。お互いフリーなんだろ。家が近所で仲良くて、親とも仲がいいとか最高じゃん。結婚相手として」
「そうそう! いい、いい。付き合っちゃえよー! どうなのメリルさんっ」
リズがメリルに肩をぶつけてきた。酔っ払いは力加減を知らないため、メリルはよろめいた。
「いやいやいや、それはないよー。私たちただの腐れ縁で、そういう対象じゃないもん。ねえ」
毎年国が発表している平均初婚年齢は、23歳だ。それを上回ってなお独身で、恋人もいない同級生を心配してくれる気持ちは分かるが、余り者がちょうど目の前に二人いるからくっつけばいいという考え方は多少強引だ。
メリルのキッパリとした拒絶に、キースも同調するかと思いきや、妙にしみじみと頷いた。
「そうかあ、やっぱそうだよなあ……」
「やーい、振られてやんの」
「はあ? だから、そんなんじゃねーって言ってんだろが」
キースとリズがやりあう中、周りの雑談がぴたりとやんだ。
女性幹事のアマンダの慌てた声が響いた。
「えっ、ロイ!? ごめん、来るって聞いてなかったかも!」
驚いたメリルは声の方を見た。今来たばかりらしい、ロイドがアマンダと向き合っている姿が見えた。
「急にごめん、来ないって言っておいて。急用なんだ、メリルに。あ、これ会費」
戸惑っているアマンダに、財布から抜いた紙幣を押しつけるように手渡すと、ロイドは一直線に歩いて来た。
その表情はとても険しい。
「どうしたんだよ、ロイ。お前、今日来ないって……」
目の前までやってきたロイドに、キースが咎めるように言った。
「悪い、ほんと急用なんだ。ちょっといいかな、メリル」
メリルは硬直していた。うんともすんとも声が出ない。
(どうしてわざわざロイが。私に急用って)
妻とは別れた、よりを戻そう。
言うはずもないロイドの台詞が頭に浮かぶ。まさか、そんなはずはない。
「何で今だよ、同窓会だぜ」
キースが押し殺した声で言い、ロイドを睨みつけた。リズもジェレミーも固唾を飲んでいる。
「大事な用なんだ。すぐ済む。メリル、ちょっとだけ外で」
メリルは顔を強ばらせたまま頷いた。
「じゃあ俺も行く。今日俺、こいつの保護者だから」
「キースはここで待ってて」
「だってお前、大丈……」
「大丈夫。すぐ戻るから」
キースの心配顔にメリルは微笑んだ。
ロイドの用件は分からないが、その表情を見る限り、浮かれるような話でないことは確かだ。




