蛇足 武官のダイク その2 魔法学園
まず皆さま申し訳ありません。
昨夜PCがおかしくなりまして、予定していた投稿ができませんでした。
これからPC修理に出します。
武官のダイク編、長いため分けたいと思います。
※上記の前書きと後書きは、最初に発表した時のものです。令和3年10月に加筆修正した内容とは合っておりません。懐かしいのでそのままにしてあります。ご了承下さい。
卒業パーティの控の間で、ジョアン第一王子付の護衛、ワーウルフのダイクがジョアン王子が婚約破棄を考える一因となった過去の戦争について回想しております。
それではどうぞ。
ところで何で魔法学園の卒業パーティが王宮で開催されるのかというと、ジョアン殿下とジャルラン殿下、ニールセン王家の2人の王子が魔法学園に在籍してるってのもあるが、実際デカい理由は魔法学園がアレイエム王国の国家プロジェクトだからという理由だ。
魔法。
王族、貴族や富豪、高位の聖職者、教職者など一部の者しか使えないと言われている異能。
そう書くと非常に稀で強大な力に思えるが、実際は大したことがない。
火を燃えやすいものに着火したり、コップ1杯分の水を作り出したり、1m程度の幅の土くれの塊を出したり、一瞬帽子を飛ばして人をよろめかす程度の風を起こしたり。 その程度だ。
しかも、1回あたり数秒間しか使用できない。連続使用も普通10回程度。それ以上使おうとすると使えないことはないが、ひどい頭痛やひどい脱力感に見舞われる。
教会に記録が残っている最も古い時代以前からこの魔法という力は存在していたらしい。
だが、実に大した力じゃない。火を着ける魔法を例にとってみよう。火を起こしたり着けたりするのには便利。古代の頃、洞窟で人間が暮らしてた頃なら相当便利だっただろう。
でも活用する場面が貴族の生活でどこかと言われると、本当にうっかり者の使用人が完全に火種を消してしまって、また火打石や加圧着火装置で付け直さないといけない時に、主人である貴族が猛烈な叱責と引き換えに魔法で替わりに着ける、くらいしかない。
ああでも、タバコのパイプに火をつけるのはやりそうだな。俺は吸わないんでわからんが。
それ以外はないだろう。屋敷のランプは使用人管理だから主人が着けて回る必要もないからな。
使えるとしたら戦争の時に風を起こして敵の矢を逸らすことくらいだったか。でも風の範囲はそんなに広くなく、横列に並んで突撃する自軍全体はカバーできない、せいぜい指揮官の貴族と周囲の近衛の範囲くらいだ。
だから少し前まではどの国の王族や貴族の間でも魔法なんて大した力じゃないと言う認識が大半だった。
俺の仕える主のジョアン=ニールセン殿下が、排泄後の処理のために水魔法洗浄と風魔法乾燥を思いつくまでは。
それまで使われていたシットスティックに変わって大便後の後始末に魔法を使うというのを広めた結果、貴族階級の魔法を使える者全てがこれを行うようになった。
俺もやってるかって?
狼人間の俺は、実は人族とは違って排泄後肛門周りが余程の下痢でない限り汚れないんだ。尻の構造が違うんでな。
つまり下痢の時には使ってるってことさ。
殿下が実用的な使い方を思いつくまでは、魔法を有意義に使えていたのは教会くらいで、それも聖職者が着けた聖なる火だの、聖職者が作り出した聖水だの、ぶっちゃけ信仰を集めるためのパフォーマンス。聖水なんて言っても単なる水だ。
とまあそんな訳で長いこと国というか王族貴族は魔法なんて見ちゃいなかったが、教会は信仰集めのパフォーマンスに使えるため、魔法については自分達だけで独占しようとしていた時期が過去にあった。
今から900年前から60年くらい前までの、文化が停滞し病の流行が止まらなかった暗黒時代と呼ばれていた頃だ。戦争、疾病、様々な理由で人がバタバタ死んだ。流行り病が本当にヤバかったらしい。全滅した村だってアレイエム王国内だけでも幾らでもある。
貴族にとっては領地を支える小作人を中心に生産人口がバタバタ死んで、自分たちの領地経営が難しくなったが、教会にとって不穏な世相は信者獲得のいい機会。魔法を使ったパフォーマンスがまあ各地の教会で盛んだったし、わざわざ地方まで巡業してパフォーマンスしていたらしい。
そんで野良で魔法を使う奴がいると教会の権威が損なわれる、ってことで村だの町だので魔法を使う信徒以外の奴を魔女って呼んで迫害した。
暗黒時代の教会にはひどい実験をした記録があり、捕らえた魔女を拷問して、魔法を連続使用するとどうなるか確かめたそうだ。20回を超えたら全身にしわが寄り体がしぼんだようになり、30回に届く前に干からびたようになって息絶えたそうだ。
最悪だな。
まあ教会も自分たちのしてきたことが果たして神の御心に適っていたのか、って言いだす奴らが司教だの神父だのから出てきて、分裂騒ぎになった。結果今は幾つかの宗派に分かれてるが、大雑把に言って改革派と本道派に分けることができる。
アレイエムでは改革を叫んでた方が優勢だ。国王はじめ多くの貴族連中が一応帰依してるからな。王都の教会も改革派の教会だし、地方の教会も殆どがそうだ。
そんな訳で、長いこと教会のパフォーマンスのタネだった魔法だが。
各国の魔法に対する認識が大いに変わる出来事があった。
ジョアン殿下の考案した日常生活で使う奴じゃない。
もっと国としてこの力を運用しないといけないって認識に変える出来事が。
具体的には戦争だ。
エイクロイド帝国の躍進。
エイクロイド帝国は今や我がアレイエム王国の宿敵だ。
元々このネーレピア西部を含む広大な領域を治めていたのはエイクロイド帝国だったのだが、北方からの異民族の侵入の際の防衛で、各地の司令官だの傭兵だのに土地を与えて自前で兵を養えってことにしたそうだ。
防衛戦をなるべく東北部マル山脈で行い、最悪侵入されても司令官だの傭兵だのの土地までにしてエイクロイド皇帝の居住する現エイクロイドの領土が荒らされないようにって思惑もあったみたいだが、結果的にこれは下策だった。
防衛戦終了後、各地の領主や傭兵が次々に独立して新たに国を建てたからだ。
俺達のアレイエム王国も傭兵隊長ニールセン家を中心に、名のある傭兵だのエイクロイドの部隊長だのが連合して建国した、その時独立した国の一つだ。
こんな建国の経緯だったから、元からアレイエム王国とエイクロイド帝国の関係は良くはなかった。
ただ、ある程度長い時間が流れる中で、それなりの付き合いはするようになっていた。
そんな中、今から13年前の1755年。
エイクロイド帝国の皇帝、エドモン=バーナビーとその一族が処刑され、エイクロイドは皇帝が治める帝国から、有力者が協議して国を運営するって形の共和国って政体になった。
周辺諸国は全て皇帝や王が治める国ばかり。「国を治める」ということをしたことがない者たちの寄り集まりで、皇帝や王の権威を否定し国際秩序を破壊する異端と見られたエイクロイド共和国は、その思想を自国にまで伝播させられてはたまらんと考えた周辺諸国から危険視され、攻められることとなったんだ。
当然我がアレイエム王国も周辺諸国と歩調を合わせてエイクロイド共和国に攻め込むつもりだった。だけど、当時エイクロイドとの外交実務を担当していたとある公爵が断固として反対し、エイクロイドに接する自分の領地を封鎖するとまで言い出した。
そのためアレイエム王国は出兵の機会を逃してしまった。
エイクロイド共和国には一人、軍事の天才がいた。そいつは周辺諸国の侵攻を各個撃破しエイクロイド共和国政府内で確固たる地位を築いた。
名誉だの権勢だのカネだのをいたずらに欲しがる烏合の衆の共和国政府の中で、軍の絶大な支持を得たそいつは大きな発言力を得た。
他の有象無象が足を引っ張ろうと暗躍していたみたいだが、実質軍を握っている上、救国の英雄として民衆には絶大な人気があるそいつは、それらを背景に共和国代表になった。
そいつは各国の侵攻を撃退し、共和国代表になったところで政変直後エイクロイドに侵攻してきた隣接国に懲罰戦争を仕掛けた。
まずはエイクロイドの隣国のサピア王国。サピア王国はエイクロイドが侵攻すると抵抗らしい抵抗もせず2か月で降伏した。(1757年)
次はトリエル王国。こちらはマル山脈南部の狭隘部から侵攻せねばならない関係上、サピア王国ほど電撃的な決着とはならなかったが、強大な陸軍兵力によって着実に領土を削り取って行き1年半で国土全体を制圧。トリエル王らは都市国家連合の盟主的な都市オーエに、オーエ教に保護される形で亡命した。(1760~61年)
エイクロイドは都市国家連合には手を出さなかった。というよりも出す必要が無かったと言うべきか。都市国家連合は各都市国家ごとにエイクロイドに従属を申し入れ、エイクロイドはそれを受け入れた。
都市国家連合の中でもオーエ教の総本山である都市国家オーエだけは従属の申し入れはしなかったが、エイクロイドも都市国家オーエは尊重する姿勢を見せた。
広くネーレピアで信仰されているオーエ教を敵に回すのは得策ではないとそいつは判断したんだろう。
その間我がアレイエムは何をしていたのかというと、対エイクロイド外交を一手に担う公爵様が独自に動き、ほぼアレイエム王家に事後承諾させるような形で不戦協定を結んでいた。
最も他の周辺諸国もエイクロイド共和国政府樹立直後の侵攻を撃退され敗北した後は不戦協定をエイクロイドと結んでいたから、アレイエム王国だけ非難されるようなものでもない。ただ、周辺諸国からは最初のエイクロイド侵攻を躊躇った上、一番最初にエイクロイド共和国政府と不戦協定を結んだことから、かなり不信感は持たれたみたいだ。
エイクロイドがサピア王国に侵攻した次々年1759年、アレイエム王国も国内のとある騎士団の反乱を契機に北方の隣国テルプ王国と戦端を開くことになった。
これは1年掛からずアレイエム王国の勝利に終わった。この時も俺たちにとって色々あったが、それはまあ置いておく。
一つ言えるのはテルプ王国だった土地を治めるのに難航し、しばらくアレイエム王国は隣国に援軍を出すような余裕が全く無くなっていたってことだ。
そのためエイクロイドのトリエル侵攻については黙認のような形になってしまった。
そして1763年。
エイクロイド共和国は、圧倒的な民衆の支持を得た共和国代表を皇帝に推戴することを国民議会で決定した。
エイクロイド共和国は再びエイクロイド帝国になったんだ。
皇帝の名はポルナレフ=ボンバドル。元は砲兵士官だった男が遂に戦争の腕一つで皇帝に上り詰めた。
それに合わせるかのように、我がアレイエムの対エイクロイド外交実務を一手に担っていた公爵様が、自分の寄騎や周辺の領主も誘い突如としてエイクロイド帝国に寝返ったんだ。
その公爵様の領地はエイクロイドとの国境にある重要な領地だった。エイクロイドとの国境線はリルズ河って河で、この河が天然の濠の役割をしていて互いに直接兵を送って侵略するのを難しくしていたんだが、公爵様が寝返ったことでリルズ河を渡った地にエイクロイドが橋頭保を得たって形になっちまった。
そこを奪回するためにアレイエムはその時動員できる最大の兵力で挑んだが、皇帝ポルナレフ=ボンバドルの前に散々に敗れた。
その時のエイクロイド帝国の軍が、士官だけでなく兵にも魔法を使える者を多く配置し、それを有効に活用していたのだ。
我がアレイエム王国にとっては、アレイエム本土に侵攻され喫した敗戦の屈辱と共に、それまで取るに足らないと思っていた魔法の重要さを深く刻みこまれたんだ。
さっきブルーノと少し話してた戦いってのが、それだ。
歩兵がぶつかり合い弓兵が矢を降らせ、騎士が突撃し切り崩す。
そして敵の指揮官である騎士を討ち取る、捕らえる、退却させることで勝敗がつく。
これまでの戦争は、規模こそ大小の違いはあるが、ほとんどはそうした形で決着がついた。
だが、エイクロイドは違った。
正確には一部が違った。
違った一部が何かというと、エイクロイド帝国の皇帝直属軍だ。
奴らは、それまでの戦争の常識を変えた。
攻城戦の時にしか威力を発揮しないとそれまで思われてきた大砲を軍の中心に据え、野戦で使ってきたのだ。
大砲は一発打つと次の弾を撃つのに非常に時間がかかる。
正確に大砲で連撃するには、一発撃った後、反動で後ろに下がった大砲を乗せた運搬車ごと元の位置に戻し、筒内の煤を払い、火薬と砲弾を詰め直し、ズレた仰角を調整し、導火線に点火し発射する。これだけで結構時間がかかる。
その上複数の大砲を並べて運用するとなると、上記の一連の作業を行ったとしても、前回発射した時に上がった火薬の煙が滞留しているので、煙が晴れないと正確に距離を測って発射できない。
そのため次弾の発射が熟練兵で3分強、平均で5分かかる。
そんな訳で大砲は攻城戦では大いに使えるものの、野戦では主力になりえない。各国の認識はそんなものだった。
そんな大砲の運用をエイクロイド皇帝ポルナレフ=ボンバドルは、魔法を組み合わせることで劇的に変えた。
言われれば何だそんなことかよってくらい単純な話だが、大砲筒内に風魔法で風を吹き付け煤を払う時間を短縮。火薬の着火も導火線ではなく火薬に直接火魔法を用いて着火。それで次弾発射までの時間を短縮したのだ。
我が国南方のトリエル王国侵攻戦の時点ではエイクロイド帝国の各部隊が数門引っ張って行った大砲を、魔法を組み合わせた運用で平均2分に1発の高速射撃で砲撃の連撃性を高め、野戦での使用に自信を深めていたが、我が国への侵攻作戦時には500門の大砲を一斉運用するという常識破りな運用を見せた。
500門の大砲が吐き出す視界を遮る煙も、風魔法で吹き飛ばしあっという間に視界を晴らすのだ。
戦場で血風を巻き起こすためにエイクロイド皇帝直属軍が用意した魔法使用者の人数は、筒内清掃、煙払い、着火と各大砲に3人と計算しても1500人はいた。多分魔法使用回数を考慮して予備もいただろうから3000人以上だ。
我が国の貴族やその家族を総ざらいした人数の半分は軽く超えている。
当然エイクロイドの砲兵全員が貴族のはずはない。貴族は軍、部隊の指揮官に多く取られているはずだから、砲兵の大多数が平民のはずだ。その事実が脅威だった。
このために敗戦後、我がアレイエムも魔法使用者を貴族平民を問わず多く見出さなければならない、と認識を大きく変えざるを得なくなった。
それで国立魔法学園が設立されたんだ。
元々は大学校っていう、いろんな研究が出来て高度な教育を目的とした学校を作る予定地だったところに急遽王都アレイエムを遷都し、大学校も魔法学園に変更したらしい。
平民でも魔法を使えるようになるってのは前々から一部では知られていた。
昔は理由がさっぱりわからず、貴族と体の関係になれば使えるようになるんじゃないかって思われてたらしいが、今となってはお笑い種だ。
単純な話、要するに食い物が良くなれば平民でも魔法が使えるようになるんだそうだ。
ジョアン殿下とリューズっていうエルフの娘が、フライス村で生活してる時に村人の食事情を改善してった時に気づいたんだそうだ。
殿下とリューズが言うには貴族は小麦、肉、野菜、魚ってまあまあバランスよく食事で体に必要な栄養が必要な量だけ摂れてるけれど、平民はどうしても麦と一部の野菜に偏るから、栄養が足りておらずそれが原因で魔法を使える状態に体がならないってことらしい。
最も食い物が良くなっただけじゃあ魔法を使うための最低条件を満たすだけってことみたいで、何でも色んな知識が多ければ多いほど魔法を使う際、イメージしやすさに繋がって使いやすくなるってことだ。
フライス村で殿下のお付きのメイドをしていたピアさんって女性、元々は孤児院で育った平民だったのに魔法が使えるようになったんだが、フライス村で食べる食事が良くなったってことと、仕事の合間に現在の旦那のドノバン先生に教わって勉強していたことが理由なんじゃないかってリューズが気づいたみたいなんだな。
だから「魔法学園」というものを作ったんだそうだ。
魔法学園は全寮制だから、食事もバランスのいいものが学校の食堂で出される。
それで学ぶ学問は魔法についてだけではなく、幅広い学問を教えている。
国家の方針で、この学校から多くの魔法使用者を送り出すってのが目的なんだ。
ただ、1,2年目は王家の王子が入学するってこともあって、平民よりも貴族家の子弟が多く入学した。
まあ平民にとっては入学金と学費の金貨6枚がなかなか工面できず敷居が高いようだが、受験者を公募し行われる入学試験で成績上位になった平民は特待生として学費は王家持ちで入学できる。3年目は特待生の枠を大幅に拡張したため、3分の1は平民の学生が占めている。本来の目的に近づいたってことらしい。
あと、この魔法学園は元々色々な研究を行うための大学校として作られようとしていた名残りなのか、色々な研究者が講師として所属し様々な研究も行われている。
ジョアン殿下と一緒にフライス村で生活していたエルフのリューズって娘は、実際の年齢はジョアン殿下と一緒なんだが知識量と魔法の腕が半端なく、講師兼研究者として魔法学園に在籍している。
今はミオ=リューズって名乗っているが、リューズの主な研究テーマは医学だ。フライス村では俺と一緒に狩りをしたり獲物を捌いたりしてたんだが、それも役に立ってるって言ってたな。
他にも何を研究してるんだかわからない、俺からすると得体の知れないイグライドから何かやらかして逃げて来たっていうスチュアート=ブランドンて奴。
何でか知らないが殿下はウマが合うみたいでよく研究室に入り浸っている。たまにリューズも来て一緒に何かやっていた。
ちなみにブランドンの授業は不評らしい。教える気がないようだ。
学校長のアルバート=コナー子爵が注意や訓告を与えてもどこ吹く風らしい。コナー子爵とブランドンはイグライドの頃からの旧知ってことだが、昔から偏屈で知られていたそうで、コナー子爵が殿下にこぼしていた。
生徒付きの護衛も希望すれば授業や研究は傍聴できるんだが、俺みたいな獣人は学問を身に付けなくとも生まれつき魔法みたいなもんが使えるから関係ないっちゃないんで殿下がブランドンの研究室に行ってる時は暇で仕方なかったから、やっと殿下の卒業で縁が切れるってのは俺に取っちゃ嬉しい。
そう言えばブランドンの研究室から出て来たリューズが何か言ってたことあったな。何だっけ、ハンスの野郎に聞いてみるか。
「ハンス殿、ブランドンの研究室から殿下とリューズが出てきた時、何か言っていたのを覚えておられるか」
くそう。他の護衛だの侍女だのがいると、どうもいつもの調子が出ないぜ。
何で俺はハンスにこんなバカ丁寧な喋り方をしてるんだ? まったく。
「ダイク殿。私が覚えている範囲では、確か貴殿のような獣人と、類似した種族、例えば狼との差異について語られていたのではなかったかな?」
ハンス、お前もいつも通り喋れよ。
本当、調子狂うな。
まあ、コイツは絶対面白がってやってるんだろうが。
30近くにもなってホント変わりゃしない。
ああ、そう言えばハンスが言うとおり狼人間と狼の違いって言ってたな。あんまり気にしたことなかったから忘れてたわ。
リューズが言うには狼人間と狼の違いって、結局2足歩行が出来て言語が喋れるってことだけど、決定的に違うのは狼よりも狼人間の方が人族の食べ物を食べられるように進化してることだって言ってたな。
狼が食うと血の中の成分が壊れるタマネギとかニンニクとか、酒もそうだったな。それが狼人間は飲み食いできるから何ちゃらって言ってたわ。
山猫と山猫人間の違いもそうで、猫が食べられないネギ類やワカメとかを山猫人間は食べられるって言ってたんだ。
結局人間の食い物を食べられるようになったから2足歩行と言語が喋れるように進化したみたいなことを言ってたんだったかな? 元の種族の特徴は残したまま。
確かに俺は雪狼とコミュニケーション取れるし、山猫人間で今はフライス村の警備騎士になってるフェリも山猫とコミュニケーションは取れてるからな。
それで元の狼や山猫とかも「瞬足」って身体強化の魔法は使えても他の魔法は使えないが、狼人間や山猫人間は他の魔法も使えて、それが知識だったか自己認知だったかに依存してるからどうって話だった。
まあ深く考えなくても使えるものは使えるでいいって思うけどな。
しかしフライス村の頃からの仲間のリューズがそんな小難しいこと言い出すのも、ブランドンが変なこと吹き込んだからだろうな。
まったく何研究してんだか知らんが、変なことを吹き込むのは止めてほしいぜ。
ブランドンは今日の卒業パーティにも出席してるみたいだから、殿下もコトを起こす前に最後に別れの挨拶をバシッとブランドンに決めてくれ。
リューズは今年度の講義を終わらせたら、その日のうちに実家に戻ってったから今日の卒業パーティは不参加だが、リューズの両親もそろそろ娘離れしてやってもいい頃合いなんじゃねーのかね。
続く
とういうわけでその2でした。
その3は今日の夕方投稿予定です。
ですがPCの調子次第では明日になるかも知れません。